解散したお笑いコンビのツッコミから、あるファンへの手紙

萌木野めい

ラジオネーム「はるさめペンギン」さんへ。

 こんにちは。ありすとてれすのツッコミの三島です。

 僕らがレギュラーのラジオはとっくに終わってますけど、このラジオネーム「はるさめペンギン」さんが呼び慣れてるので、あえて使わせて下さい。


 ご存知の通り、お笑いコンビ「ありすとてれす」は2022年3月14日をもって解散しました。17年の長きに渡る応援ありがとうございました。

 せめて最後はファンレターに返事を書こうと思って筆を取りました。

 こうして僕が手紙を書くのは、きっと一生で一度だろうなと思います。だって今どきLINEとかあるのにわざわざ手紙なんて書かないじゃないですか。せめてものお礼です。


 あと、このタイミングでは最早言い訳でしかありませんが、ファンレターに返事を書かなかったことには理由があります。

 ファンレターに返事を書く暇が無いほうが、売れてるっぽいじゃないですか。まあ、はるさめさんはありすとてれすのスケジュール全部把握してもらってると思うんで分かると思いますけど、最近は正直めちゃくちゃ暇で1000通位余裕で返事書けそうだったんですけどね。でも、書きませんでした。最後まで売れてるって思いたかったんですかね。そんなんで、返事が解散後になってしまいました。


 はるさめさんにもらったファンレターが、ダントツで多いですね。これもまじでめちゃくちゃ申し訳ないんですけど正直な所を言うと、売れだした直後くらいの時はその量のあまりの多さに怖くなってた時もありました。すんません。でもそれは今では僕たちの漫才がすごい好きでいてくれたってことだと理解してます。


 一番のファンで居てくれたはるさめさんにだけ、解散についての率直な僕の気持ちを書きたいと思います。両親でも相方でもマネージャーでも芸人仲間でもTVや劇場関係の人でも無い、ただ切実にありすとてれすを応援してくれたはるさめさんなら少し分かってもらえる気がしたので。


 内容は一芸人のダサくて一般的な挫折ですけどね。あとこの手紙をTwitterとかで晒されたら僕はとてもショックですが、まあ、その程度の人間だったってことで腑に落ちると思います。コンビが解散した今、僕が持っていたものは全部無くなりました。だからそれくらいやけっぱちな気持ちでもあります。やけっぱちで死んだりはしませんけど。


 もう七年も前なんですね。グランプリに出たのは。

 年齢制限的に最初で最後の出場だったグランプリで五位だった時から僕と相方の間に亀裂が入り始めました。世間の評価と同じく、僕もありすとてれすは相方の鹿山の才能で成り立ってることは分かってます。ネタ書いてるの全部相方ですし。それでもいつも僕のキャラを面白い、最高と言ってくれるはるさめさんの励ましが身に滲みて分かるようになったのもこの時期からでしたね。


 グランプリの後徐々に仕事が減りだした僕らは、なりふり構わず仕事があれば何でも受けようという僕と、ショッピングモールなんかは出ない、ちゃんとした劇場やテレビ番組以外は断ろうという相方の間で考え方に差が生まれ始めました。渋々僕は相方に従いました。繰り返しになりますが、ネタ作ってるのは相方ですから。

 僕と相方は暇になった時間をコンビニでバイトしながら昼は出番がある時だけ劇場に出てました。

 でも芸人としての仕事は目に見えて減っていきました。最終的に僕たちの芸人としての月収は二万位でした。コンビなんで一人一万です。


 そんな時、正に晴天の霹靂というべきオファーがあったんです。相方の地元ローカルTV局の看板番組のレギュラーです。僕は思いもしなかったオファーに飛び上がって驚きました。それで更に驚いたのは、そのオファーが相方だけだったことです。


 実は相方は、実家が地元でかなり有名な和菓子屋なんです。大地主でもあって、権力あるらしくて。俺に隠れて親父のコネをゴリゴリに使ってそのレギュラー枠を手に入れたらしいんですよね。

 で、相方はありすとてれすとして、コンビでのレギュラー枠を頼んでたらしいんですけど、相方の親父からすると僕は「一人息子をたぶらかして芸人にした奴」らしくてなんか知らん間にめちゃくちゃ恨まれてるんですよ。で、和菓子屋の宣伝になるということで相方だけが採用されたそうで。ウケますよね。


 相方は「和菓子屋を継ぎたくなくて芸人になった」って言ってたんですけど。

「結果お前、間接的に和菓子屋継いでるやろ? これベースにしてお前が得意な世間の皮肉ネタで一発書けや」と思いましたけど、それは言えずに終わりました。


 それが言えていたら、僕達は変われたのかもしれない。

 そう思って夜眠れなくなることが、未だにあります。でも、僕はそんな事を言えるほどのタマは無かったんで。それが僕の芸人としての小ささなんでしょうね。人間としての小ささかもしれません。


 その件があった直後に一度相方と会って「解散しよう」と話して。若手の頃にいつもネタ合わせしてた河川敷でです。僕らの鉄板ネタ「野良犬乱入!」は、この河川敷でリアルに野良犬に追いかけられた時に出来ました。

 最後にしたその話は15分で終わりましたね。僕らの17年は15分で終了。せめて17分で終了すれば良かった。ここは笑う所ですよ。


 それからは鹿山とは全く連絡は取らずです。


 こうして書くと本当に一般的でダサい僕の芸人人生でした。こんな奴は芸人界隈にはコピペのように幾らでもいます。


 僕はダサくて一般的でどこにでもいる、夢を挫折した35の男です。これからは何も考えていません。そのままコンビニでバイトしています。


 相方の才能に便乗してただけの凡人が、芸人になるなんて壮大な夢を目指していたこと自体が間違っていたのだと思います。

 ありすとてれすの三島については、大体同じ意見がTwitterとかに幾らでも書いてあります。

 本当なら腹を立てる所でしょうが、僕は「全くその通りだ」と納得して頷いてしまいました。


 でも、一つだけ言わせて下さい。

 僕は今までの芸人人生に後悔は全くしていないんです。


 もし僕が芸人であることを後悔していたなら、それはありすとてれすの一番のファンで居続けてくれた、はるさめペンギンさんに最も失礼な行為だと思うのです。


 この手紙で一番伝えたかったのは、ここです。


 僕は今の状態がこんなでも、ありすとてれすの三島でいられて、良かったと思う。芸人が結局向いてなかったというのは身に滲みて分かったけど、大好きだったんですよね、相方と、ステージに立つのが。自分たちの渾身のネタで、お客さんに笑ってもらうのが。

 大好きだったから17年も続けてこれたんですよ。


 まあ、漫才大好きとか、相方が居てくれて良かったとか、これも芸人辞める奴のコピペみたいな意見です。分かっています。何処にでもあるいい話です。

 それに、これから生きていく上で「ありすとてれすの三島」であったことが役に立つとは思えません。


 僕はコピペみたいな薄っぺらい人間で面白みに欠けるので芸人では生計が立てられませんでした。相方は僕とは違って才能もコネもあったので芸人を続けてます。


 改めて書くとすごいな。僕、終わってない?

 それでも、後悔していないのは本当です。


 伝えたいことが書けたので、ここでこの手紙は終わります。


 最後にオチをつけたほうがいいんでしょうけど、もう芸人じゃないので勘弁して下さい。すんません。相方なら上手いことやれたんでしょうけど。


 今まで、本当にありがとうございました。


「野良犬乱入!!!」


 ありすとてれす 三島

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