「読んだ」ではなく「読まされた」


草食ったさんの作品は短編を普段読ませていただいていて、その描写能力の高さや物語の構成の上手さを存じ上げていました。
その草食ったさんの長編を読んでみたいと思ったのが本作を読んだきっかけでした。

感想を一言で言うと、「怖かった」になると思います。
描写的にゾッとするシーンはあるのですが、そこではなく、「凄い」とか「感動した」とか賞賛を通り越したところにある怖さです。
その怖さの正体は、語り手にあまりにも感情移入をさせられたことだと思います。
淡々と描写されるので、語り手の感情がパッと見は希薄に感じられるのですが、それは見かけだけで読み進めるほど語り手の内面には表には出せない感情が重々しく蠢いていることが分かります。

家族を喪ったことの寂しさ、孤高ゆえの孤独、絵を描く者としての行持、他者への羨望。
そして、思い人への複雑な愛。
主人公の中でせめぎ合っている幾重もの感情が、淡々と描かれることで、抵抗感なくするすると読まされます。
物語の構成も見事で、毎話の続きが気になって仕方が無いので尚更です。

結果的に一気に読まされてしまったのですが、読後は「ああ、読んでよかったな」と素直に感動できるのも素晴らしいと思いました。
複雑に絡んでいる語り手と相手の関係を見事に描ききっています。

いま連載中の長編も読ませていただこうと思います。
とても素晴らしい作品をありがとうございました。

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