羽に化けるよ

草森ゆき

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 あんたやっぱり綺麗だなあと暮野さんは言った。わたしに首を絞められている最中だった。やっぱり綺麗だなあ、横顔が綺麗だったけど、正面でも綺麗なんだなあ、そう続けざまに話したので、膂力が足りないと更に絞めた。うぐ、と唸ったその振動は掌に伝わった。喉仏の上下がゆっくり押し潰されて、少しすれば何も言えなくなったみたいだった。

 思い返せば暮野さんははじめからこうだった。わたしのことが好きなのだ。なので、おとなしく絞め上げられていた。

 早く死んでくれないかな、暮野さん。そう呟こうとしたが、できなかった。完璧に絞殺する直前に激痛が走り、わたしの両手は不可逆に緩んだ。暮野さんは咳き込む、わたしは顔をおさえてうずくまる。痛い、痛い、目が痛い。

 眼窩に居座る虫が痛い!

「透子」

 暮野さんがわたしをつよく呼んだ。ほとんど掠れた声だった。また咳き込み、そっと背中を撫でてきた。この人が本当に憎いと反射で思った。

 彼の首を再び掴んだ。わたしは驚く顔を見ながら膝へと乗り上げ、ぎりぎりと更に絞めた。驚きの顔は苦しげな顔になり、諦めたような顔に変わった。その間も左の目は痛かった。ずっと虫が暴れていた。えぐるような痛みの中で、わたしは暮野さんを押し倒してすべての体重を首へとかけた。

 眼窩が燃えているようだった。その痛みには怒りが確かに乗っていて、わたしは怒りで生きていたし暮野さんは怒りで死ぬべきだった。朦朧としながら見下ろすと目が合った。立ち振る舞いのわりには純粋な瞳がわたしを見つめた。

 あんたやっぱり綺麗だなあ。声にはなっていない台詞が、唇の動きだけで読み取れた。

 目の中がいっそう痛くなってわたしは、不服にも泣いているのだった。


 そしてばきりと音がした。

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