失くしかけたものを取り戻してくれたのは、思い出の味

食べることという幸せの象徴のようなテーマを扱いながら、不穏な空気が漂う予想外の始まりに引き込まれました。大事な命を失いかけるまで娘を追いつめたものは何だったのか。親子のこれまでの道のりが語られる中で生まれてくる軋みが痛みをもって読み手にも迫ります。
親が願うことと子が求めることのすれ違いや、迂闊なひと言が呪いにもなりうること、本当に子を愛することはどういうことか自分に問いかけること。親子にまつわる複雑な感情が、この短いお話の中に詰まっています。
物語に登場する料理はたったひとつですが、これこそが親子を結ぶ味として大きな存在感を持っています。失くしかけたものを取り戻してくれた懐かしい味に、こちらも胸の芯が温まるようでした。

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