心と心を結ぶ味

作者 aoiaoi

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★★★ Excellent!!!

娘の一香いちかが、倒れた。

堀川和也は、東京近郊の静かな街の料亭「堀川」の板長だ。妻の清美は、店の女将である。
和也は、ひとり娘の一香にこの料亭を継いで欲しいと考えていた。

娘は、ここ最近、一香はほとんど物が食べられない状態だったらしい。


優しいお話でした。
料理も美味しそうです。

最後にでてくる料理名、素敵でした。


★★★ Excellent!!!

食べることという幸せの象徴のようなテーマを扱いながら、不穏な空気が漂う予想外の始まりに引き込まれました。大事な命を失いかけるまで娘を追いつめたものは何だったのか。親子のこれまでの道のりが語られる中で生まれてくる軋みが痛みをもって読み手にも迫ります。
親が願うことと子が求めることのすれ違いや、迂闊なひと言が呪いにもなりうること、本当に子を愛することはどういうことか自分に問いかけること。親子にまつわる複雑な感情が、この短いお話の中に詰まっています。
物語に登場する料理はたったひとつですが、これこそが親子を結ぶ味として大きな存在感を持っています。失くしかけたものを取り戻してくれた懐かしい味に、こちらも胸の芯が温まるようでした。

★★★ Excellent!!!

メガネをかけている人は、温かい料理を食べる前にメガネを外します。湯気でレンズがくもり、何も見えなくなるから。
本作に登場する鍋焼きうどんは、想像しただけでメガネを外したくなります。あふれる涙を拭うために。

大切な娘に料亭「堀川」を継いでほしいと願う和也。
いつしか絵を描くことに情熱を注ぐ一香。
夫と娘をそっと見守る清美。

それぞれの思いが伝わってくるからこそ、鍋焼きうどんの温もりがより一層沁みわたります。まさに心と心を結ぶ味わいでした。

★★★ Excellent!!!

糸が縺れた時、時間がかかるからと強引に引っ張っては行けない。
けれど、それを選ぶことが正しいと勘違いし、引きちぎってしまう。
自分の好きな物も、将来も、自分の体型も、現在すら否定された娘。否定したのは、娘を愛していたが故に娘を見ていなかった父親。それを止めなかった母親。

これはそんな糸を結び直すお話。
人の弱さを受けいれ、優しくあたためる焼き鍋うどんが、固く閉じた心を解すのでしょう。
そうして今度は、1本の糸として別の誰かと糸を結ぶのです。