童子村変死体事件捜査、一旦打ち切り。

 どんどん真奈ちゃんと過ごした日々の記憶が薄れていって、童子村の事件についてもついこの前までの変死体の状態や情報が食い違って、俺だけではなく、俺以外の人間達の、この世にいる人間達の記憶が改ざんされるようになっていっているような気がした。

それにしても、鬼に魅入られた女の子って誰なのかな?童子村で発見された、東雲有紗ちゃんのことかな?

とりあえず、東雲有紗ちゃんが入院していた病院に行けば良いか。

 病院の受付に行き、真奈子ちゃんと言う女の子のフルネームを受付係の人達に伝える。

「西東真奈子さんって、この病院に入院していますか。こういう者なんですけども。」

俺はヘラヘラ愛想笑いをして、警察手帳を見せる。

受付の人達は困ったような表情で、

「西東真奈子さんは、確かに入院中ですが、ずっと昏睡状態で話せる状態ではないですよ。」

と言っていたが、俺はそれでもいいと返事して、彼女の病室へ案内してもらった。


 記憶が本当に薄れていっているけど、真奈ちゃんのことは何とか思い出そうと考えていた。

病室に入ると、あの時みたいに寝ている真奈ちゃんがいた。

俺は真奈ちゃんを見つめながら、彼女の手を握った。

「真奈ちゃん、僕のこと覚えているかな。旭日昇だよ。不思議だよ。周りの人間も俺の記憶も、所々毎日あの頃の記憶がバラバラに欠落していくようになっていっている気がするよ。」

声をかけても起きるわけないか。

真奈ちゃんが自殺未遂をした日からずっと昏睡状態らしいから。

僕は何故か愛おしく彼女を見つめながら彼女の頬を触ろうとした瞬間に、真奈ちゃんの目が開いて、驚いたように真奈ちゃんは目を開いて、真奈ちゃんは僕を見た。

「貴方、誰ですか…。」

僕も驚いて、

「ご、ごめんねっ。」

と、真っ先に謝って、ナースコールのボタンを押して、看護師を呼んだ。

 二人で看護師さんが来るのを待っていると、目覚めた西東真奈子ちゃんは、俺を不思議そうな目で見て、途切れ途切れで話しかけてきた。

「なんでか、わからないのですが、何故か貴方から私、安心を感じています。」

俺の記憶もこの女の子について薄れてしまっているけど、この言葉を聞いて、俺はなぜか嬉しくなった。




 翌日、警察署で面倒臭い書類を整理していたら、昨日行った病院から僕宛てへ電話がかかってきた。あの西東真奈子って女の子が、僕に会いたがっているみたいだ。

何やら、童子村のことと鵜飼椿のことを聞きたい、聞いたら何かしら思い出すかもしれないと。けど、彼女は一年と半年ぐらい昏睡状態だったので、まだまだ入院しなきゃいけないから、病院から出られないので病院に来て欲しいという、お願いだ。

俺は仕事のなるならと思い、それを了承した。

 西東真奈子ちゃんは、目覚めてから精密検査をしてもらって身体的に異常はなかったけれど、もうしばらく入院することになった。昏睡状態だったのに、彼女の脳に一生残るような脳の損傷はなかったらしい。

そして、電話を受けた日から一週間後に、西東真奈子ちゃんと話し合うことになった。




 西東真奈子ちゃんから電話が来て一週間が経って、約束通り、彼女の病室へノックをして入った。

お見舞いも兼ねていたから、リンゴを持ってきて彼女にあげた。

真奈子ちゃんは嬉しそうにリンゴを見て、

「ありがとうございます。」

と、一言、俺にお礼を言った。本当にピュアな子供のような表情をする娘だなぁ。

なんだかわからないけど、懐かしい感じがする。彼女のこの嬉しそうな表情。

正直、俺の女性の好みの外見は、童子村にて裸で見つかった女子大生の東雲有紗ちゃんの方が好みだ。

だけど、俺はこの娘に惹かれていっている。危なっかしく見える女の子だから単に庇護欲が刺激されているだけなのかもしれない。

「西東真奈子ちゃんだよね。真奈子ちゃんって呼んで良い?」

と俺は質問して、西東真奈子ちゃんは、にこやかに、

「良いですよ。えーと、貴方は刑事さんでしたよね。」

「そうだよ。僕。今は童子村の事件を追っていた捜査一課の刑事だよ。」

って、返事した。そして、俺は本題に入った。

「事件性も事故の可能性もないんだけど、今、二年前ぐらいに自殺した鵜飼椿君って言う男の子のことを調べているんだよね。彼、自殺をする前日の夜、童子村と呼ばれるあの神社がある場所に行っていたって言う目撃情報があったみたいなんだけど、何か、真奈子ちゃん、心当たり、ある?」

「あんまりないです。それどころか童子村のことも。事件の調査で言うこともないかもしれないし、信じてもらえないかもしれませんが、鵜飼椿君、私が飛び降り自殺をはかる数か月か前に、夢に出てくれたんですよ。その夢のおかげで、彼が生前、私に好意を抱いていたことがわかったぐらいですね。」

童子村の事も、鵜飼椿君のこともわからず仕舞いかぁ。以前、伊吹柊君と言う鵜飼椿君の友達から許可を得てスマホで撮った彼の遺品とか見せればわかるかもと思い、俺は西東真奈子ちゃんに鵜飼椿君の遺品を見せてみることにした。

「じゃあ、彼の遺品をスマホで撮ったんだけど、その写真を見たら何かわかるかもしれないね。」

俺は真奈子ちゃんに、伊吹君と言う男の子から見せてもらった、鵜飼椿くんの遺品の一部の画像を見せた。

その遺品のうちの一つには、真奈子ちゃんが描かれているスケッチブックの中身もあり、それも見せたら、真奈子ちゃんから大粒の涙が溢れて彼女の頬をつたって流れていた。

「すみません、やっぱり何も思い出せないです。椿君、生前、色んな人に囲まれていたから私なんて気にとどめていないと思っていたんですよ。だから、当時の噂話でしか言えないことなんですけど、童子村のことを調べていて、鬼や妖怪の絵画の個展を開こうとしていると言う噂話が出回っていたぐらいしかわからないです。」

今日も、童子村についての収穫はないかと少し落ち込んで帰ろうとしたら、真奈子ちゃんが真剣な眼差しで俺に質問してきた。

「鵜飼椿君のお墓ってありますか。あるとしたら、どこにあるか知っていますか。」

「知っているよ。伊吹柊君って言う男の子知ってる?その子から聞いたよ。今、その住所を紙に書いて渡すから待ってね。」

「は、はい。ごめんなさい。これ、私の我儘なんですけど、お願いしても良いですか?」

「良いよ。えー何?逆ナン?」

ちょっと、からかってみたら、真奈子ちゃんは頬を少し赤らめて可愛かった。

「刑事さん、私と一緒に椿君のお墓参りしに行きませんか?」

「良いよ。」

更に、真奈子ちゃんは顔と耳を赤らめながら、上目遣いしながらちょいちょい目を逸らし続けて俺に質問してきた。

「あと、刑事さんの髪の毛触ってみても良いですか…?」

と意味わからないことを聞いてきた。

「良いよ。思い存分触っても。」

俺がそう言ったら、真奈子ちゃんは手を伸ばして俺の髪の毛を触ってきた。

「くせっ毛で猫みたいな毛でふわふわ…。あ、すみません。ありがとうございます。ごめんなさい。なぜだかわからないのですが、刑事さんについて大事なことを忘れているような気がして。」

「そうなんだ。僕は、何か童子村の事件のことも何か大事なことを忘れているけど、その時の感情や感覚だけは何故か残っているんだよ。」

「わ、私も同じです。」

「せっかく、誘ってくれたんだし、僕の携帯電話番号も書いて渡すよ。僕は、旭日昇。よろしくね。あと、この髪の毛についてなんだけど、あんまり他の人には言ってないんだよねー。実は僕、外国人の血が入っているんだよね。ハーフとかクォーターほどではないし、見た目もそのへんの日本人と変わらないから普段は言わないようにしているんだけど。ほら、日本人にとって混血の人達って、美男美女の印象が強いでしょ?僕、イケメンでもないし、英語も話せるわけでもないから言いにくくてさ。この外国人の遺伝子でこんな髪になっちゃったのかもね。」

僕は、自分の余計な事を言いつつ、僕の電話番号とメールアドレスを書いて、真奈子ちゃんに渡した。

「今日は、ありがとうございました。」

真奈子ちゃんは俺に頭を下げて、俺はどういたしましてと彼女に伝えて、俺は署に戻っていった。

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