入院生活、初日。
あれ…?私、童子村へ行った後の記憶があんまり思い出せない。童子村のことは夢だったんだろうか…?そして、ここはどこなんだろう…?
私は、体を起こさずに目を開けて、周りを見渡して私が今どこにいるのか把握しようとしていた。私は自分の手首を見ると点滴の管を通じて針が刺さっているのを見て、今いる建物の中の天井を見上げて、それから私は左右に頭を動かしてベッドの柵があるのを肉眼で確認して、私は病院にいることが分かった。
ナースコールを押せば良いのかな…?
今までの人生で入院したことないから躊躇するなぁって、思いながらナースコールのボタンを押した。
ナースコールのボタンを押した後、看護師さんが駆けつけて来てくれた。
看護師さんが色々質問してくれているけど、意識がまたぼーっとしてしまっている。
童子村で過ごした記憶が段々薄れていく。嫌だなぁ。忘れたくないし、大事なことを忘れている気がしてならない。忘れることに対する恐怖と焦燥を感じる。
あと、右首筋に人の歯型みたいな傷跡がついているけど、なぜどうしてそんな傷跡がついたのか思い出せそうなんだけど、思い出せないでいた。
「東雲有紗さん、大丈夫ですか?この人差し指が見えますか?」
中年ぐらいの看護師さんは私の視界に入って、人差し指を立てて見せてきた。
「み、見えます。」
「良かったぁ。お医者さん呼んでくるから、ちょっと待ってね。」
あの中年の女性の看護師さんはそう言って、病室から出て行った。また自分が今いる場所を把握しようとして、辺りを見回して気が付いたことは、私が今、個室で入院していること。
中年の男性のお医者さんがきて、色々今の私が感じる私の体の状態のことを聞いてきた。私はそれに淡々と答える。
お医者さんと私の健康状態の質疑応答が終わる。
「東雲さん、明日、東雲さんにはゆっくり休んで頂いて、さっそく、明後日、精密な身体検査を実施しようと考えているのですが、大丈夫でしょうか?」
「え、あ、はい。大丈夫です。」
「ありがとうございます。まだ精密検査をしていなので、他に重大な疾患があるかどうかもまだわからない状態ですが、意識が回復して身体的にも問題なさそうだと、今からご両親に伝えますね。ご両親の連絡先を教えていただいても、よろしいでしょうか?」
「はい。」
お医者さんがメモ帳とペンを取りだし、私の口から連絡先を聞いてメモしようとしたけど、私、今、スマホがないし、お父さんとお母さんの電話番号をスマホで確認できなかったから、実家の電話番号と両親の名前を言った。
「東雲さん、ありがとうございます。それじゃあ、ご両親に連絡いたしますので。」
と、言って、お医者さんは、私が入院している個室から出て行った。
暇だなぁー。
あ、彩華ちゃんや樹君、それに庵君。大丈夫なのかな?童子村から戻れたかな?
…変死体となって、帰ってきていないよね?
それにしても、あのギリシャ神話に出てくるサイクロプスみたいな、額に一本角が生えているあの一つ目鬼はなんだろう…?あの、人間と同じような肌の質感をしている大きい生き物。
今、その鬼が何故か浮かび上がってきた。
キャラクターデザインについて勉強している友達がいれば、その鬼のアイデアを教えてあげることができるのになぁ。スケッチブックも今、持ってないし、何より点滴されているから、絵を描くことも字を書くこともいつも以上にできない。
私の生活必需品であるスマホも手元にまだ戻ってないし。
私は少し落ち込み、童子村での出来事を思い出そうと頭を使っていた。
童子村のこと、あんまり思い出せないと頭を抱えていたら、ふと誰か知らないイケメンの笑顔の姿のイメージがいきなり思い浮かんだ。
…誰なんだろう?あの男の人。
二、三時間ぐらい今いる病室を見渡したり、童子村にいていた時の記憶をなんとか思い出そうとしたり、右の首筋の人間の歯型らしき傷跡を見つめて断片的に少しある童子村での記憶を更に思い出そうとして考えていたら、お父さんとお母さんが、私の病室に入ってきた。
「有紗!」
「有紗ちゃん!!」
お父さんとお母さんが涙を流しながら私に近づいてきて、お母さんは泣きながら心配している様子で、私の顔を覗き込んできた。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。童子村に行く前、嘘吐いちゃった上に心配させちゃって。」
「ううん。嘘吐いたことは有紗ちゃんが元気になってから叱るけど、有紗ちゃんが無事で良かった。」
お父さんは、うなずきながら腕で涙を拭いている。
「二人とも、仕事は?」
「今日は念の為に、たまたまお父さんとお母さん、有給を取って家に居たんだ。有紗ちゃんをいつでも家へ迎えられるようにね。」
お父さんは嬉しそうに私を見てそう言って微笑んだ。
「有紗ちゃんのお友達の連絡先もわからなかったから、有紗ちゃんが出て行った二日後辺りにすぐに行方不明届を警察に出したの。近いうちに刑事さんとお話することになることを、伝えておくわね。」
お母さんは、そう言いつつ持ってきたリンゴを切って、ベッドの机に紙皿の上に切ったリンゴを乗せて、それを私にくれた。お父さんとお母さん、少しだけ切ったリンゴを食べたけど。
それから、お父さんとお母さんと今後の私の入院期間やその間どうなるか、いつ刑事さんと話すことになるのかとか、色々聞いた。
「お父さん、お母さん、ありがとう。ごめん、長い間心配させて。」
「あぁ。全然大丈夫だよ。そう言えば、父さんと母さん、明日から、仕事に戻るからお見舞いに行けない日もあるんだ。ごめんね。有紗ちゃん。」
「ううん。私一人でも大丈夫だよ。」
お母さんは、私の着替えが入った袋やスケッチブックと筆記用具を渡してから、二人とも私の病室から出て行って、家に帰った。
あ、彩華ちゃんと樹君と庵君のこと、どうなったかお父さんとお母さんに聞くの、忘れた。しまった。
三人とも、無事でいてくれると良いなぁ。
暇だし、さっき思いついた一つ目鬼の絵を描こうとしたけど、利き手の手首が点滴で刺されていて上手く動かせないから、断念した。
何か大事なことを忘れている気がしてならなかった。けど、思い出せるすべもない。
私は、早く退院できるように祈った。
よし。今日と明日、一生懸命休憩できるように頑張るぞ。
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