童子村事件捜査、十二日目と十三日目。事情聴取。

 もうそろそろ東雲有紗ちゃん、退院したかな。と、思っていたら、知らない固定電話番号から電話がかかってきた。仕事のことならば、俺は座ったままでいようと決めて、離席はしなかった。

「…もしもし。あのー。東雲有紗なんですけども。」

「あ、東雲さん?退院したの?」

「はい。退院しました。まだ夏休みでバイトのシフトもまだ入っていないので、事情聴取はいつでもできると思います。」

「わかった。連絡してくれてありがとうね。ちょっと、僕の予定、確認してくるから待っていてくれないかな?」

「はい。わかりました。」

俺は色々、周りの人達に確認して、明日あの事情聴取する個室を使っても良いか聞いたり、童子村事件の資料を事情聴取の時に使っていいのか等、色々聞いていた後、東雲有紗ちゃんとの会話に戻った。

「ごめんごめん、お待たせしちゃって。明日の午後一時からなら空いてるよ。東雲さんは何か予定ある?」

「とくに予定はないので大丈夫です。」

「わかった。じゃあ、明日の午後一時に、警察署に来てね。受付の人に捜査一課の旭日って言えば、誰かわかってくれるから。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

事情聴取の日程も成立して、電話が切られた。

 …仕事とは言え、明日、あのカワイイ東雲有紗ちゃんに会える。嬉しいなぁ。明日が待ち遠しい。でも、目ぼしいことを聞き取れるかまではわからないけど。

 俺は、童子村に行った後に自殺した人や、変死体として挙がってきた人達の資料のコピーを取って、明日の準備をしていた。




 事情聴取当日となった。嬉しそうにしていたら、真奈ちゃんからかなり疑われていたけど。全く。恋人でもないのにさ。

午後一時頃になって、受付の事務員から内線で電話がかかってきた。

「旭日刑事、東雲有紗さんと名乗るお客様が来ましたので対応お願いいたします。」

「わかりました。すぐに向かうと伝えてください。」


受付の事務員の背後から俺は東雲有紗ちゃんを見つけて、彼女の元に寄って、東雲有紗ちゃんに声をかけた。

「十三時ちょうどに来てくれたんだね。ありがとう。あの個室の部屋で事情聴取することになるけど、大丈夫?」

「はい。大丈夫です。あの、ところで、先日、入院している時にお見舞いの品を持ってきてくださってありがとうございました。」

「ん、あぁ、どういたしまして。」

俺は東雲有紗ちゃんと並んで歩いて、事情聴取する部屋へ行って入った。

東雲有紗ちゃんは、初めて警察署の中に入ったのか、もの珍しそうにキョロキョロ見ていた。そこが普段の顔つきとギャップがあって可愛いんだよなぁ。


 個室に入って、対面になるように二人で座った後、俺は、東雲有紗ちゃんがノートを持っていたことに気づいてそれを指摘した。

「このノート、何?」

「あの、今日、事情聴取される時に言おうと思ったことをまとめて書いたノートです。」

「そうなんだ。事情聴取する前に、そのノートの中身読んでも良い?」

「良いですよ。」

と言った後、東雲有紗ちゃんは俺にノートを渡してくれた。

俺はパラパラとノートをめくって読んで、手間が省けて嬉しく感じた。

将来は、仕事ができる良い女になりそうだなぁ。東雲有紗ちゃん。芸術大学に通学しているけど。

「やっぱり、ノートの内容に沿って事情聴取するよ。わざわざ書いてきてくれてありがとう。手間が省けるよ。」

俺は気を取り直して、かけていた眼鏡をクイッと人差し指で眉間の部分をあげると、質疑応答に移った。

緊張している東雲有紗ちゃんもカワイイなぁ。

「童子村に入った後って、全く覚えていないの?」

「いえ。残念ながら覚えていないですね。童子村に入った直後から病院で目覚めるまでの記憶が本当にないんです。」

「そうか。それじゃあ、東雲さんと一緒に童子村に行ったお友達の証言を今から言うけど、それで何か思い出せたら、教えてね。」

「は、はい。」

「では、印南彩華さんの証言によると、からかさおばけって言う妖怪に印南さんの足を掴まれて逃げなくなるけど、東雲さんがからかさおばけにお尻で体当たりをして、強制的にからかさおばけの手から印南さんの足を離れさせて、その隙に、東雲さんを置いて走って逃げてしまった。って、言っていて何かよくわからないけど、何か、心当たりある?」

「あんまり思い出せないですけど、確かに何かに体当たりした記憶は少しありますが、そのからかさおばけにお尻で体当たりをしたのかまでは、わかりません。そもそも、からかさおばけって実在しているのでしょうか?」

「さ、さぁ?僕に聞かれてもねえ。次の証言は、印南さんの彼氏である、真北樹君の証言ね。からかさおばけが東雲さんの首筋を噛んで、東雲さんをかみ殺したと思い、印南さんと西宮君と一緒に走って逃げたって、言ってたんだけど、置いてきぼりにくらったとか、そんなのも覚えていない?」

東雲有紗ちゃんは、頭をかしげ、眉間にしわを寄せた。全然覚えていなさそうだ。

「置いてきぼりにされたかまでは、覚えている余裕がなかったですね。」

「そっか。じゃあ、これが最後の人の証言なんだけど、西宮庵君の証言ね。四人で童子村に入った時点で、からかさおばけや三つ目の鬼等が現れて、それらの妖怪やら鬼やらが四人に追いかけてきたけど、東雲さんだけはこけて倒れて逃げ遅れて、印南さんと真北君と西宮君の三人で逃げ切った。らしいんだけど、こけた覚えってある?」

…え?何か急に、東雲有紗ちゃん、恥ずかしがって顔を赤くし始めた。

記憶はあんまりないけど、乱暴されたとかは覚えているのかな?

「倒れてこけたって言うか、多分、何かにビクビクしてゾクゾクしてしがみついていたような気がします。」

「え?何?あ、性的な何かに遭って話しにくいなら、婦警さんと変わるけど、大丈夫?」

東雲有紗ちゃんは顔をより赤らめて、ただ一言、「大丈夫です。」って、可愛かった、あ、何か変なことを言っていたんだけど、なんとなくちょっと聞き捨てならなかった。

「何か変な事言ってるし、非現実的なことを言っていたから、一応、この三人には精神鑑定をしてもらったんだけど、どこも異常がないって言うか。そして、東雲さんが言っていた日に童子村へ行く以前の変死体も、この三人と東雲さんとも関連が全くないって、なっているしなぁ。そして、十五年前の童子村で発見されたけど、最近自殺してしまった、皆喜多美鶴さんとも関連性も見つからないしなぁ。」

「美鶴さん…、自殺したんですか?」

俺はしまった!やらかしてしまった!と思い、申し訳ないような顔をして伝えた。

「え?皆喜多美鶴さんと知り合いだったの?ごめんね。こんな形で伝えてしまって。これ言っちゃダメかもしれないから、内緒にして欲しいんだけど、皆喜多美鶴さんの病室に遺書らしきものが置かれていたんだよね。そこに東雲さんの名前も書いてあったよ。そして、『色々、楽しかった。ありがとう。でもごめんね。さようなら。』と書き残されていたよ。理由もないまま。」

それを聞いた瞬間、東雲有紗ちゃんは、しばらく泣き止むことができなかった。

きっと友達かなんかだったんだろう。

そして、俺はティッシュ箱丸ごと、東雲有紗ちゃんに渡した。


 東雲有紗ちゃんが泣き止んだ後、俺は早速、事情聴取は続けた。

「ごめんなさい、取り乱してしまって。」

「こっちも、何か、ごめんね。空気読まずに。」

俺は、東雲有紗ちゃんと同じ芸術大学に通っていて、自殺してしまった鵜飼椿君の写真を見せた。

その美青年の写真を見て、東雲有紗ちゃんは驚いた。知り合いだったのかな?

「この男の子のこと知ってる?」

「し、知らないんですけど、何故か、覚えて…あっ!図書館のポスターで見た事あります…っ!鵜飼椿さんって言う人ですよね?」

「そうだね。この男の子も自殺する前日に童子村へ行ったって言う、目撃情報もあるんだよ。何かわかることないかい?」

「ごめんなさい。名前と顔だけしかわかることが無くて…。」

「良いよ。別に。でも、鵜飼椿君とも、あの二体の変死体とも関連が無くて良かった。関連が無かったとしても、謎が深まるだけなんだけどね。」

結局、何にも解決ならなかったなぁ。俺は黙々と、事情聴取の内容を書いていた。

「他に言い残したこととか何かない?」

「…とくに今はないです。」

「わかった。捜査にご協力して頂き、ありがとうございますっ!なんちゃって。じゃあ、入り口まで送るよ。」

俺と東雲有紗ちゃんは立ち上がって、事情聴取行った部屋の外へ出た。

「あ、そう言えば、スマホ。今、必要?返して欲しければ、もう返してもいいことになったから、返せるけど。どうする?」

「返してもらえていただければ…。」

「ちょっと待ってね。」

と言って、俺は、スマホが保管されている所へ行って、東雲有紗ちゃんのスマホを取り出して、彼女のスマホを持って、彼女がいる所へ向かった

「何かー、不便な思いをさせてしまってごめんねー。はい、これ。」

「すみません、ありがとうございます。」

「そういえば、東雲さん。その精神鑑定を受けてもらった友達に連絡した?」

「まだですね。」

「そっか。じゃあ、これで。」

そして、俺は、東雲有紗ちゃんを警察署の入り口まで案内して、彼女は警察署の外へ出ていった。

 それにしても、しまったなぁ。あんな形で皆喜多美鶴の自殺を伝えてしまって。やらかしたー。可哀想なことをしてしまった。

 いずれ、知らなければならないことだったのだろうけど、やらかしてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る