事情聴取した日の夜。
今日も事件やら行方不明の誰かのペットの捜索の応対とか忙しかった。
そして、就業時間内に書類を扱う仕事が終わらなかったので、それを今日の残業に、回していた。
今日は残業かぁ。真奈ちゃん待っているかのかなぁ。
でも、真奈ちゃんの事だから、夕ご飯作ってくれても待たないで俺のベッドを独り占めして寝ているんだろうな。
今日の残業の休憩はいつものあの数少ない喫煙所の近くに行くとするか。
あそこにもしかしたら、裕子ちゃんがいるかもしれないし。残業があるって連絡入れておいたけど、返事なかったけどね。
僕は少し嬉しくなりながら、書類整理をしてひと段落したところで、署へ出て裕子ちゃんと出会った喫煙所の近くにある休憩所へ向かった。
裕子ちゃん、あの休憩所にいるんだろうなと疲れているのに気分が上がって歩いていたら、休憩所に着き、俺は休憩所にある自販機でエナジードリンクを買ってそれをグイグイ飲みながら、裕子ちゃんがいないか探していた。
俺は休憩所の隅にある、電柱と駅の光にあんまり当たらない薄暗い場所へ行った。
う、嘘だろ…?
裕子ちゃんが大きい二メートルぐらいの鬼とキスをしている。
ここは童子村の敷地内じゃないだろうと俺はかなり動揺していたが、瞬きした瞬間、裕子ちゃんが別の男とキスしているのを見てしまった。
「あれ…?裕子ちゃん?」
「あら、あ。」
「見られちゃったね。誰だい?この男は。」
「知らないわよ。」
「アハハ、どうもお邪魔してすみませんでした…っ!」
俺は、エナジードリンクがまだ残ってある缶を握りながら、早歩きでその場から離れてしまった。胃がムカムカする。裕子ちゃんも俺もとっさに嘘吐いてしまった。
なんとなく俺は裕子ちゃんの都合の良いだけの男だと察していたけど、認められなった事実と無理矢理向き合わされた気がする。そっちの方が楽だとズルズル付き合って逃げていた俺に、鬼が罰したかのようだ。だから、あの男が鬼に一瞬見えたのだろう。
それか俺が、童子村と言う鬼が出てくる怪談の話を沢山聞いて疲れすぎて、あの男が鬼に見えたのか。
署に戻っても、心が落ち着かない。仕事もちょっとままならないから、少し深呼吸してみた。
それでも、あの裕子ちゃんと別の男が人影に隠れてキスしていたシーンが忘れられない。
何で俺じゃないんだよ。何でいつも誰も俺を受け入れてくれないんだと、少し泣きそうになりながら、仕事を終わらせていた。
真奈ちゃんなら、今の俺を受け入れてくれるのかと思い、少しそれで自分を慰めていた。それをすこし、今の辛い自分の気持ちを落ち着かせていた。
家に戻ると、もう、午後十一時を回っていた。けど、珍しく同居人の真奈ちゃんは起きている。
…いつもなら、
「旭日さんが待つって言うのは契約には無かったし、ご飯作ってしばらくしても帰って来ないなら、勝手に一人で寝ますよ。そりゃ。」
って、言って、俺のベッドを独り占めして寝ている癖に。
「旭日さん、おかえりなさい。」
えくぼができたあの可愛らしい笑顔で、俺の帰りを真奈ちゃんは待っていた。珍しい。
そして、俺があんな子供っぽい女の子に慰めてもらおうとして、俺の帰りを迎えてくれた真奈ちゃんを抱きしめた。
真奈ちゃんの顔は赤くなっている。勝気な感じで、以前、抱きしめるのにはちょうどいいサイズとか言っていて、ちょっと苛ついたけど、今はそれがすんなり腑に落ちる。
「旭日さん、どうしたの?」
「目の前で浮気されていたのを見た。残業中に。」
俺が更に真奈ちゃんを抱きしめようとした瞬間、真奈ちゃんは力強く俺の体を両手で押し付けて、引き剥がし、俺の顔をビンタした。
「…真奈ちゃんですら、俺を受け入れてくれないの?」
俺は死んだ目をして真奈ちゃんを睨んで言う。
「ごめん。今の旭日さんは、私、受け入れられない。旭日さん、自分がフラれたからって、私を求めるのってそれ、私を都合の良い女にしたいだけでしょ。」
真奈ちゃんは、冷静に淡々と言っていたが、ものすごい剣幕で彼女が怒っているのは、見てわかった。
「夕飯は、作り置きしましたから、どうぞ。先に寝ますんで。」
と言って、俺のベッドを独り占めしてベッドに向かった。
遅い夕飯を一人寂しく食べた後、俺はシャワーを浴びて、歯を磨き、寝る準備をした。明日も早いし。真奈ちゃんに少し嫌われたのに、それでも俺は一人でいつもみたいにソファの上で寝ることはする気はなく、俺は真奈ちゃんが寝ているベッドに向かった。
真奈ちゃんが俺のベッドを独り占めしているとは言え、真奈ちゃんは150センチぐらいの小柄な女の子なので、175センチの俺でもまだ俺のベッドに入れる余地があり、俺は真奈ちゃんの隣で寝た。真奈ちゃんは、俺を無視しつつ寝ていたけど。
朝、起きると、味噌汁と卵焼きと焼かれた鮭の匂いがしていた。
真奈ちゃんがいつも通りに台所に立っていて、俺は驚いた。もう彼女の機嫌は直したのかと思って。
僕はうっすら瞳を開けて、机の上に薄くスライスした大根と豆腐とわかめが入っている味噌汁と、ご飯が入っている茶碗と、ちょっと形が崩れた卵焼きと、焼かれた鮭を一つずつ、真奈ちゃんが置いている姿を見ていた。
「あ、旭日さん、起きましたか。」
真奈ちゃんの口調は少し怒り気味だった。僕の寝ぐせが酷いとかそんなのではない怒りだ。でも、俺の為に朝ご飯を作ってくれていて驚いている。
「真奈ちゃん、昨日のこと、怒っていないの…?」
「ふんっ。まだ怒っていますよーだっ!でも、これはこれ。それはそれでしょ。私、居候だし、無料で住まわせてもらっている身だから、義理として作っているだけですよ。勘違いしないでくださいね。」
…これがツンデレって言うものなのかな。と思い、なんだかんだ言って僕のことを見捨てようとしない真奈ちゃんに俺は少し、安心した。
「だからと言って、私は旭日さんの都合の良い女になったわけじゃないですから。」
「うん。わかっているよ。昨日はごめんね。ご飯美味しいよ。」
僕が褒めた後、真奈ちゃんは照れつつもしかめっ面をして、
「はいはい。早く出勤する準備しないと、遅刻しますよー。私には別に関係ないけどぉ。」
真奈ちゃんは、下唇を突き出してそう言った。
裕子ちゃんとはこれからどうなるかと考えたら、少し、胃がキリキリしたけど、それでも、俺は何故か満たされていた。
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