絵画個展に行った日。
鵜飼椿さんの絵画個展に行こうとしたけど、確か、八月二十日にしかやっていなかったんじゃないかと不安になって、私は、その絵画個展の事を調べたら、八月二十日から九月二十日までだったことを知って、一安心した。
まだ、個展が行われている日程だったので、個展が開かれている美術館の行き方を調べて、その美術館まで、電車で向かった。
美術館に着いてから私は受付の人に、鵜飼椿さんのことを聞いて、美術館内の指定の場所へ案内されて、鵜飼椿さんの絵画作品を見た。
鵜飼椿さんが生前、描いた絵画作品が色々置かれている。そこには、日本画のようなテイストの絵画もあって、童子村と鬼だと思われるような絵画もあった。
やはり、突然自殺してしまったからか、未完の絵画も飾られていた。
まじまじと彼が描いた絵を見ていたら、一人の見知らぬ男性から声をかけられた。
「こんにちは。本日はこの絵画個展にお越し下さり、ありがとうございます。」
「いえいえ。童子村のことを知りたくて来ただけですから。」
「そうですか。その童子村?と鵜飼椿と何が関係あるのでしょうか?」
あれ?この人、童子村の噂話知らないのかな…?
「彼が自殺する前日に、童子村に行った目撃情報があったもので。」
「それ、聞いてくる人何人かいたような気がしますね。申し遅れました。僕は、伊吹 柊(いぶき しゅう)と言います。伊吹は伊賀のいに、吹は笛を吹くのぶき、柊はヒイラギの漢字でしゅうと読みます。」
「東雲有紗と言います。東雲は、東に雲と書いて、しののめと読みます。有紗は有るの有(ゆう)に糸へんに少ないという漢字で有紗です。童子村のことも気になるんですが、鵜飼椿さんと同じ芸術大学なので、つい気になりまして。」
「あぁ、って、言う事は、東雲さんは僕の大学の後輩ってことですね。」
「そうなりますね…。」
伊吹さんと会話が弾まなくなって少し緊張した雰囲気が漂うと、伊吹さんから口を開いた。
「あのー。椿のことで知りたいことがあれば、生前、彼が使っていたスケッチブックとか、お見せしましょうか…?」
「え、そんなことしてもらって良いんですか?」
「良いですよ。ちょっと、椿のお父さんから預かったスケッチブックを持ってきますから、待っていてください。」
伊吹さんはそう言い残して、スタッフ専用の部屋へ向かって、数分後に鵜飼椿さんが使ったと思われるスケッチブックを持ってきた。
「これ、どうぞ。」
「わざわざ、ありがとうございます。」
…本人に許可なしに無断でスケッチブックを見ても良いのかと、疑問に思い、戸惑いながら私は、鵜飼椿さんのスケッチブックやラフ画をパラパラと見たり、スケッチブックに書かれていたメモを読んだりしていた。
下書きだけど、繊細に描かれていた絵が沢山あった。そして、一人の女性と言うよりかは、女の子の横顔やうつむいた表情が描かれた絵もあった。誰だろう…?
にしひがしまなこ?そのページのスケッチブックには、色んな表情の女の子が描かれており、西東まな子と書かれていた。
この女の子の名前かな?
私は、鵜飼椿さんのスケッチブックを一通り見た後、伊吹さんに鵜飼椿さんのスケッチブックを返した。
「あの…、この女の子は…?」
「あー、この子ですね。一つ下の学年の女の子なのですが、椿が気にかけていた女の子ですね。」
「…生前、鵜飼椿さんが恋していた女の子ではないのですか?」
伊吹さんは首をかしげて、不思議そうな表情をしていた。
「椿が好きになるような女の子じゃないはずなのですが、まさか。」
この女の子のことを知らないのに、何故か私は焦りを感じた。何か、この子と鵜飼椿さんのことで大事なことを忘れているような気がする。
このことを思いついた瞬間、フラッシュバックのように、鵜飼椿さんが笑顔で浜辺にいる姿をよぎった。
「あの、この女の子は今何をしてらっしゃるんですか?」
「椿が死んでから半年後ぐらいに、何か病気になって昏睡状態になっているから、ご両親から退学届が出たという、噂話は聞いたことがありますね。すみません、この女性のことは同じ学校に通っていたはずなのですが、あんまり、僕も覚えていないのですよ。力になれなくて申し訳ないです。」
伊吹さんは私に頭を慌てて下げた。
「いえいえ、そんな。私の勝手な予想ですけど、多分、鵜飼椿さんはこの女の子に恋をしていたんじゃないかと思います。」
あの後、伊吹さんとしばらく会話をして、私が特殊造形を専攻していることを話したり、伊吹さんが、私が通っている大学から卒業していたこととか、話していたりしていた。
「あの、鵜飼椿さんのお墓って、あるんですか?」
「ありますよ。ちょっと、お墓があるお寺とその住所を渡しますので、少しお待ちくださいね。」
伊吹さんは、メモ帳にスラスラ文字を書き始めた。
「え、鵜飼椿さんとは全く関係ない私が、そんな所へ行っても大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。彼、人懐っこかったから、知らない人が来ても喜んでくれますよ。」
伊吹さんは、微笑みながら、お墓の住所を書いたメモ帳の紙を破って、私に渡してくれた。
「ありがとうございます。お墓参り、絶対にします!」
と、私は伊吹さんに頭を下げて、引き続き、鵜飼椿さんの絵画の作品を見渡していた。
彼の絵画を見渡していると、なぜか涙が溢れて出して止まらなかった。
涙を拭いて泣くのを堪えながら私は家に戻り、結局、鵜飼椿さんの絵画個展に行っても、童子村の事も、私が童子村で何をされていたか、していたかも思い出せなかった。
私は、化粧を落として歯を磨き、服を脱いでお風呂に入って、体を洗って頭と髪も洗った。気持ちいい。
湯船に浸かって、ぼーっと浴室の中にある曇った鏡を見ていたら、鵜飼椿さんの笑顔が映ったように見えた。
その後、お風呂から上がってパジャマに着替えて、髪の毛を乾かしてからベッドに入り、眠りに落ちた。
私はまた夢を見ていた。またこの無人神社の風景。いつもと違うのは、桜が咲いていてお花見みたいだったことかな。ピンクの桜の花がとてもキレイで。
神社のお賽銭の前に立っていたら、鵜飼椿と思われる男の人が私に向かってきて、私から二足ぐらい離れた所で足を止めて、私の顔を見てきた。
「皆喜多美鶴さんのこと、申し訳なかった。」
鵜飼椿と思われる男性は、いきなり私に向かって話しかけてきた。
「いえ、私も防げなくて、彼女を助けられなかった。」
「有紗ちゃんにこんな思いを背負わせてごめんね。スケッチブックに描いた女の子、真奈子ちゃんだけは、僕がなんとかするから。」
「鵜飼椿さん、ですよね…?」
「うん。そうだよ。あぁ、そうか。もう、有紗ちゃんは童子村での出来事覚えていないか。僕も教えられなくてごめんね。」
と言い、鵜飼椿さんは悲しそうにしていた。
「気に病まないで下さい、鵜飼さん。美鶴さんの分も鵜飼さんの分も苦しんで苦しみ切って、私は生きますから。」
私は、これからも生きることを鵜飼さんに宣言すると、鵜飼さんは嬉しそうに微笑んだ。
「有紗ちゃん、そんなに自分で背負い込もうとしないで。自ら苦しもうと、罪を被ろうとしないで。僕は、僕が好きだった女の子や目の前にいる人達が幸せだったら、それで良いんだから。僕の役目は終わったし、別に僕の意思を受け継がないで生きても良い。僕の事も忘れてしまっても良い、僕はずっとここにいるか、また生まれ変わるだけだから。」
私は涙目で鵜飼さんに何かを言おうとして、より近づこうとして片足を一歩踏み出そうとしたら、鵜飼さんは朱色の大きい鳥居へ向かって歩き、鵜飼さんの姿が見えなくなって、鵜飼さんに追いつけなった。
私は不思議な夢を見たと思いながら、起きた。
起きてすぐに私は自分の顔を触ると、一筋の涙が通った痕があったのを知って、決意をした。
近いうちに絶対に鵜飼椿さんのお墓参りしようと。
―――童子村 ~鬼に愛されし者~ へと、続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます