事情聴取された日。

退院した日に、病院の中にあるコンビニへ行っても、美鶴さんは現れなかった。

退院日は、お父さんとお母さんが来てくれて色々、荷物の整理とか手伝ってくれて、書類も書いたり、ハンコを押したりして、とうとう久しぶりの我が家に帰って来られた。ものすごく、嬉しかった。けど、やっぱり、美鶴さんのことは気がかりだった。

 あ、そういえば、刑事さんに連絡しなきゃ。事件に巻き込まれた被害者と言う体だったっけ。今の私って。

刑事さんからもらった連絡先が書いてある紙を見つつ、家の電話から、刑事さんに電話をかけた。

「…もしもし。あのー。東雲有紗なんですけども。」

「あ、東雲さん?退院したの?」

「はい。退院しました。まだ夏休みでバイトのシフトもまだ入っていないので、事情聴取はいつでもできると思います。」

「わかった。連絡してくれてありがとうね。ちょっと、僕の予定、確認してくるから待っていてくれないかな?」

「はい。わかりました。」

刑事さん同士の会話が少し聞こえる。でも、本当は聞こえちゃいけない内容なような気がするけど、私は聞いていないフリをしていた。

「ごめんごめん、お待たせしちゃって。明日の午後一時からなら空いてるよ。東雲さんは何か予定ある?」

「とくに予定はないので大丈夫です。」

「わかった。じゃあ、明日の午後一時に、警察署に来てね。受付の人に捜査一課の旭日って言えば、誰かわかってくれるから。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

事情聴取の日程も成立して、私は自分から電話を切った。

童子村での記憶はないけれど、できる限り覚えている範囲で話さなきゃいけないから、私は、ノートに童子村で得た情報や十五年前の童子村事件の生き残りの美鶴さんから聞いた話を夕方になるまで、メモを取っていた。




 事情聴取当日となり、私は昨日の夕方まで書き続けたノートを持って、刑事さんが言っていた通りに警察署に行って、受付の人に、

「すみません、捜査一課の旭日刑事っていますか?」

「旭日刑事ですね。少々お待ちください。」

数分待っていると、受付の人の背後から、病院にお見舞いしに来てくれた刑事さんが現れた。

「十三時ちょうどに来てくれたんだね。ありがとう。あの個室の部屋で事情聴取することになるけど、大丈夫?」

「はい。大丈夫です。あの、ところで、先日、入院している時にお見舞いの品を持ってきてくださってありがとうございました。」

「ん、あぁ、どういたしまして。」

刑事さんはそう言って、私は刑事さんと並んで歩いて、事情聴取する部屋へ行って入った。

…かつ丼とか出るのかな?別に罪を犯したわけじゃないけど。


 個室に入って、対面になるように二人で座った後、刑事さんは私が持っていたノートの表紙を少し見た。

「このノート、何?」

「あの、今日、事情聴取される時に言おうと思ったことをまとめて書いたノートです。」

「そうなんだ。事情聴取する前に、そのノートの中身読んでも良い?」

「良いですよ。」

と言った後、私は刑事さんにノートを渡した。

刑事さんは、パラパラとノートをめくって読んでいる。すると、

「やっぱり、ノートの内容に沿って事情聴取するよ。わざわざ書いてきてくれてありがとう。手間が省けるよ。」

ものすごくにこやかな笑顔で、刑事さんはお礼を言ってくれた。

刑事さんは、かけていた眼鏡をクイッと人差し指で眉間の部分をあげると、質疑応答に移った。

私は緊張して、つばをゴクリと飲む。

「童子村に入った後って、全く覚えていないの?」

「いえ。残念ながら覚えていないですね。童子村に入った直後から病院で目覚めるまでの記憶が本当にないんです。」

「そうか。それじゃあ、東雲さんと一緒に童子村に行ったお友達の証言を今から言うけど、それで何か思い出せたら、教えてね。」

「は、はい。」

「では、印南 彩華(いなみ あやか)さんの証言によると、からかさおばけって言う妖怪に印南さんの足を掴まれて逃げなくなるけど、東雲さんがからかさおばけにお尻で体当たりをして、強制的にからかさおばけの手から印南さんの足を離れさせて、その隙に、東雲さんを置いて走って逃げてしまった。って、言っていて何かよくわからないけど、何か、心当たりある?」

「あんまり思い出せないですけど、確かに何かに体当たりした記憶は少しありますが、そのからかさおばけにお尻で体当たりをしたのかまでは、わかりません。そもそも、からかさおばけって実在しているのでしょうか?」

「さ、さぁ?僕に聞かれてもねえ。次の証言は、印南さんの彼氏である、真北 樹(まきた いつき)君の証言ね。からかさおばけが東雲さんの首筋を噛んで、東雲さんをかみ殺したと思い、印南さんと西宮君と一緒に走って逃げたって、言ってたんだけど、置いてきぼりにくらったとか、そんなのも覚えていない?」

私は頭をかしげ、眉間にしわを寄せた。全然覚えていない。

「置いてきぼりにされたかまでは、覚えている余裕がなかったですね。」

「そっか。じゃあ、これが最後の人の証言なんだけど、西宮 庵(にしのみや いおり)君の証言ね。四人で童子村に入った時点で、からかさおばけや三つ目の鬼等が現れて、それらの妖怪やら鬼やらが四人に追いかけてきたけど、東雲さんだけはこけて倒れて逃げ遅れて、印南さんと真北君と西宮君の三人で逃げ切った。らしいんだけど、こけた覚えってある?」

何故か記憶もないのに、私は恥ずかしくなって、顔を赤らめた。

「倒れてこけたって言うか、多分、何かにビクビクしてゾクゾクしてしがみついていたような気がします。」

「え?何?あ、性的な何かに遭って話しにくいなら、婦警さんと変わるけど、大丈夫?」

私は顔をより赤らめて、ただ一言、「大丈夫です。」と刑事さんに伝えた。

「何か変な事言ってるし、非現実的なことを言っていたから、一応、この三人には精神鑑定をしてもらったんだけど、どこも異常がないって言うか。そして、東雲さんが言っていた日に童子村へ行く以前の変死体も、この三人と東雲さんとも関連が全くないって、なっているしなぁ。そして、十五年前の童子村で発見されたけど、最近自殺してしまった、皆喜多美鶴さんとも関連性も見つからないしなぁ。」

 …え?美鶴さん、自殺したの?だから、あの日以来、美鶴さんを病院の中にあるコンビニの前の椅子で見なくなったの?

入院していた時のあの日のパトカーってもしかして…?

「美鶴さん…、自殺したんですか?」

刑事さんは驚いて申し訳ないような顔をして伝えた。

「え?皆喜多美鶴さんと知り合いだったの?ごめんね。こんな形で伝えてしまって。これ言っちゃダメかもしれないから、内緒にして欲しいんだけど、皆喜多美鶴さんの病室に遺書らしきものが置かれていたんだよね。そこに東雲さんの名前も書いてあったよ。そして、『色々、楽しかった。ありがとう。でもごめんね。さようなら。』と書き残されていたよ。理由もないまま。」

それを聞いた瞬間、私は大粒の涙が出て、しばらく泣き止むことができなかった。

そして、刑事さんはティッシュ箱丸ごと渡してくれた。


 私が泣き止むと、刑事さんとの事情聴取は続いた。

「ごめんなさい、取り乱してしまって。」

「こっちも、何か、ごめんね。空気読まずに。」

刑事さんは、とある美青年の写真を私に見せた。

私はその美青年の写真を見て驚いた。入院している時に何故か思い浮かんでいた青年だったからだ。

「この男の子のこと知ってる?」

「し、知らないんですけど、何故か、覚えて…あっ!図書館のポスターで見た事あります…っ!鵜飼椿さんって言う人ですよね?」

「そうだね。この男の子も自殺する前日に童子村へ行ったって言う、目撃情報もあるんだよ。何かわかることないかい?」

「ごめんなさい。名前と顔だけしかわかることが無くて…。」

「良いよ。別に。でも、鵜飼椿君とも、あの二体の変死体とも関連が無くて良かった。関連が無かったとしても、謎が深まるだけなんだけどね。」

結局、何にも解決ならなかったのかぁ。残念だなぁ。

刑事さんは黙々と私と彼との会話の内容を書いていた。

そして、刑事さんが書き終わった後、

「他に言い残したこととか何かない?」

「…とくに今はないです。」

「わかった。捜査にご協力して頂き、ありがとうございますっ!なんちゃって。じゃあ、入り口まで送るよ。」

刑事さんと私は立ち上がって、個室の外へ出た。

「あ、そう言えば、スマホ。今、必要?返して欲しければ、もう返してもいいことになったから、返せるけど。どうする?」

「返してもらえていただければ…。」

「ちょっと待ってね。」

と言って、刑事さんは私のスマホを取りに行って、渡してくれた。

「何かー、不便な思いをさせてしまってごめんねー。はい、これ。」

「すみません、ありがとうございます。」

刑事さんは何かを思い出したかのように、私に質問してきた。

「そういえば、東雲さん。その精神鑑定を受けてもらった友達に連絡した?」

「まだですね。」

「そっか。じゃあ、これで。」

そして、私は刑事さんに警察署の入り口まで案内されて、警察署の外へ出て、近くの喫茶店に行って、久しぶりにスマホを触りながら、鵜飼椿さんのことをネット検索していた。

童子村へ行く前の日に、図書館へ行って見つけた、「鵜飼椿、没二周忌絵画個展」の詳細と、彼のことを知る為に。




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