入院生活、五日目。
昨日は一日中、病室から一歩も出ないで寝転んでいた。
スマホは、証拠品になるのかどうかと検討中で、警察が預かっているので、私の手元にない。ダルイ。
中年の女性看護師さんが、私の部屋に入って、ベッドの机の上に病院の朝食を置いて、検温と私の血圧を測って、その結果を紙に書いていた。
「今日も低血圧気味ねえ、東雲さん。」
「私、朝、結構弱いんですよね。早寝早起きはできるのですが…。」
「でも、正常の範囲内だから大丈夫よ。気を付けたら良いからね。」
どうやって血圧って気をつけたら良いのだろう。それに私、まだ十九歳だし、そこまで健康に気を付けなくても良いんじゃないかなぁ。
朝ご飯を食べ終わってしばらくした後、さっきの中年の女性看護師さんが食べ終わった食器を持って、病室から出て行ってしまった。その後、私は洗面台に何とか立って歯を磨いた。
歯を磨いて、顔を濡れたタオルで顔を拭いて洗顔したつもり。
不便な状態で身なりを整えて、自分のベッドに仰向けで寝転んだ。
閉じてある私の病室の扉から、ノックされた音が聞こえる。
「はい、どうぞ入ってくださいー。」
私はやる気をなさそうに答えると、一人のスーツを着た若そうな眼鏡をかけた男の人が私の病室に入ってきた。
「おはようございますぅ。朝からすみませーん。僕こういう者なんですけど…。」
その眼鏡をかけてくせ毛の黒髪で短髪のスーツを着た男性は、警察手帳を取り出して、私に見せてきた。
「君、東雲有紗ちゃんで、間違いないよね。」
「え、はい。あの、もう事情聴取するのですか。」
「まだしないよー。それに、君、まだ退院してないでしょ?」
ちょっと、この人なんか軽薄な感じ。外見は安心感のある顔立ちで、別に悪目立ちしている目鼻立ちでもないし、目がくりくりしているから女の子だったら可愛い感じの顔立ち。少し面長だけど。あと、ちょっと何かやけにこの男の人は嬉しそうだった。
「僕は、旭日 昇(あさひ のぼる)。童子村事件を担当している刑事なんだ。東雲さんが退院してからじゃないと、事情聴取できないことになっているから、今日は、挨拶に来ただけ。」
「は、はぁ…。」
そして、あの若い眼鏡のくせ毛の刑事さんは、彼のスーツの上着のポケットから小さいメモ帳とペンを取り出して、何かを書いてメモ帳の紙をちぎって、そのちぎった紙を私に渡してくれた。
「これ、僕の電話番号と名前。東雲さんが退院したら、事件の事情聴取始めるし、退院後に連絡よろしくね。あ、僕に連絡するのを忘れたら、警察署の方から東雲さんの家に電話がかかってくるからね。」
その後、刑事さんは紙袋を持ちあげて、「これ、お見舞いの品ね。」と私に渡してくれた。
「じゃあ、またね。」
刑事さんが私の病室から出ようとした時、私は急いで声をかけた。
「あ、あの…!」
「へっ?」
「彩華ちゃん達は、生きているんですか…?」
「あー、大丈夫。生きているんだけど、今、ちょっと精神鑑定されているだけ。」
「精神鑑定?どうしてですか?」
「どうしてって、そりゃ非現実的なことを言っているからだよ。大学生だし、一応ドラッグとかそう言うのやってないか調べる為に、色々、検査したけど何も出てこなかったけどね。」
彩華ちゃん達、生きているのか…。良かった…。
安心したら、涙が出てきそうになった。
「あと、君のスマホのこともごめんね。一応重要な証拠品かどうか調べる為に署の方で預かっているから。不便な思いさせて、ごめんねえ。」
「あ、いえ、大丈夫です。」
「それじゃあ。またね。」
刑事さんはそう言って、飄々と病室の扉を開けて出て行った。
刑事さんからもらったお見舞いの品の紙袋を開けると、フルーツの飲むゼリーが入っていた。甘いものあんまり取れてなかったから、すごく嬉しくなってさっそく飲んでみた。
美味しい。あ、病院食以外のものを食べても大丈夫だったかな?
早く彩華ちゃん達に会いたいなっと思いながら、私は仰向けに体を横にして目を閉じた。
昼寝しても暇なものは暇だったので一生懸命体を起こして、私は、病院の中にあるコンビニへウィンドウショッピングすることにした。
ウィンドウショッピングをしに病院の中にあるコンビニの前の椅子に座って、コンビニの商品を眺めていたら、精密検査させられた日に同じ場所にいた、十五年前の童子村で見つかった皆喜多美鶴さんらしき女性がいた。
その女性は嬉しそうに私に声をかける。
「あ、あの…。」
「なんでしょうか。」
「貴女は、あの日の…」
そうか。私たち、お互いの名前知らないんだっけ。
「わ、私、東雲有紗です。この間は…」
私は真っ先に自分の名前を、あの女性に伝えた。
「いえいえ、こちらこそ。あ、えーと、私は、皆喜多美鶴です。」
お互いの自己紹介を済ました後、私たちは、童子村について自分たちが覚えている範囲で話し合った。
まさか、一回りぐらい年上の女性とこんなに話が弾むなんて思わなかった。
十五年前、童子村に行った時や言った人の状況を聞き出すと、童子村へ行く人の共通点がわかった。
まず、噂とか都市伝説のせいで童子村と呼ばれているけど、実はあの場所は単なる山奥にある無人神社で、童子村の存在を信じないで普通にお参りに行ったけど運悪く童子村に行ってしまった人。次に私たちみたいな単なる肝試しで行って童子村に運悪く迷い込んでしまった学生たち。そして、学校の先生や人の目を盗んでイジメや暴行、殺人等犯したい人たちが行く場所でもあった。
…刑事さんもこの話、知っているのかなぁと、ふと思った。
「でも、入院って本当に暇ですよね。退院したら、私、刑事さんと事情聴取ですよ。」
「私の時もそうだったなぁ。」
あ。美鶴さん、敬語じゃなくなったから、私に心を開いてくれたのかな?
「今日、その刑事さんがお見舞いに来てくれたんですよ。」
「そうなの?どんな刑事さんだった?」
「若い刑事さんで。でも、愛想がよくて飄々としているんですけど、なんか軽薄な感じも若干あるって言うか。外見は、私の好みなんですけどねえ。育ちが良さそうで。」
私が今日、お見舞いに来てくれた刑事さんのことを話し終わった後、美鶴さんは、椅子の近くにある壁に張り付いた時計を見て、立ち上がった。
「ごめんね、もう、時間だから行かなきゃ。またね、有紗ちゃん。話し相手になってくれてありがとう。楽しかった。」
美鶴さんは、そう言って私に向けて手を振って、違う病棟へ向かって行った。
私はあの後、自分の点滴を持って自分の病室に戻って、窓から見える風景を見ていた。
今、財布を持っていないから、テレビカードを買ってテレビを見ることもできなかったから、ものすごく暇だった。
こういう時って、多分、自分を見つめ直す機会なのかなーって、思った。
だがしかし、どうしても、童子村での出来事が思い出せない。この病院に来るまで何が遭ったのだろう。
夜になったので、今度は若い女性の看護師さんが夕食を持ってきてくれて、私の検温と血圧を測ってくれた。
「今日も体温も平熱ですし、血圧も正常の範囲ですねー。順調ですね。ですが、何か体に違和感とか無いですか?頭痛とかしていないですか?」
「大丈夫です。それどころか段々、回復しているような気がします。」
「そうですかー。早く退院許可が出ると良いですねー。」
「はい。」
若い女性の看護師さんは、私の検温と血圧の結果を書いた後、私の病室から出て行った。
夕飯を食べ終わってしばらくして、またあの若い女性の看護師さんが、食器を取りに来て、一言、「下げますねー。」と言って、そのまま食器とトレイを持って、病室から出て行った。
また病室の中で一人だ。孤独の空間。寂しくなるなぁ。
早く寝ようと思って、洗面台に行って鏡で自分の顔と歯を見つめながら、歯磨きをして、ベッドに戻って、仰向けになって寝転んで、目を閉じた。
刑事さんと事情聴取するとき、美鶴さんと話したことも言わなきゃ。
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