願いと絆を勇気に換えて欺瞞の声に立ち向かえ。緻密に織られた成長の物語。

 舞台となるのは、選ばれた者のみが魔法を行使できる世界。水晶魔術師でありながら落ちこぼれだった少女シリカが、姉から魔力を奪った人物を追うため、各地を旅する物語です。

 魔術の扱いに長け華々しい活躍をする姉の陰で、うまく術を扱えないことに悩んでいた妹のシリカ。自分の抱える悩みや葛藤を姉に伝えられないまま、思わぬ相手に姉を奪われてしまうことで、否応なしに戦いの道へと引き込まれることに。
 魔力を扱える人物は非常に希少で、地域によっては魔術師(や類する職の者)が一人しかいない、という場合もあります。強い力を持つほどに負担が増す、という現実。その特別性が、物語の裏側で進む企みと深く関わっているのです。
 劣等感と嫉妬心により引き起こされた悲劇が各地に伝播してゆき、やがて……という流れは、誤解とすれ違いを軸に据えているため心理描写が多く、明確な悪人でないのに道を違えてしまう過程が緻密に描かれてゆきます。

 シリカの目的は、またシリカに加わる旅仲間たちの目的は、大切な人を救うこと。
 しかし加速していく陰謀は、そんなささやかな願いなど容赦なく踏み潰そうとします。巡りめぐった悲劇の先に救いは得られるのか。ゆっくり完結を見守りたい物語、ぜひご一読ください。

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