国の資源たるクリスタルを守るため、絶大な力をもたらされた人間がいる。
人呼んで水晶魔術師。その一人に選ばれたリビラはその名に相応しいだけの力を持っており、その力もまた治安維持のために行使していた。
一方、才能に恵まれなかったその妹シリカは、日夜人のために動くリビラに劣等感を抱いていて……。
一見するとシリカ側からのリビラへの嫉妬や劣等感のみで埋め尽くされそうなところ、リビラの妹を思う気持ちもまた同じように細かく描かれており、視点者それぞれが客観的に見れる作風をしています。
一方で両親が水晶魔術師であるに関わらず自身は才能にも選ばれず、やむを得ず医者の道を選んだレイク。彼の心もまた綿密に描かれており、そこには水晶魔術師への憧れだけでなく、口にも出せないようなどす黒い気持ちと、それに端を発する彼の活躍がまた物語をかき乱します。彼の存在が役割でしかない「悪」を否定しており、かなり示唆に富んだ内容に見受けられます。
オリジナティ溢れる世界観の上で「人間」を等身大のまま描かれています。総じてどのキャラも強烈かつ魅力的。
水晶魔術師なる英雄の肩書きに悩み苦しむ人間模様は特に必見で、作者様の本気が伺えます。
スルメのように味わえる一作です。
正統派のハイファンタジーが好みで、カクヨムの中で探している方も多いのではないでしょうか?
この作品もまた、重厚な世界観と綿密な設定が魅力的なファンタジーです。
主人公のシリカは見習い水晶魔術師でしたが、優秀な姉リビラの力を奪った敵を追うために故郷を旅立ちます。
「敵」という表現を使ってしまったのですが、第一部を読み終えたところであることに気が付くと思います。「敵」と称された彼ははたして「悪」と呼べるのか? と。
旅を続けていくうちにシリカはたくさんの人たちと出会います。
志をともにする仲間、そして彼らに関わるどの人物にも心があり、葛藤があり、その一人ひとりにドラマがあります。思わず感情移入してしまうのも、丁寧に描かれていく心理描写のなせる技でしょうか。
この作品の見所のひとつが上記に上げた人間ドラマですが、もう一つは主人公シリカの成長です。
水の力で魔物を生成して戦うのがシリカの力なのですが、序盤の彼女は自身も力のなさを認めているくらいに、いわゆる落ちこぼれと呼ばれる存在です。
けれども読み進めていくうちに分かるはずです。本当の強さとは何かということを。
主人公のシリカには仲間がいます。そしていつも彼女を応援してくれた姉のリビラがいます。
最初は危なっかしくてはらはらしてしまうかもしれません。けれども、どんな強敵にも立ち向かっていくシリカを応援したくなりますし、迫力ある戦闘描写もまた必見です。
絆と成長の物語、少女の旅の行く末をぜひ見届けていただきたい作品です。
水晶魔術師として人々やクリスタルを守る使命を帯びた少女、シリカ。
決して魔術師として優秀とは言えない彼女は、同じく水晶魔術師である姉、リビラに劣等感を抱いていました。
そんなある日、姉が魔力を奪われるという事件が起こります。犯人はシリカの信頼していたある人物で……。
その日から眠り続ける姉を救うため、シリカは旅立つことになります。
この作品の特徴は何と言っても丁寧な心理描写。
味方のみならず、主人公と敵対する立場の登場人物でさえも、その立場や心情がしっかりと描かれています。
敵となる者たちは、いずれも自分の大切な人とのすれ違いや誤解によって、道を違えてしまった人たちばかり。
その過程が彼らの心情に寄り添って詳細に描かれているからこそ、この悲劇がより際立ち、みんなに感情移入することができます。
戦闘シーン、特に最後の戦いは、正に心と心のぶつかり合い。
魔術師なので魔法は使っているのですが、その中で繰り広げられる濃厚な人間ドラマは読者の胸を強く打つことでしょう。
読み応えのあるドラマをお求めの方、是非ご一読下さい。
魔術師が存在する異世界。
水を利用し戦う水晶魔術師の見習いシリカは、優秀な魔術師である姉を慕いつつも、劣等感を抱いて暮らしていました。
ある日、信頼していた人物に姉が魔力を奪い取られる場面を目撃してしまいます。
シリカは姉を救うために旅立ち、様々な経験を通して心を成長させていきます。
この物語には、生まれながらの悪者はいません。主人公と敵対する陣営はあるのですが、「悪者」ではない。個人的には、そう思います。
いずれの人物にも、そうなるだけの理由があるからこそ、主人公たちと敵対することになるのです。
このように思わせてくれる理由はやはり、登場人物全員の心理描写が巧みで、敵味方問わず説得力をもって描かれているからだと思います。
一人一人の価値観や心の動きが、時には痛いほど読者の胸を打ち、気づけば彼らに感情移入しているはずです。
物語の舞台は異世界で、魔法も魔物も出てきます。手に汗握る戦闘シーンもあります! ファンタジー好きの方々ならば、もちろん楽しめるはず。
一方で、ハイファンタジーはさほど読まれない方々にもおすすめしたいです。人間ドラマがお好きな方でしたらきっと、夢中になって読み進められるのではないでしょうか?
多くの皆様にお読みいただきたい一作です!
選ばれた者のみが魔術師となる世界で、優秀な水晶魔術師である姉に劣等感を抱く主人公。劣等感や嫉妬や焦燥や、そういった闇ともなる感情は誰もが抱いているものだろう。
選ばれた者といえども、例外ではない。そうした闇に飲まれるのか、それとも向き合い乗り越えるのか。
魔術師の物語ではあるが、人の心というものを丁寧に描いた作品でもある。何を思い、何を願い、何に焦がれるか。そしてそれを利用した者の思惑は。
すれ違い、道は分かれ、再び出会う。そして通じるその瞬間と、それゆえの続き。
どうか彼らのささやかな願いが報われるように願わずにはいられない。ぜひご一読ください。
第一部まで拝読したレビューになります。
国の資源であるクリスタルを守るために、水晶魔術師と呼ばれる者たちがいる。本作の主人公であるシリカは、水晶魔術師としてまだまだ駆け出しの少女だ。
彼女には同じく水晶魔術師である優秀な姉、リビラがいる。リビラは昔から水晶魔術に優れ、街の人々からとても頼りにされている。そんな彼女と上手く水晶魔術が扱えず臆病な自分を比べて卑下するシリカ。憧れは嫉妬に変わり、嫉妬は毒となってシリカを蝕む。リビラは自分の力を引き立たせるためにシリカを水晶魔術師に推したのだと。
この辺りの心理描写が見事で、シリカの葛藤や嫉みがよく伝わって素晴らしかったです。
そしてリビラの恋人でもある医師のレイクは水晶魔術師の家系だったが、魔力がないことで自尊心が渇き、「善良な医師」という仮面を被ることでそれを満たしている。そんな彼がとある浮浪者に善人面をしたところから、事態は急変します。
リビラが強く気高くあればあるほど、シリカとレイクの影は増していく。でも、その影に屈するかどうかが二人の命運を分けたのだと思います。シリカはこれから弱い自分と向き合い、きっと影を照らす光になるはずです。
素敵な作品に出会えたことに感謝を。
これからも応援しています!
舞台となるのは、選ばれた者のみが魔法を行使できる世界。水晶魔術師でありながら落ちこぼれだった少女シリカが、姉から魔力を奪った人物を追うため、各地を旅する物語です。
魔術の扱いに長け華々しい活躍をする姉の陰で、うまく術を扱えないことに悩んでいた妹のシリカ。自分の抱える悩みや葛藤を姉に伝えられないまま、思わぬ相手に姉を奪われてしまうことで、否応なしに戦いの道へと引き込まれることに。
魔力を扱える人物は非常に希少で、地域によっては魔術師(や類する職の者)が一人しかいない、という場合もあります。強い力を持つほどに負担が増す、という現実。その特別性が、物語の裏側で進む企みと深く関わっているのです。
劣等感と嫉妬心により引き起こされた悲劇が各地に伝播してゆき、やがて……という流れは、誤解とすれ違いを軸に据えているため心理描写が多く、明確な悪人でないのに道を違えてしまう過程が緻密に描かれてゆきます。
シリカの目的は、またシリカに加わる旅仲間たちの目的は、大切な人を救うこと。
しかし加速していく陰謀は、そんなささやかな願いなど容赦なく踏み潰そうとします。巡りめぐった悲劇の先に救いは得られるのか。ゆっくり完結を見守りたい物語、ぜひご一読ください。