名探偵・明智ホムのお気持ち

結騎 了

#365日ショートショート 001

「ホムさん、まさかとは思いますが、もう犯人の目星がついているんですか?」

 連れ添ってもう何十年になるだろう。私の助手・和都くんがそう尋ねた。彼と一緒に籍を置いているスノボサークルの旅行で、またもや死体と出会ったのだ。ここは雪山のペンション、泊まっているのは我々8人だけ、おまけに猛吹雪で警察はしばらく来られないときた。

 名探偵の明智ホム。私の名を知らぬ者はそうそういないだろう。私立探偵として警察に協力し、長いこと第一線で活躍してきた。数えきれないほどの事件を解決してきたが、そろそろ体にもガタがきている。高尚さを求められることにも疲れてきた。悠々自適に生きていきたい。そう、ちょっとはワガママに暮らしてもいいじゃないか。これまで散々、人と正義に尽くしてきたのだから。事件だって、たまには解決できなくてもいいだろう。一つや二つ迷宮入りになったって、きっと私への依頼も減りやしない。

「いや、私としたことがさっぱり分からない。しかし、自分のサークル仲間が殺されたんだ。そして犯人はこのペンションの中にいる。私が解決する他にないだろう」

 そう和都くんに答えると、私はロフトへ伸びる梯子に手をかけた。ぎし、ぎし。慎重に登っていく。死体の位置から明白だが、犯人はロフトを渡ってに近づいたのだ。それは分かりきっている。他の経路からでは、酒盛りの席からの目撃を避けられないのだ。そう、。無惨にも血を流し息絶えている。アイスピックのようなもので首を一刺し。決して悪いやつじゃなかった。やや常識に欠ける立ち居振る舞いや、他人への配慮に欠ける場面が多かったが、私とて長い付き合いだ。のことはよく分かっている。

「ホムさん、どうですか。犯人の足跡があるとすればロフトですよね。ホコリも積もっていそうですし、残っていれば有力な手がかりなのですが」

 そう急かすな、和都くん。暗いロフトには灯りがない。スマホを取り出し、懐中電灯を点ける。宙に舞うホコリの先に、いくつかの足跡があった。

「むむっ、これは」

 危ない危ない。やはり暗いところは注意力が落ちるというものだ。袖を伸ばし、床に擦り付ける。

「ホムさん、見つかりましたか」

「すまない。足跡かと思ったが見間違えのようだ。しかしここは本当にホコリっぽいな。袖がすっかり汚れてしまったよ」

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