第10話 性質
私、篠田 魁渚は、かつて師からこう教えられた──
死神とは何であり、天使とは何であるか。
死神と天使が共存する世界。それを神学に置いて
その存在は神話、または神学における妄想、架空の存在と世間一般の人間は確定させている。
しかしそれは世間一般の人間だけの話しであって、神々を信じ、その息吹に触れようと一般から外れた非凡な人間は当てはまらない。
そう、それが天使狩りである。
しかしその天使狩りのみが非凡に当てはまる訳では無い。天使狩りはあくまで、非凡の一端にしか過ぎない。
神学の正当な道を外れ、世間に知られていない、その先にある
それに相対して、天使と死神を呪い、抗い、戦い、生き抜いたもの達の組織である
そしてそのふたつの組織は互いの理念をぶつけ合い、約300年にわたって社会の裏で競いをかけていた。
因みに、天使狩りは人会の末端の組織のひとつであり、その矛先を天使に向けてきた。
天使とは何か、死神とは何かを知り、長く及ぶ研究の末に天使が人間の寿命を吸い取って生きていることが判明した。
同時に、死神が善良な神から信仰によって悪意を孕む神になったことも判明した。
先に語った、失意の邦、パラディソスには神々が住まうとされており、世界を創世し、天使を従える唯一神がいると情報が天使からもたらされた。
同時にそこには数多くの神がおり、死神もそこにあった。
しかし、信仰の差から醜く変貌していく死神の姿を、神々は悪魔と揶揄し、永久に追放した。
そうして彼らは唯一神が創った地球に墜ちた。
彼らは一体何を思ったろうか。
それは彼ら自身にしかわからないが、ただ1つ明解なことがある。
それは、
彼らは憎しみによって、神々にも抗う圧倒的な力を持つことになったということだ。
そしてそれに危惧の念を抱いた神々は自らが従える天使に死神の殺戮を命令した。
しかしその天使らが何故人々の寿命を吸い取るのかは未だに解明されていない。
しかしひとつ判明していることがある。
それは、天使が死神の心臓を喰らうことでより賢く、より強靭になるということだ。
だが、神に従う身である彼ら天使がなぜそのような行動をするのかが未だに分からないのだ。
神に命令されているのか、または自らの意思で行っているのか。
私、篠田 魁渚は天使狩りとして自らの体を動かし、また、1人の天使と共に天使を殺してきた。
天使の名はキリ。彼女との邂逅についてはまたいつか話すとしよう。
そして彼女が先日、私達の会社であり居住施設でもある、この廃れた見た目のビルに1人の少年を運んできた。
私がこの時をどれほど待ち侘びたか。
少年の名は七海 千寿。
死神の子だった。
彼の父、母は共に天使に殺された。
そしてその彼の父は死神であり、数多の天使を殺し、蹂躙を見せたこと、そして人間の愛人がおり子供がいたことが情報として私の元には入ってきていた。
その子供の行方はわからず、私たちは天使を狩ると共にその子供を探してきた。
そうしてやっと私は彼を見つけることが出来た。
これは本当に幸運だった。
たまたまキリを天使の抹殺のために向かわせ、そこで天使に精神を汚染され洗脳された一般人がキリを殺そうとした時、彼が飛び出してきたそうだ。
キリはこの時、天使に体の精神の自由を奪われ、筋肉を動かすことができなかったと報告している。その天使は精神系統の天使であるだろうが、結局は殺せずのままであり、後に殺すしか選択はない。
話が逸れてしまったが、そうして彼はキリに向けられるはずだった刃を己の身に受けた。
刃は彼の臓器に穴を開け、鮮血を咲かせた。
そうして死に至った。
しかし、そこからが問題だった。
彼は死ななかったのだ。
死神は神々によってしか殺されないからだ。
この定義はまたしても曖昧なのだが、たかが人間の使うような刃物では死神を死に追いやることは到底出来ないのだ。
人間としては死ぬが、死神としての側面を持つ彼は絶対にその程度では死なない。いや、死ねない。
そうして彼の致死の傷は、数秒の後に治癒された。そのためキリが彼が意識を失っているなかここまで運んできたのだ。
幸か不幸か、彼はそうして死神としての性質を私たちの目の前、または自分自身の前で発露させてしまったのだ。
またいずれ、彼の話をする時が来るだろう。
しかし今は彼を見守ってやろう。
いいや、彼と彼女と言うべきか。
死神と天使は相容れぬ存在であるが、それは神として、または天使としての性質の話だ。彼らはれっきとした個の1人としての人間の性質を持ち合わせている。
だからこそ見守ってやろう。これは私、篠田 魁渚のためでもあるのだから──
死神と白き少女の夜 きむち @sirokurosekai
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