虚構を入れると見える現実

小説は、現実から隔たった設定を持っているからといって、主題が、情感が、現実と隔たっているとは限りません。

本作は、紹介文からして突飛で、読み進めるとさらに現実離れしていきます。

でも、それは本当に現実離れなのでしょうか。それならば、どうして、読者は主人公に共感するのでしょう。どうして結末に納得するのでしょう。

カクヨムには文系の人が多いのですが、ここで理系の話を持ち出します。数学には「補助線」という考え方があります。どうやって答えを導き出していいか分からない図に、一本線を引いてみると、答えまでの階段がきちんと繋がることがあります。その、会談を繋げるための、元々の図になかった線が「補助線」です。それは回答者が勝手に引いた線ですが、答えを得るためには必要な線です。

現実から隔たった設定は、現実に対する「補助線」になることがあります。素の現実では見えなかった真実が、その設定を入れることによって見えてくる、という具合に。

本作はきちんと現実に「補助線」を引きました。そして得られた回答は、皆様にとって納得できるものでしょうか。最後は読者に委ねられています。

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