エピローグ

 東の丘の上の館の貯蔵庫に帰ってきたウィローは、扉を開けるなり我慢しきれない様子で叫んだ。

「明日! すぐ出発するよ! 旅の支度!」

「ウィロー様、何事ですか?」

 フェルンが落ち着いて問いかけると、ウィローはオフィーリアの手を握りながら答えた。

「オフィーリアの喉を治療できるお医者様がいるんだって! プリントン・ウーデ音楽院のアウトゥームナ先生から返信が来たの! 以前、プリントンにいた先生で、音曲で喉を潰してしまった時の治療法を研究していたお医者様がいるんだって」

「本当ですか! 良かった!」

 オクサリスが、口に両手を当てて目を見開いている。

「その先生は、今はフォリアノ・ベラ・プルラント音楽学校に赴任しているって。明日の朝、すぐに出発しよう。治療するなら、できるだけ早い方がいいから」

 オフィーリアは、その学校の名前を聞いた途端、ずしりと胸に杭を打ち込まれたように息ができなくなった。


「俺の父親はフォリアノ・ベラ・プルラント音楽学校で校長をやってるんだ」

「はっきり言うが、お前は邪魔だ。今すぐ消えろ」

 憎々しげな口調が脳裏によみがえる。あのエルフが、まだいるとしたら?

 喉を治療して、またウィロー様に、音曲を歌うお勤めができるようにならなければいけないとは思う。けれど、あのエルフがいる学校には、恐ろしくてとても行けない。

 口に出して言えないオフィーリアの様子には気づかず、ウィローは嬉しそうに旅の準備をオクサリスに指示してから、オフィーリアを抱きしめてささやいた。

「オフィーリア。声が戻ったら、またいっぱいおしゃべりしよう! 早く、オフィーリアの声を聞きたいよ」

 私も、ウィロー様とお話ししたいです。音曲をお届けしたいです。でも……。

 オフィーリアは、静かにウィローを抱きしめ返した。


<完>



――――――

以下、続編の予定です。

第二部 音曲士オフィーリアの卒業

第三部 音曲士オフィーリアと始まりの歌

第四部 音曲士オフィーリアの愛弟子たち







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音曲士オフィーリアと水のエルフ 代官坂のぞむ @daikanzaka_nozomu

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