自分を簡単に表す言葉を、探し続けている。

ゲイ、レズビアン、バイ・セクシャル、ポリアモリー、ポリセクシュアル、パンセクシュアル、フレイセクシュアル、アセクシャル・アロマンティック……。
トランスジェンダー、性同一性障害、Xジェンダー(ノンバイナリー)……。
性的指向や性自認を表す多くの言葉は、一つ一つをとっても到底1発で覚えられるものではありません。
私はうろ覚えでポリアモリーを検索しようとして人生ゲームが、フレイセクシュアルと検索しようとして揚げ物のレシピが出てきたことをここで告白します。

作中で、主人公の友人が言います。

「男か女か?そんな簡単な質問にすら答えられないのだるくね?レズじゃなくてレズビアンとかそういう言葉狩り?いちいち気にしてたら疲れるだけだろ。」

これを言える人は、幸せです。
「男は性欲が強いから」「女はか弱いから」「男は力仕事ができるから」「女は母性本能があるから」「男は序列を決めたがるものだから」……。

ああなんて簡単に、自分に都合よく言い訳できるのでしょう。
なんも考えず言った発言の責任を、集団としてメジャーな「性別」に負わせることが出来るのですから!

でもマイノリティにはそれが許されない。自分を表す言葉を見つけても、「何それ」「面倒くさい」「覚えられない」「細かい」と言われ、それらを自分の言葉で丁寧に説明する度、「そんなことは有り得ない」と鼻で笑われるのです。

その名前が誕生した歴史と、その人の今まで生きてきた人生を、「嘘だ」というたった一言によって、一瞬で粉々に割ってしまうのです。しかも多くは、「割ってしまった」ということすら気づかないで、そのまま笑いながら去っていくのです。
一体、どれだけの人が、築き上げられたものを簡単に割られるのを見て、見向きもされないまま残されたものを見て、どんどん離れていくのに耳にずっと残る笑い声に、途方に暮れたのでしょう。

一番自分を簡単に表せるのは、自分の名前です。
でも、女性の多くは結婚して持っていた苗字を捨てるよう強制される。そして離婚しない限り、「夫」の家名を死ぬまで名乗らされ続ける。
そもそも生まれてきた命は、「自分の決めたものでは無い」ものを「親から与えられたものだから」と押し付けられ、自分が考えてつけたハンドネームは「偽名」だと言われ続けています。


他人の言葉が「ただしいこと」で、自分の言葉は「嘘だ」と、圧倒的大多数の人間から「嘘つき」呼ばわりされ続ける痛みが、怒りが、絶望感が、あなたの歴史にはないというのですか?

勝手ながら、私は信じています。
きっと形は違っていても、それが自分には無い感情や欲だとしても、
それでも自分の中に根付かせることが出来ることを。

その他のおすすめレビュー

肥前ロンズ@仮ラベルのためX留守さんの他のおすすめレビュー3,152