鵺子鳥 片恋づまの 思ひ色

鵺と言えば日本妖怪上で至極有名な合成獣。
そのルーツは、元来トラツグミを指すとされ、そこから転じて夜に聞こえるトラツグミの不気味で物悲しげな鳴き声から想起された、音を源とする怪異とも言うべきものと目されます。
まあ、妖怪としての鵺を語る上では欠かせない源頼政の鵺退治のバリエーションからは、初期は一応鳥の姿で考えられたと思われる(『十訓抄』参照)わけですけども。うん、同じく頼政の鵺退治を収録してる『平家物語』は全体的に大衆娯楽として、バンバン変更加わってますからね。
その一方で、その有名なキメラ的姿から転じて「正体のはっきりしないもの」との意味合いを持ちます。

さて、無駄に長い前置きを挟みまして、こちらの作品における鵺ですが。
複数の怪異、複数の怪談、複数の思惑、複数の呪詛、複数の宗教が絡みもつれて数多の鵺を成している……というのが現時点(2021/12/31)で観測できる範囲でしょうか。
そっち系知識の有り余ってる考察好きの自分としては、要素一つ拾って眺めるだけでもにやにやものです。

一方で、湿り気を帯びながら痕跡だけ残して這いずり寄り、否が応でもその確固たる存在感を刻み込んだ上で、とどめとして顕れる怪異の悍ましさはジャパニーズホラーの醍醐味とも言えましょう。

いまだその全体像の明確化に至らぬこの鵺は、果たしてどのように腑分けされるのか。
はたまた、主人公にまつわる謎はどのように今後に影を落とすのか。
点と点がつながって描き出される鵺は一体なのか、複数なのか。
続きをとても楽しみにしております。

なお、一言紹介については、タイトルから「そういえば枕詞に鵺関係のやつあったな〜」などと思って、このフレーズが浮かんだわけですけれども、現時点の情報で下の句をつけるなら

まがひは沈き いさめるはあし

でしょうか。

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