low-keyな恋人たちの怪異譚

この話を終わりまで読んだとき、奇妙な清涼感を感じた。文章は素晴らしく読みやすいし、私好みの怪異探求ものなのだけど、それだけではなく、展開への期待が次への ↓ を押させた。
主人公米田は焦ったり喚いたりすることのない淡々とした性格で、大学生としては落ち着いている。留年でさえ、次のタームで卒業すればいいやと冷静にとらえている。女性が寄ってきても嬉しさより厄介ごとを避けたいという警戒心のほうが強い。墓場に毎夜立つのもいとわない、立ち入り禁止の場所に気にせず踏み入る変な女、乃亜とも恋人になるのに結構な手間がかかったと思う。要するに何物にも執着が薄い《いわばlow-keyな》、ガッつかない男なのだ。

そして彼女の存在が消えたというのに、まだ淡々と暮らす。
でも皆が彼女の存在を忘れても、今まで通りにくらしていても、米田はある確信をもって、今度は耽々と彼女の存在を確認するために大胆な行動を起こすのだ。なんとまあ、静かに熱い愛だろう。気の長い愛だろう。彼女がいつの間にか米田を変えていったのか。いつの間にか私も、米田とともに熱くなっていた。

ーー来い、乃亜。
と。

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