新作予告 山城が入ったサークル
「おい、山城」
編集長の矢田部さんに呼びつけられ、俺は「なんかやっちゃったかなー」と思いながら返事をする。
「はい!」
そして、矢田部さんのデスクの前に駆けつける。
狭い狭いオフィスフロアなので、俺の歩幅なら数歩だ。
「米田の本に重版かけることにしたから、あいつに連絡してやれ。あとお前ら二人とも飲みに連れてってやるからなんか食いたいもん考えとけ」
「やったー。ありがとうございます!」
「お、おう。そんなに喜ぶことか? おい、もう泣いてんじゃねーか」
「米田さんが世間に認められたことが嬉しくて」
「そんな大げさなことじゃねーからな。1000部だけだ。世間とかじゃない」
とにかく先輩の本が多少なりとも売れたということが嬉しかった。
「来週の金曜とかどうだ?」
「大丈夫……です」
「その間はなんだよ」
俺はスマートフォンを取り出すと、新しく所属することになったサークルの飲み会の出欠表に×を入力する。
「いや、サークルの飲み会入ってたんですけど、キャンセルしたんで大丈夫です。最近サークル1個増やして、まだそんなになじんでなんで一瞬悩んだんですけど米田さんの重版祝いより大事な用事とかないんで」
「もうお前の米田リスペクトは宗教だな」
このやりとりを聞いていた営業の東さんがまるで独り言をつぶやくように訊ねてくる。
「山城君って何のサークル入ったの?」
「オカルトサークルです」
「そんなんあるんだ?」
「うちの大学なんでもあるんですよ。オカルトサークル入って色々勉強しようかなって」
「こんなにうちのバイトに積極的な学生、久し振りだなぁ」
東さんが言うと矢田部さんも続く。
「おぉ、それならお前が卒業した後もうちのバイトは安泰だな。今からしっかり良い生贄を厳選しとけよ」
「なんつー言い方っすか。でもみんな怪談とか好きそうなんで、誘ったら喜ぶと思います。ってか、ここの出版社で働いてるって言って初めて知ってる人に出会いましたよ。羨ましいとか言われたし」
「ますます素晴らしいな。絶対そこのサークル辞めるなよ」
なんだかここにバイトに来て初めて褒められたような気がするが、その内容が自分の努力と関係ないことに俺はやや複雑な気持ちになりながら、米田さんに来週の金曜日空いているかLINEを送る。
先輩は『あぁ、重版か。意外と売れたんだな。僕はいつでも暇だから金曜でいいよ』と相変わらず、喜んでいるんだかわからない熱のない返事を寄越してきた。
――――――――――
本日20時から新作オカルト恋愛小説の連載をスタートすることにしました。
タイトルは『あなたはイカを信じますか?』というタイトルです。
この小説の舞台は本作『よみかの』の数年後のお話で、山城が新しく入ったオカルトサークルが神秘体験をしたことをきっかけにカルト宗教化していくという内容になります。
是非、こちらもブックマークやお星さま評価をいただけますと幸いです。
本日は『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』書籍版の発売日でもありますので、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない 和田正雪 @shosetsu
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