第4話三人寄れば姦しい

「まあ、そんなかしこまらずに、これからよろしく頼むよ、兄弟!」


「ちょっとベル、初対面なのに馴れ馴れしいわよ! レン君が困っていでしょ」


「アーネットの言う通り。君からもなんか言ってやるといい」


 目の前にはガヤガヤとリラックスして好き放題に喋っているこの屋敷の使用人の姿がある。まるで仲の良い友達でお喋りに花を咲かせているようで普通に見える。さっきまでの静粛な姿とはほど遠い。


 どうしてこんなかしましい状況になってしまったのだろうか。




 それは少し前の話に戻る。


 さっきまで厳粛な雰囲気の中、俺はキキに案内され、この部屋に入った。そこではキキと同じ使用人の服を着ている二人の人物が立って俺たちを迎え入れてくれた。


 その二人もキキと同じような硬い無機質なような雰囲気と佇まいをしていて、ここの使用人に対する教育の高さを感じていた。この部屋でも緊張した空間になると覚悟した直後、カチンッとキキが扉と共に内鍵を閉めた。



 瞬間、部屋の雰囲気が変わった。



 キキが部屋にいた二人の使用人に声をかけた。


「彼が新しい同僚よ。ほら、君からも挨拶しなよ」


 この時初めて、俺はキキと目があった。そして、さっきの表情はまったく逆の、ワクワクしながら俺を見ている二人に少し気圧されながらも挨拶を始める。


「俺はレンだ。さっきご主人様に拾ってもらった奴隷だ」


 突然、挨拶と言われても言葉が出なかったため、名前だけを伝えた。


「レンっていうのか、私はベルって言うんだ! これから頑張って行こう! よろしくな!」


「こんにちはレン君。私はアーネットって言うの。これからよろしくね」


 ベルは褐色の肌で黒髪のショートヘア。フレンドリーで笑顔がまぶしく元気溢れるタイプのようだ。アーネットは赤髪のロングヘア。気品があり所作振る舞いが綺麗で少しお節介焼きが好きなようだ。


 俺の簡潔な挨拶にきちんと返してくれた二人に再度よろしくと伝えた。ただ、先ほどまでの雰囲気と変わり過ぎていて気になった。


「……やけにさっきまでとは雰囲気が違うのは仕事とそれ以外時の切り替えか?」


「ええそうよ。私たちはこの与えられた自室で部屋に鍵をかけた時のみは仕事から離れるの。それでこういう風に普段の私たちを出すことが許されているの」


 キキが俺の目を見ながら説明してくれた。やはり教育の賜物だったようだ。


「そうか」


 短く返事を返すと、話がわずかに途切れたので部屋を見渡す。扉を背にして、両方の壁際に二段ベッドがある。そして部屋の奥に縦に長い四つの扉が付いた衣装ケースが置かれていて、その内の三枚の扉には名前が記載されている。


 扉から見て左ベッドの下段は使用感が無いため、俺の割り当てになるのだろう。まさか奴隷になったのに、きちんと睡眠が取れる環境を与えてもらえたことがありがたかった。


 ただ、彼女たちは初対面の異性が部屋で生活することをあまりにも素直に受け入れているようにみえる。自然だったから最初は気にしなかったが、若い彼女たちにとって異性がいることはさすがに負荷をかけることになると思う。例えご主人様の命令だったとしても。


「俺がここで生活することに不服な部分もあると思うがよろしく頼む」


 俺の言葉を受けて、キキがこちらを見た。


「不服なんてないわ。スカーレット様が決めたことに一切の不服も反対も無いわよ。それに私たちはそういう存在だから」


 他の二人も同様のようだ。


 部屋では仕事から離れると言っていたが、奥底の精神的な部分ではご主人に従っているのであろう。その強い忠誠心のようなものを三人から感じて、少しこの三人が怖く感じた。


 それからは個人の話をして、簡単に挨拶を済ませた。


 三人はそれぞれ仕事があり部屋を出る。何も決まっていない俺は、時間になったらキキが俺に声をかけてくれることになっているため、俺はこの部屋で休むことになった。


 俺はさっそく自分のベッドに行き、腰を掛けた。多くのことが起こりすぎて脳の整理が出来ていない。それに、自身の今後も気になるが、やはり家に残されたサラが気になる。


 こうやってサラの生活が平穏に過ごせることを祈るしかできないことが悔しい。何かできることはないかと考えてこんでいると、部屋が二回ノックされた。もう時間が経って迎えが来たようだ。


『挨拶は立って丁寧に行わないといけない』


 俺は教わったように対応すべく立ち上がりキキが部屋に入るのを待つ。


「貴方のウェルカムディナーが用意されているわ。これから部屋に向かうからついてきて」


 部屋に入ってきたキキは端的にそれだけ告げた。

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