第12話初めての前夜
そこから俺は全ての使える時間を剣闘剣技会で勝利するため、"覇者"になるために使った。
まずは体を鍛え始めることにした。いくら今まで獣狩りをしていたとはいえ、人間相手に戦っていたわけではないので、武器を持つための力や人と組み合うための筋肉をつけることにした。早朝からの走り込みの自重を使って上半身や下半身に負荷をかけて筋肉の破壊と再生を繰り返す。袋に砂を入れてそこに拳を打ち込み、拳の強化と殴打力を鍛えていった。
今までの獣と対峙するのとは違う、人を倒すための戦闘方法を学ぶ。
それに合わせて、ご主人様にお願いして筋肉の元になる肉料理を多めに食べさせてもらうように頼み体の肥大化を行った。この戦いに参加する者のほとんどが非常に筋肉質であり、肉体的に引けを取らないように食事も変えさせてもらった。
あとは武器を一通り用意してもらい、色々な武器を使い自分に合った武器を探した。
この剣闘剣技会では、参加者は一人一つだけ武器を持って参加することができる。だから参加者は自分にあった武器を事前に準備してこの戦いに挑む。
しかし、多くはこん棒や槍といった武器を使っている。それは力任せに叩く、潰すことでも相手を倒すことができるといった面や敵の間合いの外から刺せるといった面のように非常にお手軽で強い武器であったからだ。それにもし武器を失ってしまったとしても、自身の肉体で相手を倒せると思っている者が多く、武器にこだわるものは少なかった。
だけど、俺は違う。この武器選びこそが剣闘剣技会で勝利を収めるために重要な要素の一つと考えている。確かに一回や二回この戦いに勝つのであれば、こん棒等でもいいだろう。
しかし、何度も勝ちたいと思うとそれは厳しい。なぜなら何回も勝利を収めた勇士は対戦相手からも警戒され、どのように戦うかも調べられ、癖や弱点を突かれて負けるということがよくある。というか、通常はそれを繰り返している。
弟様は槍と剣を大会毎に変えており、相手に癖を掴ませないようにしていたそうだ。
だからこそ俺は多くの武器を使い、この戦いを勝ち続ける。
戦闘訓練と肉体強化を初めて半年、俺はついに剣闘剣技会に参加することができることになった。俺個人としてはすぐにでも参加したかったが、ご主人様から半年は肉体強化をしっかりしてから参加するように指示がでていた。
初めての剣闘剣技会前夜、俺は少し緊張していた。
「レン、どうだ? 緊張して眠れないか?」
ベルがそう、自分のベットから俺に声をかけてきた。
「ちょっと、ベル! 緊張しているレンにそんなこと言っちゃうとより意識しちゃうでしょ!」
アーネットはいつものようにベルにそう突っ込んでいた。
「レンは大丈夫。あんなに血がにじむような努力してきたんだから、何も心配いらない」
キキもこちらに優しい言葉をかけてきた。
この半年間、俺の訓練には必ずキキ、ベル、アーネットの誰かもしくは全員が付いていてくれて応援して協力してくれていた。自分で決めた道ではあるが、肉体的にも精神的にどうしようもなく辛い場面が何度もあった。上手くいかなくて焦燥感に駆られていたりもしていた。俺に本当にこの戦いで勝つことができるのかと。
その度に、三人は俺の事を励ましてくれた。どんなに辛くても彼女たちが俺を見放さなかったから俺は、ここまで努力を続けられたと思う。だからこそなんとか明日は勝ちたい。
「やっぱり、あれか。何か勝ったらご褒美があると嬉しいのか? んー、レンの好きそうなものかぁ」
ベルは俺のために勝ったら何かを用意してくれようと考えているみたいだ。こんな発言をすると、アーネットから『レンはそんな子供じゃないでしょ!』とベルはいつものように突っ込まれそうだと思っていた。
「……そ、そうね、ご褒美があって、べ、ベルが喜んでくれるのあれば用意するのはやぶさかでないわね」
珍しくアーネットもベルの言葉にのった。なんだか色々と心配させてしまっているようだ。気持ちだけを受け取ろうと俺が言葉を発する前にキキが言った。
「ベルが望むなら私は、私たちはいいわ。あなたを受け入れるわ」
……ん? なんの話をしているのか分からない。俺はご褒美が欲しいとも、その内容も言っていないのになぜか三人はそれを受け入れるとのことだった。なんだか部屋が変な雰囲気に包まれている気がした。
「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう、三人とも。……ところで、俺が何を望んでいると思っているんだ?」
少し興味本位で聞いてみた。
「そ、それは、あの、その、だから……」
いつもハキハキと喋るアーネットが言い辛そうにもごもごとしていると、キキはためわず言った。
「女?」
どうも詳しく聞いてみると、キキ、ベル、アーネットは三人で俺のために何かを用意しようとしていたらしい。それで普段の生活から俺の欲しそうな物を調べていたけれども、全然欲しい物を読み取ることができずに、周りの少し年上の使用人のお姉さんに相談したらしい。
お姉さんの話によると、俺ぐらいの年齢で元気な男性は女を欲しがると聞いたらしく、だったらそれにしようとしたらしい。それで誰がという話になり、誰もそういう経験が無かったため、三人ともまとめて受け取ってもらおうということになった。最悪、三人いれば一人くらいは好みの子がいるかもという感じで。
経緯と内容はともあれ、俺のために三人がそうまでして応援と気遣ってくれたことが嬉しかった。それだけでも、この戦いで勝ちたいという想いが膨れ上がってきた。もう、緊張はどこかに行ってしまった。
俺は三人に心からの感謝を告げて、眠りについた。
必ず、勝つ。
遠回りする星屑 -奴隷になった俺が俺の生きる意味を見つける物語- 森里ほたる @hotaru_morisato
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