第4話  レモン

「さすが白石。白石じゃないと、いまの絶対ぶつかってるよな」と城山は言った。

「そうかぁ?」と白石は謙遜した。高校二年生の白石と城山は、仲の良い学校のサッカー部員だった。同じクラスの二人は授業が終わっ後、一緒に教室を飛び出して外に走り出すと、校舎に沿って全力で疾走した。白石が校舎の右側を走り、城山は左側を走っていたが、足の速い白石が城山を抜いて、校舎の角を内側から右に曲がろうとした瞬間、反対側から現れた生徒と出くわし、あわや激突するところだった。白石は咄嗟に生徒を避けて、当たらずに済んだ。短距離走と瞬発力に秀でた白石に対して、城山はマラソンなどの持久力と肺活量が抜群だった。心臓の弱い白石は他校との試合で一度もレギュラーに抜擢されることはなかったが、城山は体力が落ちないので常にレギュラーの一員になっていたのである。

 そんな不甲斐ない白石は、嫌いなコーチの先生から罰を受けては、グラウンド五十周や兎跳び一周、鉄棒の懸垂百回をさせられていた。倒れ込む度に、根性無しはさっさとうちに帰れと言われ続けた。サッカー部入部から二年後の最後の試合に突然、補欠で臨むことになった。レギュラー選手の中には後輩の優秀な一年生がいた。白石はその最後の試合にもついに出ることなく、補欠の一年生とバケツ一杯のレモンを運んでは、レギュラー選手たちの疲労回復に水を運んでいた。白石のほろ苦い青春には、鉄の楔が空しく突き刺さってしまった。

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