第8話 湖月
むらさきの うすむらさきに 変われしは
比良のおろしか 月淡き映ゆ
明月や み寺の鐘に さそいしは
慕いつたうる みかどの袖よ
和田清一は滋賀刑務所の刑務官として勤続三十七年間を務め上げ、この春無事に退官した。家族を養い、子供たちもそれぞれが所帯を持って孫も五人いる。近江舞子の自宅から刑務所までは、湖西線と石山坂本線を使って、あとはバスに乗り継いで通勤していた。電車通勤の唯一の楽しみは、琵琶湖の風景を眺めることだった。とりわけ天気のいい満月の夜を迎えると、湖西線の通勤電車は特別な箇所を通るたびに、車内の照明が消され、ゆっくりと走った。湖面に映った美しい満月の光景を観賞させてくれるのである。帰宅時の秋から冬にかけた満月は、特に壮観だった。湖面にゆらめく月の光は、まるで金の鱗が飛び跳ねているようにみえた。
みやびかに ちりばめいづる みずの月
葦のしげみに 小鴨かくるる
酔いしれて 船のうたげに さざなみの
ひたひた鳴くは 恋のきしみか
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