第14話 エクレア
「ハルよ。よもぎは起きたのか?」と寿三郎が訊くと、
「はい。起きてます。ナナだけ、まだ寝てますけど」とハルは返事をした。
「仕方がねえなあ。この頃少し遊びすぎじゃねえのか。ずいぶんめかし込んで、派手じゃねえのか」と困り顔の寿三郎に、「いい年頃なんだから、色っぽくなっても、当然じゃありません」とハルは微笑んだ。
「このあいだアキラのやつ、ずいぶん強くなってな、オレを追い越しやがった」と寿三郎が面白くなさそうにハルを見つめて言うと、「ふふ」とハルは逆に嬉しそうな顔を浮かべて、アキラの成長に喜んだ。長男、長女、次男、次女の子供たち全員はハルにとって生き甲斐のすべてだった。次女の白梅には生まれつきの障害が足に残ったが、生きてゆくには問題はなかった。子供たちみんなが無事に巣立っていってくれたら、ハルはそれだけで十分に満足だった。夫と共に過ごした狗留孫山からの見晴らしはとても良く、これまで最高の環境に恵まれて今日まで家族全員が無事に生きてこれたことにとても感謝していた。
「な、ハルよ。人間たちはずいぶん美味しいものを食ってるなあ。あれは何ていう食べ物なんだ? 駐車場のゴミカゴからあふれ落ちてた細長い奴、旨かったなあ。お前も咥えて持って帰ったろ」と寿三郎が言うと、「ナナが全部食べちゃったから判らないわ。白梅とよもぎに食べさせたかったのに。でもナナは一段と素敵な濡羽色になったわね」とハルは言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます