ブルーベリーの王子さま

古川卓也

第1話  手

 占い師は手のひらを見れば、運勢がみえるというが、私の緑色の手のひらを見て、占い師は何と言うのだろうか。占い師は生命線と手相を見るだけで、手のひらの皮膚の色までは見ないかもしれない。どんな運勢なのか、私は千円支払って占い師に診てもらった。


「未来永劫。迷わずこのまま道を進むべし。福来たる」

なんと、おみくじでも引いたかのような口振りだった。

三十分も水晶玉と睨めっこをして、これかい。三十分千円なら、時給二千円とは、いい商売してるぜ。胡散臭いインチキ商売を承知の上で占ってもらったのだが、私の緑色の手のひらについては、結局、何も触れなかった。カルキの溶剤を使っても、なかなか色が落ちない手のひらなのである。


 鋭利な刃先を持ったスリッターという機械で印刷工場の仕事をしている私は、もう三十年以上になるが、その鋭利な刃先は手のひらをさんざん切り刻み、皮膚の傷に浸透した印刷機の塗料で自然と緑色になっている。手の表は普通の人間の皮膚の色なのだが、裏側の手のひらはまるで植物の葉っぱのようだ。最近、七歳になる孫娘が私のことをヤツデちゃんと呼ぶようになった。もみじのような手の孫が、ごわごわしたヤツデじぃの小指をやたら掴んで放さなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る