第12話 11 闇への脱出 1



 こんな私でも、声をかけてくれる子供ができた。と言っても、私は殆ど頷くだけで、彼の話を聞いているだけだった。そうこうしているうちに、友人のような関係になっていった。当時、その施設で出来た唯一の友人だったと言えるかもしれない。


 どうして、彼とそのような関係になって行ったのかは分からない。もしかしたら、ずっと黙ったまま話を聞いている私を彼が必要としていたのかもしれない。然し、それも私の想像に過ぎない。


 時々「うん」とかの返事をする私に、彼は此処へ来た経緯を話してくれた。


 幼い頃からDVを受けていた彼は、ある程度の年齢になった時に、父親を殴ったそうだ。然も、彼の父親の虐めは、自ら手を出すのではなく、まだ幼い頃から腕立て伏せを100回させたり、腹筋を100回させたり、とにかくしごき倒したそうだ。そんなにまでして子供をしごき倒して、彼の父親は彼に何を望んでいたのだろうか? そして最後は、その父親には残念なことになったのだが。

 

 ある程度の年齢になった彼は、当時の子供仲間に比べれば、とてつもなく強い肉体を保持していたに違いないと想像できる。それは、支援学校での体育の時間での彼の活躍を見れば、誰もが認めるところだから。

 

 あることをきっかけに彼は、今まで抑えてきた感情を表したそうだ。きっかけとは何か、それは最後の時まで聞けなかった。抑えられた感情を父親にぶつけた彼は、父親を何発も殴ったそうだ。彼の父親は、床に倒れて動かなくなったらしい。撲殺? そこまでしたのかどうかは、やっぱり聞けなかった。ただ一つだけ明らかな事は、彼は素晴らしく成長した肉体の代わりに、精神の成長を捨てながら生きてきたと言うことだ。

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