第3話 2 規則
施設の前では、年老いた女と、中年ぐらいであろう男が立っていた。年老いた女は、その女にとって最高の笑顔で、いや、最高の作り笑顔で私に、
「これからは私達が家族です、一緒に頑張っていきましょうね」
と言った。
そして、隣の男が、薄ら笑いを浮かべて、犬でも呼ぶような仕草で手招きをして私を施設の中へと導いた。そう、その時に思ったことは、まさしく飼い慣らされていくしかないという事だった。
施設の中へ入ると、早々に事務室に入れられた。事務室では、上質の霜降り肉で作られているような太った男が、先の男と同じような笑い顔で、
「よく来たねぇ、まぁ、お互いに上手くやっていこうねぇ」
と言って、事務机を挟んで、向かい側にあるパイプ椅子に私を座らせた。
太った男は、薄ら笑いを浮かべたまま、
「君に理解ができるかどうかは分からないが、これは規則として言っておかなければならないから言うんだけどね、この施設の規則を言うから、黙って聞いていてくださいね」
と言って、その規則とやらを喋り出した。まるで、その規則を自分一人で作ったように。いや、そうじゃない、自分自身が規則なのだと言いたげに。
「これで私は、まず最初の規則、私の義務を成し遂げたことになるねぇ、君に理解出来たかどうかは問題ではないからね」
そう言うと霜降り肉は、私のたったひとつの荷物、白いバックパックを目の前にある事務デスクの上に置くように指示をしてきた。
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