第2話 1 搬送



 施設専用の車であろうか。私は家からその車に乗った。両親は玄関まで見送ってくれたが、外へ出ることは無かった。背負ったバックパックの中は、数日分の着替えで一杯になっていた。そして、僅かばかりの紙幣が入っていた。この現金は、これから施設で住む私にとって、とても心強い味方のように思えた。


 車は、暫く国道を走ると、直角に右に折れ、山道に入った。木々に遮られた光のせいで、施設に着くまでに、電灯の無い真っ暗なトンネルをくぐり抜けるような錯覚に陥った。


 気が付くと、車は林道を真っ直ぐに走っており、やがて大きな鉄の門が見えてきた。そんな鉄の門を追い越した時、私は後ろを振り向くと、二度と此処からは、自分の暮らした町へ戻る事はないのだろうと思った。鉄の門を過ぎた此処は既に施設の中であると感じたから。


 山ひとつを買い取ったのかと思えるような、この施設の広大な敷地を車は走り、一番奥にあるだろう煉瓦色の一階建の建物の前で車は停止し、運転手がドアを開けて、私の座っている後部座席に回ってきて、まるで大統領でも送るように慇懃に礼をしてドアを開けた。私は、何も言わずに車を降りて、頭を下げ続けている運転手を見ると、彼は人を蔑むような顔で笑っているのが見てとれた。あまりにもいやらしい笑い顔に、私は肝を冷やし、黙ってそこから立ち去ろうとすると、

「け、挨拶もできないのかよ、この唖野郎が」

と呟くような声が聞こえた。

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