第9話 8 黒い霧 2



 布団を上げた途端に、私は勢いよく飛び退いた。


 布団の中には、真っ黒な霧のようなものしかなく、その真っ黒な霧の中から、か細く白い小さな雲のようなものが浮き上がり、暫く部屋を彷徨っていたが、やがて閉ざされた窓の隙間を抜けて鉄格子の枠を越えて空へと登って行った。


 ベッドの上の真っ黒な霧が晴れると、彼の姿が見えてきた。口は大きく膨らんで、ベッドの上の口元には、入りきらずにこぼれ落ちたのであろうテッシュペーパーがあった。窒息死だ。


 もしかしたら、この忠実な子犬は、彼自身が一番嫌っていたのかもしれない。いや、気付いていなかっただけなのかもしれない。規則。


 彼にとっての規則、然しそれは、もう考える必要も無くなった。施設で一番の忠実な子犬は、やっと自由を手に入れたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る