第16話 15 過去
私は、少し過去の事を書いておこうと思う。施設へ送られる前のことを。
両親は私を全く無視しながら育ててきたように思う。相手をしてもらえる時は、私がいたずらをした時だけに限られていたような記憶がある。父親に殴られ、母親に箒で叩かれ。余り良い記憶は無い。
私には、結構年上の兄がいた。兄がどういうふうに育てられてきたかの記憶は無い。ただ、彼は中学生の時からタバコをふかしていたそうだし、高校生の時には酒場に通っていたのではないかと思う。曖昧な記憶だ。
でも、私は此の兄が好きだった。兄だけは私を人間扱いしていてくれたように思う。結果的には、兄は家出をして家には戻らなくなったのだが。
兄は、私にいつも言ってくれていた事がある。
「お前は、みんなが言う馬鹿なんかじゃない。それは俺が一番知っている。お前は特異点にいるんだ。誰よりも感性が高い特異点に居るだけなんだ」
兄の言った事が本当かどうかは、結局、私には分からなかった。今も分かってなんかいない。
兄が出ていく前夜、兄は私に、二つの小さな水晶玉を見せてくれた。
「この水晶玉には名前があるんだ。絆、って言う名前があるんだ」
兄が勝手に名前をつけて、そう言っていたように思う。兄には、そう言うところが多分にあった。
「いいか、この水晶玉は引き合う力があるんだ。こいつを持っている者同士は、どんなに離れた所にいても、引き合わせられるんだ」
私は、黙って二つの水晶玉を見つめた。兄の言った言葉を信じたわけでは無い。それは、兄の言葉の続きを促す為の仕草だったと言えばピッタリと来ると思う。そして兄は続けた。
「こいつのうちの一個をお前にやる、俺達は離れない」
そして、次の朝、兄はアルバイトで貯めた金で買った中古の二輪で家を出て行った。
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