無意識でも合わせてはいけない
第六感って知っているわよね。
虫の知らせと言ったり、刑事が勘と言ったりするアレもそうだけれど、霊感も五感とは違う感覚らしいから、第六感よね。
あたしは、第六感が人よりもあるの。鋭いと言ってもいいわ。
「ほーん」
さっき勘と霊感のことを言ったから、あたしにあるのはどちらか、と思うでしょう?
結論から言うと、どちらも。あたしの勘は当たるし、日常的に幽霊の類いを見る。
「え、見えるの?」
でも、あたしに言わせれば、それが
ですから慣れもあるし、正直生身の人間を見るのと変わらない。
むしろ直接触れられる可能性がある分、生身の人間の方が怖いわ。
「あ〜、何でもかんでも妖怪のせいにする人間が云々的な」
でも、生身の人間の話をしても、さっき聞いたばかりでしょう?
幽霊の話をしたいのだけれど、さっきも言った通り、あたしにとって日常の一部で、どれが皆さんが聞いて怖いと思ってくれるかわからない。
ですから、これから話すのは、友人が一番怖かった思い出として、あたしにしてくれた話よ。
「一番。期待しちゃうね」
そうね。A子さんと仮名するわ。
「わっ、安直」
A子さんは幽霊を見たことがなかったのだけれど、ふとある時見てから、次々と見るようになったんですって。
A子さんに霊感があったからと思うでしょう?
それが他の子にも教えたら、その教えられた子たちも見るようになったらしいの。
あたしに話が来るまでに、A子さんは十数人も幽霊を見えるようにしたらしいわ。
「すっご。極めたらそれで食べていけそう」
その方法と言うのが二つあって、まずは人通りが多い所でぼーっとするだけ。
沢山の人が行ったり来たりする中で、何度も見る人、何もせず何十分も留まり続けている人を見つけたら、それが幽霊ですって。
「そんな簡単でいいの?」
聞いた瞬間思ったわ。それは迷っている人と暇な人ではないかって。
「うん」
でも、それでいた! と思ってぼーっとした状態からその人に意識を向けると、さっきまで見えていた人が見えなくなるから、たしかに幽霊を見ているんですって。
「えーほんとー?」
不思議よね。目を瞑ると他の感覚が鋭くなるように、思考を敢えて止めることで、意図的に霊感を得ているのかしら。
で、この時に、絶対に
「あー」
何でなんて、聞く人はいないだろうけれど。A子がこの決まりを作ったのは、この方法を編み出す前、もう一つの方法で初めて見てしまった時のような出来事を、もう二度と起こさないためと言っていたわ。
皆さんは、道を歩いている時、無意識に路地に視線を向けたことはないかしら?
「んー。たぶんある」
昼なら猫がいたり、夜は街灯が点っている所に目がいく。
至って普通よね。あたしもよくあるわ。
では、その路地に、猫以外の誰かが、街灯の下に誰かが、いたことはないかしら。
「それはないかな」
ないなら、それは運がいいわね。でもA子さんは、見てしまったそうよ。
塾帰りの人通りが少ない道で、ふと見た路地の街灯下に佇む背の高い黒い影。
得体の知れないものを見るのは、それが初めて。
ついつい声も出てしまうし、一瞬とは言え、態度もあからさまになってしまうわよね。
その街灯は、その場から十数メートル先にあったらしいけれど、佇む黒い影の頭がぐるんと回り、目が合ったように感じたんですって。
「悪いコダマじゃん」
悪寒が全身を駆け抜けて、心臓が早鐘を打ち、頭の中で逃げろと声がする。
A子さんは疲れも忘れて、全力で走ったの。
「やば」
……おかしいと思うでしょう? そう。おかしいのよ。
ですから彼女もすぐに気付いて、足を止めたの。
でも、ゆっくりだけれど足が前へと進み始める。
完全に行動が意思と反しているの。体だけが魅入られているとでも言うのかしら。
視線は黒い影の顔に固定されて、外そうとしても出来ない。
そうしている内に影との距離も近付いてきて、遠くではつるりとしていた顔も、凹凸のある人の、じっとこちらを睨み付ける女性の顔に見えるようになってくる。
その口が、何か言葉を紡ぐように動いた次には、右肩が誰かに叩かれる。
跳び上がるかと思ってしまうほどに脚に力が入り、A子さんは自分の肩を叩いた誰かへと振り返った。振り返ることが出来た。
そこにいたのは、二人の警察官さん。
パトカーでパトロール中にA子さんが街灯の下でずっと立ち止まっているのを発見し、心配になって声を掛けてくださったんですって。
A子さんは、その時初めて自分が街灯の下にいることに気付いたの。
あの黒い影の姿は何処にもなく。
街灯の下には、手向けられた花があったそうよ。
塾帰りで家も近くということもあり、その時は補導ではなく、家まで送ってくださったようですけれど、お説教はあったようですわね。
あ、そうそう。黒い影だった女性が何を言っていたかですけれど、A子さんは彼女が声を発していないのに、何を言ったのかすぐにわかったんですって。
まあ皆さん予想をしている通りでしょうけれど。
皆さんも無意識に起こしてしまう行動には、くれぐれもお気を付けて。
これであたしの話は終わりです。楽しんでいただけたかしら。
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