呪い人形


 ぼ、ぼ僕の番までに三つの話がありました。

 目覚まし時計。風呂場からの呼び出し、赤い服の女。街灯下の女。

 それらの日本で見られる怪奇現象は、じ、実は海外と比べると、かなり大人しい傾向にあると僕は思い、ます。

 みみなさんも、日本よりも海外の方がより過激で、皿が宙を舞うような印象はないでしょうか。


「え、その辺りテレビ見ないから知らないんだけど」


 カメラに写るのも日本は手や足が多く、海外は堂々と全身が写っている印象があるかと思います。


「そうなの?」


 霊に憑かれている人を霊媒師やお坊さんがお祓いしている映像を、テレビなどで見たことがあると思います。

 それと同じで、悪魔に憑かれた人をエクソシストが祓っている映像も、見たことがあると思います。

 霊に憑かれた人は正座した状態で前に倒れ、ひたすらに泣き続ける。

 その背中を霊媒師が擦り、お経と共に語りかけ、諭す。

 悪魔に憑かれた人は操られ、宙を浮き、急に体を引っ張られる。

 それをエクソシスト達が取り押さえ、十字架を額に押し付け、悪魔に名を語らせ縛る。

 霊と悪魔という扱いや祓い方に関しても、違いがあることがわかります。


「急に前知識要求マジ困る」


 他にも足の有無や服装、性別の偏り、出現時間など、これらの様々な違いは、日本と海外の文化の違い。死後の考え方の違いに由来すると考えます。

 そんな中、共通するものもあります。それが、呪いです。

 相手へ不利益を願う。その一点に関して、日本と海外は共通してるのです。


「ふーん。どこが共通してるんだろ」


 僕がこれから話すのは、そんな呪いの話です。

 その人形は、僕が通っていた小学校の校庭が見える南西側の角。

 ブロック塀越しに校内を覗き込む様に立ってました。


「共通してるとこ言わないんかい」


 案山子のように肌代わりの布の上からくすんだ白の服を着て、何かにぶつけられたのか紺のズボンを履いた脚が曲がっているけど、塀に掛けた手で辛うじて立ってる。

 クレヨンか絵の具で描かれた顔は雨で溶け出し、黒い土の汚れと相まって、不気味だったのを憶えてます。


「なんでそんなの……撤去出来ないとか?」


 あの人形は地元では有名らしく、入学時に配られる便りでも、触らないようにと注意が書かれてました。

 わざわざ汚い案山子を触る人もいないですから、深い事情は知らずとも、近寄らないように登校してたんです。

 視線を感じてもあの人形ということが多々あり、先生に気味が悪いと言っても、苦笑いで流される。

 そんな毎日を送って、四年生になったある日、二年生の男子生徒達がその人形に手を出した、という話が広まりました。

 一人が人形の膝の辺りを蹴ったことから始まり、みんなで次々と蹴りを入れ、鉛筆で腰の辺りを刺したそうです。


「そういうの、何処にでもいるよね」


 その二、三日後、ある車が人形のあるブロック塀に突っ込みました。

 前の道路は信号のある直線で、そこへぶつかるまでにブレーキ痕もない。

 運転していた人、助手席、後部座席に座っていた人も、みんな亡くなったそうです。

 脚はぐにゃぐにゃに折れ曲がって、腰の辺りにフロントガラスや車の外装の破片が突き刺さっていました。


「うわぁ……」


 事故があった日は日曜日だったので、僕はその現場を見てないんです。


「うん」


 それにこれを知っているのは、僕だけじゃないです。

 なんでだと思いますか?


「うん?」


 答えは――


「え、校長先生とかから聞いたとか?」


 立ってたから。


「立って、た?」


 事故から数日はブルーシートで見えなかったけど、それが外されてから一ヶ月くらいの期間。そこを通った全員が見ました。

 僕の親よりもすこし若いくらいの女の人が四人。

 人形の隣に並んで立ち、人形と同じ様に塀から学校内を覗く姿を。

 その四人の子供が、先日人形を蹴ったり、鉛筆を刺した生徒だったそうです。


「うっわお母さん達かわいそ」


 親殺しの呪い人形。それは僕が学校を卒業して、引っ越し、中学に入学しても、グーグルマップで確認すると、まだ同じ場所に立ってるのが見れます。

 脚は曲がり、もう地面に付いてないけど、塀に掛けた手でまだ立ってます。

 アレは何故あそこに立たされて、何故学校内を見ているのでしょう。

 校庭を見てるのは確かです。肝心なのは、校庭の何を見ているか、です。

 今日までに二回、新たにあの人形のある角へ車が突っ込みました。

 これ以上の犠牲者が増えないよう祈るばかりです。

 これで僕の話は終わり、です。あ、ありがとうございました。

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