GZ `G
「なんか藁人形みたい」
「そうね。でも、藁人形は呪う相手の体の一部が必要なんじゃないかしら」
「あ、そっかー。じゃあなんだろう?」
細身の少年が話を終えてライトを中央に戻そうとした所で、先の人形への考察談義が始まった。
ライトを床に置こうと前のめりになっていた細身の少年が気まずさを感じたのか、左手のライトをそのままにいそいそと体勢を戻していく。
確かに先程の話に出てきた人形は、他者からの悪意を特定の対象に移していたように感じた。
だが、それを行うにはまず先に人形をその対象に見立てる必要があるのではないだろうか。
それが成されていない人形はただの物だ。傷付けても何の意味もない。
「それに髪が伸びたりする人形とかとだいぶ違うよね。なんか悪意? みたいなのを感じる」
「そりゃ泣いたり、ニラみたいにすぐ髪が伸びる人形と死人が出てる人形を、一緒にしちゃダメでしょ」
私は悪意と少し違い、母親への強い執着を感じた。
悪意があるとすれば、それは人形に蹴りや鉛筆を刺した小学生達だろう。
髪が伸びる和人形は呪いの人形の代名詞と言えると思う。
人形の髪にしている人の毛が成長したり、接着が剥がれて中に入れていた余分な髪が表に出てきただけだったり色々な説があるが、それらに該当しない本物もあるだろう。
それをニラに例えるのは、少々罰当たりと思うのは私の……いや、待て。
今、橘が二人いなかったか?
「そいつ作ったやつ、親いないんじゃね?」
右隣の声に思考が上塗りされる。
人形の製作者が孤児だった? 何故そう考えたんだ?
茶髪の少年の発言の意図を探るが、何を言っているかわからない程の小さな話し声が耳障りで思考が纏まらない。ああ、鬱陶しい。
こうなったら、私の順番になった際に話す話題を先に考えておくべきだろうか。
と言っても、この場で話せるようなものなど用意していない。
知っていて来ていると橘以外は思っているだろう。
そんな場で、私一人なんの話も持ち合わせていないとは言えない。
だが、無いものは頭を絞っても出て来ないわけで。
四人目を終えていよいよ鼓動が速まってくる。
私に限って言えば、この状況がすでに怖いな。
自らへの皮肉を考える余裕はまだあったらしい。
この調子で都合良く話を思い付けばいいのだが。
この際創作でも構わないだろう。
「駄目だよ」
真正面、しかも直近から聞こえた橘の声のような音に体に力が入った。
息遣いまで聞こえそうないや、音。そう。あれは音だ。音に違いない。
まだ人形の話をしている橘達。それに生返事で加わり、思考していた私。
左右に多少ずれることはあるが、一度もみんなから目を離していない。
それなのに、あの音の出所がわからない。
向かいの早乙女は、あんな音を出すようには見えない。
それに聞こえた距離が近すぎる。ならあれはやはり――
「ね。そろそろ次にいきましょう? 待ち切れない人もいるみたいよ」
ポニテ少女の言葉に橘が私へと視線を向けて、悪戯な笑顔を浮かべた。
どうやら、私は橘のお気に召す程のおもしろい顔をしていたらしい。
「あっ――、先にいく? 先に話したい?」
「い、いや、私は後で大丈夫だ。むしろ後にしてくれ」
「わ、大トリ志望だって。じゃ、次いくね。ほら、ライトちょうだい」
「おい。次はオレだ」
「お、いいよー」
いつまでもライトを手放さないお隣さんからライトを貰おうとする橘。
それを茶髪の少年が止めた。どうやら、先に彼が話したいらしい。
橘からライトを受け取る彼を視界に収めつつ、呼吸を整える。
なんというか、助かった。話す順番もそうだが、先程はパニックになりかけていた。
それとなく、助け舟を出してくれたポニテ少女へと視線を向ける。
ポニテ少女は、霊感も持っていると言っていた。
なら、彼女は私が見えない何かが見えているのだろう。
本当に助かった。乗っかった形の橘は保留して、気持ちポニテ少女に頭を下げる。
「たしか前置きが要るんだったか。あー逆さ言葉のことを知っているか。
前置きは決まりとしてあるようだ。
まあ当然、飛び入りの私は知らなかったが。
「だが時に常世へ行けなかったものが現世に留まり、生者と接触する。その際に耳にするものが逆さ言葉だ。当然、急に逆さで言葉を並べられるのだから、生者はその言葉の意味を理解出来ない。他にも逆さなものは色々あるが、それらが理解出来るようになった時、そいつは死者に近付きすぎていると言える。さて、こんくらいにして本題いくぞ」
そう言って彼は不敵な笑みを浮かべる。
遊びのある茶髪が風に揺れていた。
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