第4話 男に騙され置いてけぼりのリンカ、ついに呪いの人形工場に潜入!人形マニアの男とばったりこんにちは。
リンカは一向に訪れないハヤトを探すため、工場の周りを歩いていた。
「はあ、私騙されたのかなあ……」
ブツブツと文句を呟きながら歩いていると、工場の裏手に一部壁がはがれた箇所を発見した。
リンカはその隙間から中へと入ってみることにした。
「ハヤトくん? 中にいるの? おーい」
工場の中は巨大な機械が何台も立ち並び、辺りに散乱した工具類で荒れ果てていた。
所々に窓から見えたものと同じ人形がいくつも置かれており、その不気味な目でリンカのことを見つめていた。
リンカは何か嫌な雰囲気を感じながらもゆっくりと奥へと足を進めていった。
「おーい。誰かいますかー?」
リンカの問いかけに答えるものは居ない。
リンカはなんだか人形にずっと見つめられている気がして少し寒気がした。
明かりもない工場の奥の方はかなり暗く、一層不気味な雰囲気だった為、リンカは引き返そうと思い後ろを振り返った。
だがその時、奥の方で誰かが入ってくるような物音がした。カンカンカンと鉄の階段を下りるような音が聞こえる。
「ハヤトくん?」
リンカはゆっくり音のした方に進むと、地下へと続く階段があった。
何やら子供の声が聞こえる。ハヤトかと思ったが、どうやら一人だけではなく数人いるようだ。
階段を下り、狭く暗い廊下を音を立てないようゆっくりと奥へ進んでいった。
地下には長い廊下が一直線に伸びており、いくつもの扉が並んでいた。
その中でも一番の奥の扉だけ少し開いており、そこから明かりが漏れていた。
リンカはその扉にゆっくり近づいていくと、こっそりと中を覗いた。
そこに居たのはハヤトと一緒にいた少年だ。だが、ハヤトの姿は見当たらない。
彼らは縄で両腕を縛られ、身動きが採れない状態で部屋の奥に立たされており、何かに怯えているような様子だった。
この部屋にもまた不気味な人形がいくつか並べられている。
リンカは慎重に辺りを見回したが、他に人のいる気配はない。
そこで彼女は意を決して、部屋の中へと入った。
突然現れたリンカに少年達は驚いていた。
「く、来るな! 早く逃げろ! 殺されるぞ」
そんなことを言うジムに始めは冗談かと思ったが、彼の眼は本当に怯えた様子でやはり何かあると察した。
「誰に殺されるの? だったら早く逃げなきゃ」
リンカは少年達の腕を縛っていた縄をほどいていった。
「ばか! 後ろだ! 後ろ!」
リンカはそう言われ、後ろを振り返ったが特に変わった様子はない。
「なに? 何もないじゃん」
「違う! 人形だよ! 人形!」
再びリンカが振り返ると目の前に三体の人形が立っていた。人形が動いていたのだ。
木でできたその人形はそれぞれ両手を振り上げ、リンカに襲い掛かろうとしている。
「な、なに!?」
リンカは飛び上がって人形の攻撃をかわし、少年達を出口の方へと誘導した。
「早く逃げて! 私が何とかするから」
「でも……」
「早く!!」
リンカは飛びかかってきた人形の腕をつかみ、投げ飛ばした。
だが、一体の人形に首を掴まれてそのまま絞め殺されそうになる。
「おりゃ!」
リンカが殺されそうになったところを、マイクに助けられた。
「ありがとう」
「ほら、早く逃げるぞ!!」
ジムは部屋に残っていたマイクとリンカに向かって言った。
そして彼はそのまま部屋から走って飛び出そうとしたが、また何かにぶつかった。
そこに立っていたのは彼らを襲った大男だった。
男はジム達を押しのけると、拍手をしながらリンカの元へ近づいて来た。
「フフッ。すごいね。かっこいいじゃん」
その男の姿を少年たちは怯えた様子で見つめていた。
「あなたは……?」
リンカが男に聞いた。
「僕の名前はアーミー。一人だけどアーミー。フフッおもしろいでしょ?」
彼は巨人のような大きな手で口元を覆いながら話す。
「この子達を襲ったのはあなただよね? どうしてこんなことするの?」
「僕のコレクションだよ。子供って、かわいいでしょ? フフッ。だから集めてるんだよ」
「へ……変態だ」
「あなたが誘拐事件の犯人だね! そんなこと絶対にさせないから!」
アーミーに向かって指を差すようなポーズをとったリンカを見て、彼は突然大声で笑い始めた。
「こ、こんなに笑ったのは久しぶりだよ。フフッフッ。そんなちっこいのにこの僕と戦おうだなんて。やっぱり子供はかわいいなあ」
「そうかな? あんまり子供をなめないほうが良いんじゃないの?」
リンカはそう言った瞬間アーミーの腹に向かって鋭いパンチを浴びせた。
「うぁっ!!」
アーミーは少しひるんだが、瞬時に状況を察し、リンカに掴みかかった。
腕をつかまれたリンカだったが、そのままアーミーの腕を掴み返し、彼を思い切り背負い投げで投げ飛ばした。
アーミーは床に叩きつけられてしまう。
「クソガキの分際で! 俺を舐めるなァ!」
アーミーは再び立ち上がり襲い掛かって来た。
その巨体から素早いパンチがいくつも飛んできたが、全てリンカは軽く受け止めた。
リンカは足を上げ、アーミーの腹に蹴りを食らわせた。アーミーはそれに怯んで数歩後ろに下がって距離を取った。
「クソッ!!」
だが、すぐに声を上げながらリンカに向かって走ってきた。
リンカは落ち着いた様子で、息を深く吸った。
「
リンカが小さな声で呟いた。
「
リンカは襲い掛かってくるアーミーの攻撃を避けつつ、目にもとまらぬ速さで拳をぶつけた。その拳は彼の腹に直撃し、あまりの速さに摩擦で少し跡が焦げていた。
「な……なんだと……」
そのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたアーミーは苦しそうにうずくまりながらうめき声を上げた。
「いくよ!」
リンカはそのまま少年達を連れて、部屋の外に出た。
すると廊下のあちこちに仕掛けてあったスピーカーからアーミーの声が聞こえた。
「全隊員に次ぐ……。逃亡犯を捕まえろ。殺しても構わない」
その声を聞いてか、部屋にいた人形達がリンカの後を追いかけてきた。
「階段だ!」
リンカ達は地上へと続く階段にたどり着くが、すでにそこは人形達が占拠してしまっていた。
彼らは階段を諦め、別の出口を探すしかなかった。
「ど、どんどん出てくるよ!」
後ろを振り返ると、廊下に並ぶいくつもの扉から人形達が次々と出てきて、すでに十体以上の人形が彼らを追いかけてきていた。
「早く走って!」
まだ腕を縛られているせいで遅れをとっていたケンを後ろから押しながら、リンカはその縄をほどいた。
「ま、前からも来た!」
彼らの前方からも数体の人形が追いかけてくる。
彼らは人形達によって挟み撃ちされた状態になり、前からも後ろからも何体もの人形が押し寄せてきていた。
どうすることもできない状況で、咄嗟にリンカ達はそばにあった扉の中へと入り鍵を閉めた。
人形たちがドンドンと扉を叩く音が狭い部屋の中に響き渡る。
つかの間の休息に彼らは息をつき、腰を落とした。
リンカは暗がりの中、部屋の明かりのスイッチを探し、明かりをつけた。
電球が切れかけており明かりは強くなかったが、部屋を見渡すには十分だった。
その部屋にはショーケースのような棚が並べられ、その中に数々の品が並んでいた。
綺麗な宝石が入った指輪や、奇妙な形のステッキ、中でも一際目立つのは部屋の中心に置かれたクリスタルの箱。
表面には魔法陣が刻まれており、中には青く光り輝くオーブが入れられていた。
「これって……。魔術師の道具……?」
マイクが言った。
「そんなことより、あいつらをどうにかする方法を思いついた」
ジムが言った。
「どうにかって、どうやって?」
「燃やすんだよ」
ジムはどこに隠していたのか、爆竹の束とライターを取り出した。
「そんな事言ったってどうやるのさ!」
「いいから、俺に任せせろ」
彼らがそんな事を言っていると、突然ドアを叩く音が鳴り止んだ。
部屋は突然しんと静まり返ってしまう。
「あいつら、どこ行った……?」
「しー!」
静寂の中、どこか遠くで足音が聞こえる。その音はどこから来るのか慎重に探った。
「上だ! 早く外に出て!」
ケンが上にある換気扇の穴を見つけ、人形達はそこから入ってこようとしていることに気付いた。
全員が外に出て奴らを待ち構える。
バンッという音と共に換気扇の蓋が外れ、流れ込むように人形達が部屋の中に入ってきた。
「くたばれ、化け物ども!」
ジムが爆竹に火をつけて叫ぶと、ライターと共に爆竹を部屋の中に投げ入れた。
すると思惑通り、爆竹の弾ける音と共に人形達は燃え上がり、もがけばもがくほど、仲間の人形に火が移っていった。
「や、やった!!」
彼らは飛び上がって喜んだ。
だがまだ敵は残っている。
「お、お前ら……許さんぞ」
廊下から声が聞こえてきた。
アーミーが立ち上がり、部屋から出てきていたのだ。
「さあ、今のうちだよ! みんな、逃げるよ!」
リンカ達は再び走り出し、ようやく別の階段を見つけた。
「ま……まてぇえ……」
アーミーはうめき声を上げながらも追いかけてくる。
彼らは階段を駆け上がったが、その先には固く閉ざされた扉があった。
「あ、開かない!」
マイクが扉を開けようとしたが、鍵が締まっていて扉はびくともしない。
「早くして! もうあいつ来てるよ!」
リンカはそう言うと、少年達を押しのけて扉の前に立った。
「どうするつもりだ?」
ジムがリンカに聞いた。
「どうって、見てれば分かる」
リンカは足を開いて目を閉じると、深呼吸を始めた。
「ちょっと、こんな時に落ち着いてる場合じゃないだろ!!」
マイクたちは文句を言う。
「静かにして!!」
リンカはそう叫ぶと、深呼吸を続けた。
アーミーはすぐそこまで迫ってきている。
それでもリンカはただ目を閉じて何かを待っていた。
そして次の瞬間、リンカがパッと目を開くと、彼女は足を大きく振り上げ扉を思い切り蹴った。
彼女の蹴りの衝撃で扉が吹き飛んだことで、外への道が開けた。
彼らは急いでその中へと入っていった。
「た、助かった……!」
扉を抜けたマイクは漏れ出るため息とともにそんな言葉を呟いた。
だが、彼らは目の前に広がる光景に目を疑うことになる。
リンカ達が出た場所は工場のそばにあった古い倉庫のような建物だ。地下で繋がっていたのだろう。
そこにはまるで軍隊のように綺麗に整列した人形達が少なくとも100体以上は居た。
リンカ達はすぐにその場で人形に囲まれてしまい、どうすることもできずただ降参するしかなかった。
「ハァハァ……。だから僕はアーミーだっていっただろ? フフッ」
後ろからやってきたアーミーが不敵な笑みで呟いた。
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