第10話 キャプテン登場。ロンドvsリンカ。面舵いっぱ~い。海賊船長、棒をまわすよグルグルル。
「貴様ァ……。俺のかわいい部下達をよくもボコボコにしてくれたな!」
ずっと黙って後ろで見ていたロンドが言った。
「あなた達が仕掛けてきたんでしょ? あんな小さい子を捕まえて、どうするつもり?」
リンカが聞いた。
「そんなことはお前には関係ない。今度は俺が相手だ。俺は子供相手でも容赦しねェぞ」
ロンドはどこからか太くて長い棒を取り出して、華麗にくるくると回し始めた。
「どうだ、強そうだろ。これがロンドロッドだ」
「うーん。そうかな?」
リンカは腕を組んでその様子を見守った。
「さあ、どこからでもかかってこい。全て受け止めてやる」
ロンドは棒を構え、リンカに言った。
「じゃあ、お言葉に甘えて……。あなたのことも、ぶっとばします!」
リンカはそう言って飛び上がると、ロンドに向かって拳を振り下ろした。
だがロンドはリンカの腕をその長い棒で払ってパンチを防いだ。
「もう一回!」
リンカはそう言ってもう一度ロンドに近づくと蹴りを繰り出すが、今度もその長い棒に足を取られて転んでしまう。
「隙ありィッ!!」
ロンドは地面に倒れたリンカに向かって棒を突き出してくる。
リンカはそれを横に転がって避けた。
だがロンドは諦めずリンカを追いかけ、立て続けに攻撃を仕掛けてきた。
猛スピードで棒を振り回すロンドに、リンカは避けることしかできなくなっていった。
「おいおい。逃げてばかりだな? さっきの勢いはどうした?」
ロンドが言った。
「そんなことないですっ! 私だって!!」
リンカはロンドの攻撃を避けながら拳を握ると、しばらく隙をうかがった。
彼の周りに隙は全く無い。
彼の振り回す棒がその体の周りに完璧なシールドを作り上げていた。
攻撃を仕掛けようにも仕掛けられないリンカだったが、ロンドが思い切り地面に向かって棒を振り下ろした瞬間に目を付けた。
反動で一瞬だけロンドの動きが鈍ったのだ。
それを見逃さなかったリンカは握りしめた拳を一気に繰り出した。
「そこだーーーーっ!!」
「フンッ! お前のパンチはもう見切った!」
隙を付いたと思っていたリンカだったが、ロンドは屈んだまま身を引いてリンカのパンチをかわすと、棒を振ってリンカに打撃を浴びせた。
「うあっ!!」
リンカの軽い体はかなり飛んでいき、ビビエルたちの近くに落ちた。
「だ、大丈夫!? リンカ!」
「だ、大丈夫です……」
リンカは少し悔しそうな表情をしながらゆっくり立ち上がる。
ロンドは仁王立ちのままリンカを見ると、手招きをしてリンカを煽る。
リンカは彼の煽りに乗せられないよう、目を瞑って深呼吸をした。
考えるんだ。リンカ。武術にとって大事なのは感覚だけじゃない。
感覚と思考の融合こそが最強の武術だ。
そんな言葉が祖父の声で聞こえてきた。
ロンドの隙はどこかにあるはず……。
リンカは必死に考えた。
ロンドはかなりの大男だ。リンカに比べたら圧倒的に背が高い。
つまり、もし彼に隙が生まれるとしたら……下だ!
リンカはパッと目を開いた。
いつの間にか周りには大勢の野次馬が集まっており、彼女達の戦いを見ている。
「おい、いつまでそこに居るつもりだ? こっちに来るのが嫌なら俺がそっちに行ってやろうか?」
ロンドが言った。
「いいえ。大丈夫です! 今から私がそっちに行きますから。覚悟してください」
リンカはそう言って構えを取った。
そして、そのまま猛ダッシュでロンドの元へと駆けていく。
「さあ来い!! 次の一撃で終わらせてやる!!」
ロンドはそう叫んで構えた。
「食らえええええっ!!」
リンカはロンドに向かって拳を繰り出した。
「そんなパンチ、俺に当たると思うのか!?」
ロンドはリンカの拳を避けながらそう言った。
だがリンカはすぐに拳を引っ込めたかと思うと突然しゃがみ込んだ。
そしてダッシュの勢いを利用してロンドの股下に滑り込み、下からロンドロッドを掴んだ。
「何っ!?」
そして彼女はそのままロンドの体ごとロッドを高く持ち上げて思い切り地面に叩きつけた。
「いってェエエエエエエエ!!」
地面に強く体を打ち付けられたロンドは飛び上がって痛がった。
「いてっいてっいてっいてエエエエエエエエエ!!」
ロンドはしばらく辺りを飛び回る。
「どうですか! これで私の強さを思い知ったでしょ!?」
リンカは言う。
「あ、ああ……。この俺に痛いと言わせるとはなかなかやるな」
ロンドは打った頭を抑えながらも再び棒を構えた。
「でもあなたも相当強いです。一瞬負けちゃうかと思いました」
リンカとロンドは少し息が上がった様子でお互い見つめ合い、隙を伺っていた。
先に行動に移ったのはロンドだった。
彼は服に付いた砂埃を払うと言った。
「お前の強さは本物だ。それだけはこの俺も認めざるを得ない。だがな、お前が俺に勝てるとは言っていない」
「どういうことですか?」
「俺にはまだ隠し技が残ってるってことだ」
「隠し技?」
「この技を出すという事は俺が本気になったということだ。それが何を意味するかってのは……。まあ見てろ……すぐに分かるさ」
ロンドはそう言って持っていた棒をゆっくりと回しだした。
その勢いは次第に強まっていき、まるで扇風機のように風を起こし始める。
「な、なに……?」
ロンドの周りで砂埃が舞い上がり、何やら不穏な空気に包まれた。
その空気を感じ取ってか、戦いを見ていた野次馬達も少し後ずさりをしていた。
「行くぞ…………。海賊旋風歌ァアア!!」
その叫び声と共に、彼の回していた棒がブオンブオンと風を切る奇妙な音で音楽を奏で始めた。
「うわっ!!」
ロンドの起こした風で砂埃が一気にリンカの方へと飛んできた。
それだけでなく、人間も吹き飛んでしまいそうなほどの暴風がリンカを襲った。
リンカは必死に耐えるが、段々と体が引きずられるように後ろに下がっていく。
砂の中の小さな石がリンカの全身に当たり、体の至る所が切れて出血していた。
「と、とんでもないやつだよ。こんなすごい風起こすなんて……。リンカは大丈夫かな」
陰から見ていたビビエルが呟いた。
クリスはその後ろで、傷ついていくリンカの様子をただ黙ってじっと見つめていた。
「オラオラァ、もう降参したくなっただろ?」
ロンドがリンカに言った。
「私を舐めないでください! こういう時の為に5年間修業を積んできたんです!」
「ア? なんだって? 聞こえないぞ!」
「あなたを倒すって言ったんです!!」
「よく言うよなァ! この状況で」
リンカは地面を強く蹴り、足場を固める。
彼女はその状態で構えを取った。
「こんな身動きできない状況で構えたって意味ないだろ!!」
ロンドは言う。
「いいえ。構えは武術の基本ですから」
そう言ってリンカは再び目を閉じると、深呼吸をした。
目を閉じたことで全身に浴びる冷たい風と、体中を切り裂く小石の感覚をより強く感じる。
だがそれと同時に内側から湧き上がってくる自身の力を感じた。
そして彼女はゆっくりと地面に右手をつけた。
「な、何をするつもりだ?」
ロンドの問いには答えず、彼女は呟いた。
「風見流……大車輪!」
リンカは地面に手をついたまま足を地面から引き抜くと、体を大きく回転させ始めた。
足を大きく開き、まるでブレイクダンスの要領で回っている。
まさにロンドの時と同じようにその回転は次第に速くなり、強い風を起こし始めた。
「な、なんだ!?」
「キャーー!!」
リンカが体全体を使って起こした風はロンドの起こした風とぶつかり、見ていた野次馬たちに流れ込んだ。
段々とリンカの起こす風は強くなっていき、ロンドが押され始めた。
「お、俺の必殺技を返してくるとは! なんて野郎だ……」
ロンドも負けじと風を押し返そうとするが中々状況は変わらない。
そしてリンカは体を大きく曲げた後、ロンドの風を蹴り返すように回転しながら勢いよく立ち上がった。
「なんだとっ!?」
リンカの送った鋭い風はロンドの元へと届き、彼の腕を弾いて棒の回転を止めた。
辺りには砂埃が舞っており、ロンドからはリンカが見えなくなってしまう。
「ど、どこだ!? どこへ行った!?」
ロンドは必死に目を凝らしてリンカの行方を捜した。
「上だよーー!!」
リンカはそんな事を叫びながら突然上空から現れると、ロンドの後頭部に強い蹴りを入れた。
「グァッ!!」
ロンドはうめき声を上げながらそのまま吹っ飛んで民家の壁に突っ込んだ。ロンドの持っていたロッドは遠くへ飛んでいき、気絶から回復した部下たちがキャッチした。
「ロ、ロンドさん! 大丈夫ですか!?」
部下たちがロンドに近寄ろうとするが、ロンドはすぐに立ち上がった。
「お前たちは黙って見てろ!」
少しよろけながらも、ロンドはリンカの元へとゆっくり歩いてきた。
「あんなに思い切り私の蹴りを喰らったのにすぐに立てるなんて、すごいですね」
「ああ、お前の強さは想像以上だった。正直お前のことを舐めていたのを謝る」
「だったらこのまま帰ってくれるんですか?」
「そうはいかねェ。あの貴族のガキには俺たちの夢が掛かってるんだ。ここで引くわけにはいかねェんだよ」
「そうなんですね。でも私の夢も掛かっているので、こっちも引くわけにはいきません」
リンカは再び構える。
「お前とはもっと戦いたかったが、残念ながらここで終わりだ。もし殺してしまったらすまなが、あれを使わざるを得ないようだ」
「ロンドさんまさかあれを……!?」
ピッカーが怯えた様子で言った。
「そうだ! お前たち、さっさと用意しろ!」
「まだ隠し玉があるって事? こっちはちょっと楽しみです」
ロンドの部下たちはロンドロッドに重そうな刃物を取り付け、ロッドを斧に変えてしまった。
その斧には赤く輝くオーブが取り付けられており、異様な雰囲気を放っていた。
「あ、あれってまさか……」
陰から見ていたビビエルはオーブのことを知っているようだった。
「ロ、ロンドさん。ロンドアックス、できました……」
ピッカーは少し手を震わせながらロンドにその斧を手渡した。
ロンドはゆっくりと刃先を確認し、斧をドンッと地面に突いた。
「それが隠し玉?」
「ああそうだ。悪く思うなよ。お前は惜しい人材だった」
「そんなもので私は倒せませんよっ!」
「どうかな。見とけよ……」
ロンドはゆっくりと斧を持ち上げるとリンカに向けて構えた。
「いいか? 死ぬなよ?」
ロンドは呟いた。
「大丈夫ですよ。そう簡単に私は死にません」
リンカは答える。
「そうか? だったらこっちも手加減はしない……っ!!」
そして彼は構えていた斧をリンカに向けて思い切り振り下ろした。
だがどう考えてもリンカに当たる距離ではない。
何をやっているのかとリンカは不思議な目で彼の行動を見ていた。
すると次の瞬間、斧から放たれた赤い光がリンカ目掛けて飛んできた。
リンカはそれを避ける間もなく真正面から受けてしまうと、そのエネルギーで思い切り吹き飛んだ。
あまりの勢いに、リンカは地面に叩きつけられた後もしばらく地面を削りながら引きずられた。
「り、リンカ!!」
ビビエルが叫ぶ。
「どうだ!! これが赤のフラグメントオーブの力。これで俺達は夢を掴むんだよ!!」
再びロンドが斧を振るった。
「うわぁっ!」
リンカは再びオーブのエネルギーによって吹き飛ばされた。
リンカはたった2度の攻撃を受けただけでもうボロボロの状態で、フラフラになりながら立ち上がる。
「リンカもうやめて! ここから逃げよう!」
ビビエルがリンカの元にやって来て腕を掴んで引っ張ったが、リンカはその場から動こうとしない。
「ビビエルさん、私の夢言いましたよね」
「言ったけどさ!」
「私は誰にも負けない最強の格闘家になるんです。こんなところで負けてられません!!」
「そんな……」
「危ない! 逃げてください!」
ロンドがまた攻撃を仕掛けてきた。リンカはビビエルに攻撃が当たらないように彼女を押し倒す。
そしてリンカは両手を広げてビビエルを守るようにして、ロンドの攻撃を正面から受けた。
「私は……誰にも……負けませんから!!」
リンカは気合でロンドの攻撃を耐えきった。
息を切らしながらも彼女は立ち上がったままロンドを睨みつける。
「お前、もうやめろ! ほんとに死ぬぞ!」
ロンドまでもリンカの心配をし始めたが、リンカはゆっくりロンドの元へと近づいていった。
「私の心配より自分の心配をしたほうが良いですよ」
リンカはそう言いながら歩みを進める。
ロンドは彼女を近づけまいと斧を振るった。
その度に彼女はオーブのエネルギーを一身に受けた。
だが彼女は倒れなかった。
何度攻撃を受けても倒れずロンドの元へ向かって突き進んだ。
「ど、どうなってるんだ……?」
あまりのことにロンドは動揺して攻撃の手を止めてしまった。
「私は、死んでも勝ちます……っ!」
リンカは落ちていたフォックスの棍棒を拾い上げ、ロンドの目の前に立った。
「こ、ここまでの人間は俺は見たことがない……。お前、名前は何て言う?」
「木崎リンカ。木崎源十郎の娘です」
彼女はそう言って棍棒を構えた。
ロンドも負けじと斧を構えて2人は叫んだ。
「おりゃあああああ!!」
「オラァアアアアア!!」
ロンドの振るった斧とリンカの持ったフォックスの棍棒がぶつかり、街に大きな衝撃が広がった。
「馬鹿な……。オーブの力をただの棍棒で受け止めるなどありえない……」
彼らが起こした衝撃によって建物の窓ガラスがいくつも割れ、近くにあった建物の屋根が吹き飛び、壁がはがれた。
見ていた野次馬たちにまで被害が及び、皆悲鳴を上げながら逃げていった。
そしてリンカはロンドの斧を弾き返した。
ロンドは攻撃を受け止められたことに動揺しており、数歩後ずさりした。
「私は魔術にだって負けません! もう、誰にも負けられないんです!」
「これは魔術なんてちゃちなもんじゃねェ……!」
「じゃあ一体何なんですか?」
「これは……フラグメントオーブだ!!!!」
ロンドはそう叫んで再びリンカに攻撃を仕掛けようとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます