第11話 突如現れたちびっこはビビエルの姉で生徒会長! どういうことや!
「2人とも、もうやめーーーーっ!!!!」
突然そんな声が辺りに響き渡り、2人は戦いを止めた。
リンカとロンドが声の方を見ると、クリスが自分の服を破いて作った白旗を振りながら立っていた。
「私、降参します。私を連れて行ってもいいよ。海賊」
クリスは言った。
「そ、そんな、だめだよこんな奴らに負けちゃ。なんか意地悪そうだもん」
リンカはそう言ってクリスを説得しようとしたが、彼女は首を振った。
「お姉さん、やっぱりバカ。これ以上やったら死人が出るよ」
「そ、それは……」
彼女の言う通り、辺りは酷い有様で物が散乱し、建物にも大きな被害が生じている。
「私はきっと大丈夫。見ている限りこの人たちもアホっぽいから」
クリスはそう言ったが明らかに彼女は悲しそうな目をしていた。
そして彼女はとぼとぼとロンドの元へと歩いていく。
そんな彼女の後姿を見て、リンカは思わず呼び止めてしまう。
「やっぱりダメだよそんなの!」
それでもクリスは振り返らなかった。
「ごめんなさい。私は一度決めたことは覆さない」
彼女はそう言ってロンドの元までたどり着いた。
「俺達としても、誰も殺さず目的が達成できるならその方がいい。さあ行くぞ、お前たち! こいつの気が変わらないうちにな」
「はい、キャプテン!」
ピッカー、トラップ、フォックスの3人がぞろぞろとやってきてクリスの腕を掴むと、彼女を連れていく。
リンカの元を去っていくクリスは後ろを一瞬だけ振り向いて言った。
「ありがとう」
そうやって彼女はリンカ達の元を去って行った。
そんな彼女の元にビビエルが近づいて来る。
「リンカ……」
ビビエルはそう呟いてリンカの肩に手を置いた。
「や、やっぱり、私、追いかけます!!」
リンカはやはりじっとしているのが耐えられず、クリスを追って走り出そうとした。
だが、彼女の目の前に突然1人の少女が立ちはだかった。
その少女はリンカよりも背が低く、クリスと変わらないくらいの身長だ。
「その必要はない」
彼女は透き通った静かな声でそう呟いた。
そして、彼女が手を2回叩くと、黒服の男達が突然現れ彼女を取り囲んだ。
「あの少女を追って」
彼女がそう言うと男たちは一斉に敬礼をしてクリス達を追いかけていった。
「あ……あなたは……」
リンカが言った。
「私はニーナ。ニーナ・イェール」
彼女はそう呟いた。
「イェール……?」
聞き覚えのあるその名にリンカは考え込んだ。
「ニーナは私のお姉ちゃん、だよ。リンカ」
後ろに居たビビエルがそう言った。
「お姉ちゃん!?」
明らかにニーナはビビエルより年上には見えないが、どうやら彼女の姉らしい。
「そう。そして私は今年から学園の生徒会長に就任した」
ニーナはそう言ってリンカに名刺を渡してきた。
確かにその名刺にはセントラル学園生徒会長ニーナ・イェールと書かれている。
「で、でも、生徒会長さんが何故ここに……?」
リンカが聞いた。
「あなたに学園への招待状が来てる。私はそれを渡しに来た」
ニーナはリンカに1通の封筒を渡した。
「え!? ええ~~~~!?」
リンカは突然の事に飛び上がって驚いた。
招待状には源十郎の名が書かれていた。
「おじいちゃん……?」
招待状にはこう記されていた。
『我が学園に多大なる利益をもたらした木崎源十郎殿に敬意を表し、ご息女である木崎リンカ殿の入学をここに認める』
「あのう、まだあまりどういうことか理解できないんですけど……」
「そのままだよ〜! 明後日からリンカは学園の生徒になるってこと! やったね」
ビビエルがリンカの背中を叩きながら答える。
「あ、明後日!?」
リンカは招待状を手に持ったまま震え始めた。
「この招待を受けるか否かはあなたの判断に委ねる。できれば今ここで決めてほしい」
「もう、お姉ちゃんはせっかちだなあ」
「もちろん受けたい……んですが……」
リンカは辺りを見回した。
ロンドとの戦いで辺りは荒れ果て、街の人々は早速その修復作業にあたっていた。
「私、この街の修復を手伝わなきゃいけません……。私が壊しちゃったから……」
リンカは言った。
「み、みなさん、本当にごめんなさいっ! 私、がんばって働いて皆さんのお店、直しますから……」
リンカは街の人々に向かって謝った。
「いいんだいいんだリンカちゃん」
修復作業中の1人の男が言った。
「そうそう、気にするな! そういうのは俺たち大人の仕事だ」
「そんなに小さいのにあんな野蛮な海賊野郎共を1人で追い払ってすごいよ!」
「やっぱりあんたは源十郎さんの孫だな」
街の人たちは皆、声を揃えてリンカのことを称えて拍手した。
「そ、そんな……でもっ!!」
リンカは言ったが、ニーナが止めた。
「私もこの街の修復はサポートする。だからあなたは気にしなくていい」
ニーナがそう言うと、リンカは目に涙を浮かべて頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございますっ!!」
「じゃあもう一度あなたに聞く。あなたは学園への正体を受ける?」
「はいっ!!」
顔を上げたリンカは満面の笑みで言った。
彼女たちがそんなやり取りをしていると、突然遠くからリンカを呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい、リンカさ~ん」
その声はハヤトの声だった。
「ハヤト!」
リンカはハヤトの方へと駆け寄った。
「あ、リンカさん、エプロン忘れてたから届けに来たんですけど……。ここで何かあったんですか?」
ハヤトは周りの散らかった様子に困惑していた。
「私、学園に行けることになったの!」
リンカは目をキラキラ輝かせてハヤトに報告した。
「な、何言ってるんですか……?」
まさか本当の事だとは信じていないハヤトはまだリンカの言っていることが理解できなかった。
「あなたが彼女と同居している丸地ハヤト?」
ニーナがハヤトの元まで近づいて聞いた。
「そ、そうですけど」
「あなたにも私の名刺を渡しておく。いつでも連絡していい」
ハヤトは渡された名刺を見て仰天した。
「せ、生徒会長!? じゃ、じゃあ学園に行くってまさか……」
「本当だよ! 信じてなかったの?」
「えっと……それで、いつから行くんですか?」
ハヤトが聞いた。
「今すぐ」
ニーナが答えた。
「えっ!? でも、生活費はどうするんですか? 授業料は? 教科書代は? 何も考えてないわけじゃないですよねー……?」
ハヤトはリンカに問い詰める。
「な……何も考えてなかった!!」
リンカは青ざめた表情で言った。
「ハァッ……」
ハヤトはため息をついた。
「金銭的な話に関しては問題ない。招待状による入学だから授業料は免除。学園は全寮制。最低限の生活必需品は学園側から用意される。その他の費用は出してもらう必要はあるけど、こちらで働き口も手配できる。そして丸地ハヤト、あなたの生活費に関しても学園から出すことができる」
どうだと言わんばかりのドヤ顔でニーナは言った。
「ぼ、僕のことはいいです! 自分で何とかできますから」
「そう。じゃあ問題ない」
「そ、そんな……ほんとに大丈夫?」
リンカは心配そうにハヤトを見た。
「僕だってもうバイトできます。いつまでたってもリンカさんやおじいちゃんにおんぶにだっこじゃ僕も嫌です」
「わ、わかった! でも仕送りはちゃんとするからね」
「だめです」
「な、なんで!?」
「リンカさんはしっかり勉強して最強の格闘家になるんでしょ? そっちに集中してください。無理して働いて仕送りなんかしたら怒りますよ」
「そ、そんな……」
「じゃあ、約束してください。僕はアルバイトも武術の稽古もがんばります。だから仕送りは無し。リンカさんも勉強と稽古がんばってください」
「わ、わかった。約束!」
ハヤトはうんと黙って頷いた。
「なにかあったらすぐに連絡してね! なにもなくても連絡してね! 心配だから……」
リンカはハヤトの手を握って言った。
「はい!」
ハヤトは笑顔で答えた。
「招待を受けるのであれば私が学園まで連れていく。時間がないからすぐに出発したい」
ニーナがリンカに言った。
「も、もうですか!? 分かりました!」
「ほんとにこのまま行くんですか?」
ハヤトがリンカに聞いた。
「うん。私の持ち物って特にないからね……。替えの道着を後で送ってくれる?」
「分かりました……」
ハヤトは少しだけ寂しげな表情を見せた。
「みなさーーん!! ごめんなさーーい!!」
リンカは大きな声で店の準備や散らかった場所の後片付けをする人々に聞こえるように言った。
「私!! 今すぐ出発しなきゃいけなくて!! きっといつかみなさんにお詫びしに帰ってきますからーー!!」
「リンカちゃん、詫びなんていらないから胸張っていってこい!」
「リンカちゃんがんばってねー!!」
街の人たちの温かい声援が聞こえた。
「ありがとう、ございますっ!!」
リンカはそう言って再び街のみんなに向かってお辞儀をした。
「さあ、リンカ。私の後ろに乗って」
ニーナはいつの間にかバイクにまたがっていた。かなり大型のバイクでニーナ3人分の大きさはありそうだ。
「は、はいっ!」
リンカは恐る恐るニーナのバイクにまたがった。
「あ! お店のこと、すっかり忘れてた!!」
リンカは青ざめた顔をした。
「大丈夫大丈夫~。営業終了の張り紙を貼っておいたから」
ビビエルがウィンクをしながら答えた。
「いつの間に……」
「じゃあ、出発する」
そう言ってニーナはバイクのエンジンを掛けた。
ブゥンと唸るようなエンジン音が通りに響く。
もうこの街ともお別れか。
一瞬だけそんな寂しい気持ちがリンカの心を過った。
だがその気持ちは一瞬でかき消されることとなる。
あの女が現れたのだ。
「木崎リンカ!! ビビエル・イェール!!」
彼女の怒鳴り声は通りを駆け抜け、街中に響き渡った。
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