第12話 到着、魔術学園! 楽しい学園生活の始まり~?

 叫び声の主は店のオーナー、アグネスだった。

 

 リンカ達が勝手に店を抜け出していることに怒っているようだ。


 彼女が現れた途端、街の人々はそそくさと自分たちの店の中へと戻っていった。


 リンカは何とか弁明をしようとバイクを降りた。


 だが彼女が口を開くよりも先に、アグネスが勢いのまま怒鳴り散らしてきた。


「あんな事があったばかりなのにこんなところで油売ってるとはね!! 一体どういうつもりか、説明してもらおうかしら!!」


 アグネスはリンカを小突く。


「お店が襲われちゃって、仕方なく出てきたんです! 仕方なくです!」


 リンカは言った。


「この後に及んでまだ嘘をつくっていうのかい? もうちょっとましな嘘は無かったのかねぇ」


 アグネスはリンカの言う事は全く信じず、その怒りは収まりそうに無い。


 彼女は今にもリンカに掴みかかりそうな勢いだ。


「まあまあ、おばさん。私に免じて許してくださいよ」


 ビビエルが横から入って来て言った。


「あんたも同罪さ! 私にはいつも良い顔して……。私を騙せると思った大間違いだね!」


 ビビエルはそっぽを向いて何のことか分からないふりをした。


「さあ、ついて来こい!! あんた達のことは付きっ切りでみっちりしごいてやるから」


 アグネスはリンカの腕を強く掴んで引っ張った。


「お、おばさん、ちょっと痛いです。放してください」


「痛いのかい? それならうれしいね! このくらいの痛みで音を上げてたら今日は帰れないよ?」


「おばさん、やめてください! リンカを放してあげて」


 ビビエルはアグネスの腕を掴んで言った。


「なんだって? 放すもんか! こいつをもっと痛めつけないと私は気がすまないね。こうしてっ、こうしてっ、こうやるんだよ!」


 アグネスはリンカの腕を強く引き寄せ、彼女の頬を何度も叩いた。


「ほら、ほら、痛いだろ? 私もあんた達に裏切られて同じ気持ちだよ」


 アグネスはリンカを叩くのをやめない。


 その時、突然ビビエルが大声で叫んだ。


「やめなさーーい!!」


 ビビエルはどこからか巨大な銃を取り出し、アグネスに向けて撃った。


 銃口から放たれたビームがアグネスに命中すると、大きな爆発が起きた。


「な、何が起きたの……?」

 

 リンカは突然のことに驚きを隠せない。


「これは強制停止ビームだよ。おばさんのことは心配しなくても大丈夫。しばらく動けなくなるけど、時間が立てば元に戻るから」


 アグネスを見ると、彼女はリンカを睨みつけたまま完全に固まっていた。


 リンカはその不気味さに身震いがしてすぐに彼女の元から離れた。


「でもどうしてそんな武器を……」


 リンカがビビエルに聞いた。


「う~んそれはね~。私がただの学生じゃないから!」


 ビビエルが打ち明けた。


「だから、あの店でアルバイトしていたのもリンカの視察の為ってわけ」


「そ、そっか……生徒会長さんの妹ですもんね……」


「まあ、そういうこと」


「もう問題は片付いた?」


 ニーナがリンカ達に聞いた。


「はいっ。お待たせしてごめんなさいっ」


 リンカは再びニーナの乗っているバイクにまたがった。


「じゃあ、ハヤト! 今度こそ、またね!!」


 リンカはバイクに乗ったまま振り返って言った。


「はい!! リンカさん、がんばってください!」


 2人が分かれの挨拶を終えるとニーナは何も言わずバイクを急発進させた。


 大きなエンジン音を鳴らしながらバイクは急激にスピードを上げていく。


「いってらっしゃ~い!!」


 ハヤトが大声で叫ぶ声が聞こえた。


 後ろを振り返ると、いつまでもリンカに向かって手を振るハヤトが見えた。


 リンカは笑顔で手を振り返す。


 どんどん遠くなっていくハヤトや街の姿に、リンカは少し寂しさを感じながらも、次第に近づいて来るセントラルシティの街並みに彼女は胸を高鳴らせた。


 後ろからホバースケートで追いついてきたビビエルがニーナのバイクを追い越していく。 


「おそいよ~お姉ちゃん」


「私のバイクはこれで最高速度」


 彼女たちは猛スピードでアウトサイドの街並みを駆け抜けた。


 ドランクストリートの屋台の香りは一瞬で過ぎ去り、住宅の少ない地帯に入ると木々の香りが強くなってくる。


 まだ冷たい風を切って彼女たちは舗装されていない道をしばらく進んだ。


 そんな彼女たちの先に待ち構えるのはセントラルシティに繋がる巨大な門。


 その先には憧れの街が広がっているわけだが、その前には深い堀が掘られ、門へと続く橋には厳重な警備体制が敷かれている。


 彼女たちはしばらく進んで橋までたどり着くと、その前でバイクを止めた。


 近くで見る門はかなり巨大で、見上げると首が折れそうだ。


 アウトサイドとセントラルで行き来ができる人間は限られている。


 そのせいか橋の周りには人通りの無い静かな空間が広がっていた。


 自然も豊かで鳥のさえずりが至る所から聞こえてくる。


 リンカの住んでいた山とはまた違った雰囲気に、彼女は少し興奮した。


 彼女達はバイクを降り、橋へと歩いていく。


 すると一人の大柄な警備員の男が近づいて来た。

 

 男は無言のままよそ者を見るような目でリンカの事を睨みつけてくる。

 

 リンカは思わず下を向いてしまった。


「ニーナ・イェールとビビエル・イェール、そして木崎リンカ」


 ニーナはそう言って門の警備員に何やら身分証のような物を見せる。


 警備員はそれを受け取り、しばらく眺めると、納得したような表情で身分証をニーナに返し、橋を渡って門の傍まで戻って行った。


「リンカ、門を見てて」


 ビビエルがリンカに言った。


 警備員は門の傍に置かれている機械を操作し始める。


 すると、その巨大な門がついに開いた。


 ギギィという鈍い音を立ててゆっくりと開いた門の先には、まさにリンカが夢に見た光景が広がっていた。


 どこまでも空へと伸びる高層ビル群の間を縫うようにして何層にも重なったレーンが張り巡らされており、その上を猛スピードで自動車が駆け抜けていく。


 さらにはその上空を箒に乗った魔法使いが飛び回っていた。


「すっごーい……」


「さ、早く行こ。日が暮れちゃうよ」


 ビビエルが言うように太陽は今にもブラックウォールの影に隠れようとしていた。


 ニーナは再びバイクのエンジンをかけ、高層ビルの森に突っ込んでいった。


 街行く人々はオシャレな洋服やスーツを着ており、アウトサイドの人間とは雰囲気が違う。


 道の両側に壁のようにそびえ立つビル群は夕日を受けてオレンジ色に輝く。


 いつも山の上から眺めていた景色の中に自分が居る。


 彼女はまるで絵本の中の世界に入ったような気分だった。


 ニーナはひたすらバイクを走らせ、高層ビルの間をしばらく駆け抜けると、都心からだんだん離れ、緑豊かな公園のような場所に出た。


 それもまたリンカにとっては新鮮な景色だった。


 木々が生い茂り、噴水や綺麗な湖もあった。休憩用のベンチは若いカップルや家族連れで賑わっていた。


「この辺一帯は学園が管理しているからビルが建っていないんだよ」


 ビビエルが教えてくれた。


 彼女が言った通り、公園に入ってから学園の制服を来た人が多くなったように思える。


「もうすぐで到着する」


 ニーナが張り切ってスピードを上げた。


 次第に周りの木々が多くなって来ると、3人は最終的に森の中に入っていった。


 辺りはもう真っ暗で、夜になってしまった。


 カサカサと木が揺れ、虫たちの声が聞こえてくる。


 そんな森の奥にかすかな光が見えた。


 そして彼女たちはその光を目指して走った。


「リンカ、もうすぐだよ」


 ビビエルの言葉と共に3人は森を抜け、広大な土地に出た。


 そこには視界の横一杯に広がる一面真っ白の建物が待ち受けており、その奥には色とりどりの建物が並んでいる様子が見られる。そしてその中央にどの建物よりも圧倒的に高い塔がそびえ立っていた。


 そこはまるで1つの街のようだった。


 どの建物も光に照らされ、夜空に浮かび上がる幻想のように美しかった。


「これが……セントラル学園」 


 入り口付近には出店が多く出ており、多くの人で賑わい、笑い声が飛び交っていた。


「すごーい……」


 リンカは思わず息を漏らした。


「ようこそ、セントラル魔術学園へ」


 出店で買い物する人々の横をバイクで通り抜ける。魚介やお肉、焼きそばに加えて、甘いデザートのようなものもあり数多くの種類の食べ物が売られていた。


「キャーー!! ニーナさんかわいい~! がんばってくださーい」


 通りからニーナのことを応援する声が聞こえる。


 ニーナは生徒会長ということもあり、ここでは有名人のようだ。


「ニーナさんって人気者なんですね」


「そこまでではない」


 ニーナが言った。


「もっちろん。お姉ちゃんは人気だけで生徒会長にまで上り詰めたんだから」


 バイクの横に並んで走るビビエルが言った。


「ビビエル、余計な事言わないで」


 あまり表情を変えないニーナがビビエルに対しては少し表情を変えたのが分かった。


 ニーナに怒られるとビビエルはスピードを落とし、スーッと下がっていった。


「仲良しなんですね~。姉妹っていいなぁ」


「リンカだって弟くんがいるでしょ」


 ビビエルは後ろからリンカの肩を掴んで言った。


「はい! そうですね。でも、未だにお姉ちゃんって呼んでくれないんですよ?」


 リンカは不満そうだ。


「へ~そうなんだ。でもお姉ちゃんも有名人だけど、リンカのおじいさんはもっと有名だよね~」


「私、ずっと山にこもってたから、おじいちゃんがみんなにどう思われてるのかあんまり分からなくて。やっぱりおじいちゃんってすごいんですか?」


「あったりまえでしょ! 木崎源十郎、世界一の格闘家! あの最悪の魔術師サイファーを拳だけで倒したんだから」


「サイファー?」


 リンカは首をかしげる。


「サイファーも知らないなんて、リンカってやっぱりアホだね」


「アホじゃないですーっ!」


「サイファーは20年前この国を恐怖に陥れた魔術師。当時の国王まで殺され、一時は国が乗っ取られた」


 ニーナが小声で呟いた。


「おじいちゃんがそんな危険な人と戦ってたなんて……」


 2人の乗ったバイクは入り口から入って正面の大きな建物の前で止まった。近くで見ると予想以上の迫力だった。出店の光を浴びて白くキラキラと輝いている。


「入学の手続きがある。ついて来て」


「私、ちょっと買い物してくるから、あとは二人でごゆっくり~。あ、ちなみにお姉ちゃん、超ドケチだから気を付けて」


「は、はい?」


 そう言ってビビエルはどこかへと消えていった。


 ニーナとリンカはバイクを降りると、建物の大きな入り口を通り抜けて中へと入った。


 中には分厚い赤の絨毯が一面に敷き詰められた長い廊下が広がる。


 そんな廊下を2人はしばらく無言で進んだ。


「あの、ニーナさんはおじいちゃんがなぜ亡くなったのか知ってますか……?」

 

 リンカがニーナに聞いた。

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