第5話 アーミーvsリンカ。がんばれリンカ!それでもご飯を食べ続けるジム。意地汚いぞ。

 その広い部屋の隅には20人掛けの大きな机があった。


 リンカ達は椅子に手足を縛られて机の前に無理やり座らせられた。


 机の上にはたくさんの豪華な料理が並んでいる。


「一体何が始まるの……?」


 リンカが聞いた。


「もちろん夕食だよ。そろそろ夕食の時間でしょ? フフッ」


 小さな窓から漏れてくる光はいつの間にかオレンジ色に変わっており、そろそろ日が暮れる時間帯のようだ。


「子供達を連れてきて」


 アーミーの合図で人形たちが奥の部屋へと向かい、十人ほどの子供達を連れてきた。


 この工場に囚われているのはリンカ達だけではなかったようだ。


 リンカ達よりも先に連れ去られた子供達だろう。


 皆、目がうつろで一言も言葉を発さず、顔を俯けたまま席に着いた。


「さあ、みんな手を合わせて。いただきます」


 彼の合図で子供たちも一斉に手を合わせていただきますと言うと黙々と目の前の食事を食べ始めた。


 腕を縛られていたリンカ達だが、人形たちが再び近づいてきて腕だけ拘束を解いてくれた。


「ほら、君たちも食べて。フフッ。お腹空いてるでしょ?」


 リンカ達は何か薬が盛られているのではないかと彼を怪しんで食事に手をつけようとしなかった。


「どうした? お腹空いてないの?」


 リンカ達は何も答えない。


「遠慮しくなくていいんだよ? 食べて食べて。冷めちゃうでしょ。フフッ」


 リンカ達はそれでも黙って俯いたまま何も答えなかった。


 アーミーはしばらく黙ってリンカ達の方を見つめた。子供達がカチャカチャと食事を取る音だけが部屋に響く。


 すると突然アーミーの表情が急変した。


「食えって言ってるだろうがこのクソガキ共が!!!」


 アーミーが机を思い切り殴り、料理が飛び散って子供達にかかった。机は割れて穴が開いてしまった。


 再びぞろぞろと人形たちがリンカ達の後ろにやってきて皆の頭を両手で掴んだ。


「今すぐ食べなきゃ人形がお前たちの頭を食うぞ。分かったな」


 ジム、マイク、ケンは人形に頭を掴まれたまま、恐る恐る食事を取り始めた。


 リンカも食事をスプーンですくい口元まで持って行ったが、食べずにそのまま下ろした。


「もう、こんなのやめた。私は戦うよ」


 リンカはそう言って突然立ち上がった。


 そして、彼女の頭を掴んでいた人形をそのまま背負い投げのようにして机の上に叩きつけた。


 すると、近くにいた人形たちがリンカめがけて襲いに来る。


「こんなに沢山いたら勝てっこないよ! やめとけよ!」


 ケンがリンカに言った。


「でも、今戦わないってことはずっとこの人の言いなりになって過ごすってことだよ? そんなのいつか我慢できなくなる! だったら今戦うほうが良いでしょ?」


 リンカはそのまま脚力だけで椅子に縛られていた足を開放すると襲ってくる人形の首を手刀で次々と切っていった。


「あいつは分かっていないんだ。アーミーの恐ろしさを」


 ジムがそう呟きながら食事を続けた。


 リンカは人形を何体か掴んでくるくるとハンマーのように回し、他の人形にぶつけてなぎ倒した。


 これなら勝てるかも! ケンとマイクも少し希望を持ち始めていた。だが、ジムは相変わらず無視して夕食を食べ続けた。


 ジムの予想通り、リンカ達の希望はすぐに打ち砕かれることとなった。


 突然リンカの体が宙に浮かび上がり身動きが取れなくなったのだ。


「ど、どうなってるの!?」


「魔術だよ」


 浮かび上がったリンカの背後にはアーミーが不敵な笑みを浮かべて立っていた。手には大きな宝石の入った指輪をつけていた。


「知らなかった? 僕は魔術師だ。さっきは魔術を使わなかったけどね」


 リンカは空中で固まった体に必死に力を入れ、やっとの事で解放された。


「自力で抜け出すとはなかなか見どころがあるね。フフッ。まあ無駄だけどね」


「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん!!」


 リンカは走りながらそのままの勢いでアーミーに自分の拳をぶつけた。


 だが、リンカのパンチは不思議な力に跳ね返され、逆にリンカが突き飛ばされた。


「さっきは君を甘く見たけどね。僕が本気を出したらこんなもんじゃない。そりゃあもうすごいんだから。フフッ」


 リンカが立ち上がろうとすると、いつの間にか目の前にアーミーが居た。


 彼の指輪をつけている手の周りが一瞬、燃え上がるように青く光ったかと思うと、その光がリンカめがけて飛んできて、彼女の腹に重い衝撃が加わった。


 声も出せぬまま、衝撃で彼女の体がスライドしながら後ろに下がった。


「ほらほら」


 今度は右肩に衝撃が加わり、彼女は体勢を崩した。


「なんだー、元気ないなー」


 アーミーは笑いながら魔術を使ってリンカの体を痛めつけた。


 体中のあらゆる場所に何度も何度もリンカは衝撃を食らった。


「フフッ。でもやっぱり君はしぶといね。普通だったらとっくに死んでるよ」


 摩擦と衝撃でリンカの着ていたワンピースはもうボロボロになっていた。


 リンカ自身、自分がまだ息をしているかどうかも分からない状態だった。


 このままじゃ死ぬ。


 そう思ったリンカはゆっくりと手を上げて言った。


「こう、さん……です」


「んー? 聞こえないぞー?」


「こう……」


 リンカがそこまで言った所で、扉が勢いよく開く音が部屋の中に響き渡った。


「みんな!」


 声のする方を見ると、そこにはハヤトが立っていた。そしてその傍にはリンカの知らない背の高い若い男が立っていた。


「だめ……来ちゃダメ……。逃げて」


 彼らに攻撃しようとするアーミー。


 そんな彼の攻撃をリンカは何とか制止しようとしたが、うまく足に力が入らずそのまま転んでしまった。


 そしてアーミーの手は再び魔力の光に包まれる。


「邪魔者は死んでもらうよ。ここには子供しか要らないんだ」


 アーミーは不敵な笑みを浮かべて言ったが、ハヤトの横に立っていた男は動じなかった。


 彼は手のひらをアーミーに向けた。

 

 すると、彼の手は紫色の光に包まれた。


「なんだと!?」


「アウトサイドには魔術師なんかいないと思ったか?」


 男はそう言って魔力を開放すると、その力でアーミーを吹き飛ばした。


「大丈夫? 早く逃げて」


 その男がリンカに近づいてきて言った。


「だ、大丈夫です」


 リンカは起き上がりながら答えた。


「お兄ちゃん、お姉さんのことは僕に任せて」


 ハヤトの兄らしいその男は黙って頷き、子供達の方へと走っていった。


「あの……ごめんなさい」


 ハヤトがリンカに向かって謝った。


「なんで謝るの?」


「だって僕が誘ったからこんなことに」


「別にあなたのせいじゃない」


 リンカはハヤトの手を借りながらゆっくりと立ち上がった。


 辺りを見回すと、人形たちはハヤトの兄の手によって次々と破壊され、子供達はすでに部屋からいなくなっていた。


「僕に任せて」


 不安そうな表情をするリンカにハヤトの兄は言った。


「ほんとに大丈夫ー?」


 気付けばアーミーが壊れた人形の山に腰かけ、こちらを不敵な笑みで見つめていた。


「僕も魔術師だ。大人しく降参しろ! さらわれた子供達はまだいるはずだ。どこかに隠しているんだろ? 早く子供達を返して貰おう」


 ハヤトの兄は力強く言った。


「魔術師なんてさ、最近じゃ珍しくもなんともないじゃん。フフッ。でもさ、僕は威魔アドミネイアだよ。大丈夫?」


「ふっ。まさか。よくもそんなはったりを言えたもんだな。子供達を監禁する悪趣味な野郎の言うことなんか信じられるか!」


「アドミネイアって……?」


 リンカがハヤトに聞いた。


「魔術師のランクの名前です。一番強力な魔術師の事で世界に3人しかいないらしいですが……もしあいつがそうだったら……」


「だったら試してみたらいいさ、僕の力を」


 アーミーが立ち上がって言った。一瞬だけ彼の体が青いオーラに包まれ、彼の目も青く光ったように見えた。

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