第6話 アーミーとの戦いが終わる。さよなら人形。
魔術によって生み出された魔力を帯びたエネルギーが飛び交い、激しい戦いが繰り広げられていた。
ハヤトの兄は魔力で盾を作ってアーミーからの攻撃を凌いでいたが、防戦一方だった。
リンカは立っているのがやっとで、その戦いをただ見ていることしかできなかった。
「ほらほら、そっちも攻撃してきたらどうなんだい? フフッ」
ハヤトの兄はアーミーから煽られ、落ちていた人形の破片をアーミーに向かって飛ばしてみるも、簡単にはじかれてしまう。
「ちょっとこれ持ってください」
ハヤトが取り出したのは、棒状の剣の柄のようなもの。
「なにこれ?」
「これは魔剣アヴァリティア。持ってる人の魔力を吸い取る剣です。一緒に持ってこの剣に魔力を貯めてください!」
リンカとハヤトは一緒にその剣の柄を掴んだ。
「お前は
「く、くそっ!」
ハヤトの兄はアーミーに完全に遊ばれている状態だった。
「そろそろ終わらせようよ。フフッ」
アーミーが手から青い光を放つとハヤトの兄は床に倒れ、まるで糸で引かれるようにアーミーの元へと引きずられた。
アーミーはハヤトの兄に向かって覆いかぶさるようにして倒れこみ、首を掴んで言った。
「さようなら。まあ、すぐ顔も忘れるだろうけど。僕って子供にしか興味ないから。フフッ」
アーミーはその手に魔力を貯める。
彼の手は青い光に包まれ、その目も青い光を強く放つ。
ハヤトの兄はどうすることもできず、目を瞑って覚悟を決めた。
「やるならさっさとやれ……」
だがそこにハヤトの声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん! 借りてた剣だよ!!」
ハヤトは持っていた剣を兄に向かって投げた。
リンカとハヤト、2人分の魔力がその中には十分ため込まれている。
ハヤトの兄は剣をキャッチすると、その剣が一瞬だけ光を放った。
「ありがとう。受け取ったぞハヤト!」
彼は自分の手を剣の上に重ね、アーミーを睨みつけて言った。
「どうやら俺はまだ負けていなかったようだ」
「なんだと?」
「勝機はある!! くたばれ! 変態が!!」
その言葉と共に魔喰剣から真っ直ぐ光が飛び出した。その様子はまさに魔力の剣だ。
アーミーはその魔力で突き刺されたが、防御魔法によって自分の体のギリギリの所で剣は止まっていた。
だが、彼にとっても剣に貫かれないようにするのが精一杯のようで、苦しそうな表情を浮かべながら数歩後退りした。
ハヤトの兄は立ち上がり、さらに魔力を込めて剣を押し込んだ。
「き……貴様!! 絶対に許さんぞ!!」
アーミーは歯を食いしばりながら叫ぶ。
だがハヤトの兄も剣を握りしめ、全力で魔力を放った。
「覚悟しろ!! お前の負けだァア!!」
彼が最後の力を振り絞って込めた魔力はアーミーの魔力を上回り、腹を貫いた。
「うっ!! ウァッ……!!」
腹を貫かれたアーミーはそのまま後ろに倒れた。
そして、力を使い果たしたハヤトの兄は膝から崩れ落ち、剣先も同時に消えた。
「やった……!」
リンカはアーミーが倒れた事にほっと安心してハヤトにもたれかかった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「うん、私は大丈夫。それよりお兄さんを」
リンカに言われ、ハヤトが兄のそばへ向かおうとした。
だがその時、再び部屋の扉が勢いよく開く。
入って来たのは逃げたはずの子供達だった。
「ど、どうしたの?」
ハヤトは思わず問いかける。
「ハヤト! 逃げろ!」
ジムやケン、マイクは元々アーミーに捕らえられていた子供達に拘束され、何やら叫んでいる。
「ど、どういうことだ……?」
突然のことにハヤトの兄は動揺を隠せない。
「フフッ。フフッフ。フフフッ。ああ、面白いなあ」
アーミーが倒れた状態のまま笑い始めた。
彼は刺された腹を抑えながら、ゆっくり体を起こして話し始めた。
「僕は子供が好きだけど、生きてる子供は管理が中々難しくて……。だから、殺しちゃった。フフッ。あの子たち、もうただの人形ってわけ。フフッ。面白いでしょ」
「な、なんだと!?」
子供達の後ろからボロボロになった人形が数体、ゆらゆら体を揺らしながら部屋に入ってきた。
「ああ、僕の大事な人形。直してくれたんだね……。さあ、今度こそ綺麗に終わらせてね」
アーミーのその言葉を聞いて、人形と化した子供たちが真っ直ぐハヤトの兄の元へと歩いてきて、彼の腕を両側から掴んだ。
彼はもう力を使い果たしており、抵抗する余力がなかった。
「や、やめろ! こんな事!」
「もうやめて!! お願い!! 許してよ!」
リンカが必死に叫ぶもその声は届かない。
「なんで? 許したりしないよ。だって別に元々僕は怒ってないからね。フフッ。僕って温厚でしょ?」
アーミーはそう呟いた。
すると、一人の子供がハヤトの兄の胸の辺りを後ろから勢いよく腕で貫いた。
「グハァッ……」
「お兄ちゃん!!!!」
ハヤトの叫び声もむなしく、そのうめき声と共にハヤトの兄は首を下に向けて、死んだ。
そしてリンカとハヤトは逃げる間もなく、ぞろぞろと出てきたボロボロの人形とアーミーによって操られた子供達に囲まれてしまった。
「ハヤト君」
リンカが少しずつ後ろに下がりながら言った。
「な、なんですか」
「先に謝っておく。ごめんね」
「どうして謝るんですか?」
「あなたの友達を置いて逃げるから」
リンカはそう言ってハヤトを抱え上げると、そのまま窓を割って外に飛び出した。
彼女は一度も後ろを振り向くことなくひたすら走り続け、細い住宅街の道を抜け、山道を登っていった。
もう日はとっくに暮れて辺りは真っ暗だった。
ハヤトが何かをずっと言っていたが、リンカは聞こうとしなかった。
もうリンカに助けられるのはハヤトだけしか居ないと彼女は判断したのだ。
夜風が冷たくリンカの肌をなでる。
まるで風がリンカのしたことを責め立てているかのようだった。
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