登場する人たちがみんないい人たちで、読んでいてこちらも何かを作り出すことや仕事をすることに対して前向きになれそうなお話です。そしてラストの「ネタばらし」はお見事。
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新聞記者の「私」は、編集局長の命により、牛相撲興行用の写真を用意することに。「西域の小説を書きたい」そんな、忸怩たる思いを抱える「私」は、広大な砂丘で写真家の植田正治と出会う。戦後昭和を舞台に実在の人物たちが織り成す、創作への思いを描いた小説。言葉遣いや情景によって、読者を一気に昭和の空気へ引き込みます。立場や作り出すものが全く違う二人ですが、もしも出会えていたら……そんな思いに駆られました。そして、創作活動の末席を汚している自分も、もっと頑張らねばならないと、奮い立ちました。
才能と才能がぶつかると火花が散る。その火花が形をとって作品ができる。分野が違えども奇才に触発された私が大きく一歩を踏み出す物語
カクヨムで小説を書いている方々は、殆どの方が何か燻るものを心にお持ちなのではないでしょうか。その燻りに火が着く出会いの、一つの形は、ここにあるかも知れません。
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何となくBGMに「月の砂漠」が流れているような気がしました。 優しい語り口と穏やかな物語が続きます。砂丘の近くに住んでいたことがあるので、凄く情景が浮かんできました。静かで優しい。 人気のお話ですので、それだけではありません。驚きと感動があります。最後は納得もしてしまうのですが、読後は爽やかです。 コロナ禍が終わったら、西域は一寸遠いですが、砂丘に行きたくなりました。
久しぶりに本物の現代小説を拝読しました。松本清張さんや井上靖さん、司馬遼太郎さんの作品のように、これから長年の歳月の濾紙に堪え得るであろう、本物の文学がここにあります。砂漠の底の底の、地の底に滾々と湧いている泉のような、表面的にはちっとも切なくないのに、なぜか強く心を揺すぶられずにいられない、そんな一級の文学作品です。