第15話 そういえばこのゲームの運営ヤバかった
とてつもない爆弾を食らい続けHPは0に近かったが、なんとか気合で持ちこたえ私達は改めてフウリ達から説明を聞くことにした。
久しぶりに5人でフウリの部屋に集まって会議をするという懐かしさに浸る余裕はなく、しかも今は予想だにしていなかった人物がこの場にもう2人いらっしゃる。
昔から慣れ親しんだこの部屋が今はまるで別の空間に来てしまったようなな緊張感。
そんな中、カイとマオだけが久しぶりにフウリに会ってはしゃぎ過ぎたのか疲れ果て息をたてて彼女の膝の上で心地よさそうに眠っている。
よくこの空気の中でそんな気持ちよさそうに寝てるな。と少し呆れたがその時、ある事に気が付いた。
この2匹は片や寝太郎、片やノー天気だけど、少しでも私達に対して悪意であったり、よくない気を感じた相手に対しては普段では信じられないほどの警戒心を見せ、こちらに危害を加えようもんなら少し怖いほどの狂悪な魔力で相手をねじ伏せようとする。
しかし、今はここまで気を抜いて眠っているという事は…。
シヤコちゃんはともかくリイヅに対してはどうしても身構えてしまうけれど、もう少し気を許してもいいのかもしれない。
「では、久しぶりに会議を開きますね。…と、いってもまずはフウリ様、改めてきちんとお話をお伺いしたいのですが…」
安定のアカツキが口火を切ってくれる。でも口調は穏やかなのに心なしかいつもの余裕は感じられなかった。あのアカツキでさえも、そして一定の距離を保ちつつもずっと何があってもすぐに対応できるように彼を監視しつけているタソガレも、リイヅに対してはかなり警戒をしているようだった。
フウリは一口お気に入りのハーブティをすすると、小さく息を吐いた。
「初めはね、私という存在の影響なのかと思ったの」
「え?」
「私は定められた運命通りならば死んでいるはずの人間。そんな私がこの学園に入学したという事で元の運命筋が変わっていく事も多少はあるだろうって話は前にもしたわよね?第一に、私が入学した事により入学できなかった方が既に御一方いらっしゃるわけだし…」
「…うん。そうだね。学園にも定員があるし、本来いるはずの人間がいない訳でいないはずの人間がいる訳だから、そりゃあ多少なりとも変わって来るよねって話だったよね」
「えぇ、だから私もその事を念頭に置いた上で情報収集を始めたし、少々の変化については気に留めていなかったのだけど…」
「けど?」
「明らかに、これは私の影響ではないと思えるような違いがいくつも見えてきたの。しかもその違いというのがほぼ攻略キャラの皆さん」
「…どういう事?」
「攻略本とは違う事、そして載っていない事実がいくつもあるのよ」
「あの攻略本に…?」
ちなみに、フウリはあの辞書並みに分厚いページぎっしりに書かれた文字一つ一つを丸暗記してくれている。元々類まれなる才女として有名な彼女だが、さすがにこれは凄すぎると驚いたものだ。だからそんなフウリが言うという事は間違いないのだろう。
「基本的なところは同じなのに、お互いの関係性はもちろんの事、貴女方が入学してから起こるべきイベントの為に今の時点で行動するべきことをされていなかったり…何よりも…」
「何よりも?」
「私のように、本来なら死んでいるはずの御方が生きていらっしゃるのよ。何人も」
「…え?」
「例えばルイフさんの義理の弟君にケイさんの御師匠様…」
「ちょっと待って!何それ!?それってそのキャラ自体を揺るがす大きすぎる事じゃない!?」
あまりの衝撃にたまらずルクスが声を上げる。ルイフもケイも2つ先輩の攻略キャラで彼らのルートでは亡くなった方々が重要なポイントとなっており、もしその方々が生きているならばそのルートそのものが成立しないのだ。
「そして、それはここにいる彼も同じだったわ。貴女方も聞いたでしょう?入学前から本来出会うはずがないソユキと古くから友人関係にあり、更には彼から呪術まで教わっていた。あ、ちなみにシヤコももちろんソユキとは友人関係よ」
「なんで…何が起こっているの…」
どういう事なのか…。これは私達が読むことが出来なかったあの設定資料集がとかそういうレベルじゃない。確かにこれまで私達はフウリが死なないように動いたし他にもいくつか元の運命を自分達で変えて来たけれど、その影響がこんなにも全世界に出たのいうの?
「ねぇ、2人はリイヅの入学してすぐのエビソード覚えてるかしら?彼の美しさに惹かれたお嬢さん達が彼を囲いこんで早速アピール合戦を始めるというエピソード」
「あ、それは…もちろん覚えてるけど…なんで?」
「本来ならばそこでリイヅが彼女達にこう言うのよね。[俺には昔から大切な人がいるんで]って。…でもね、それも違ったの」
「違う…?」
「そのセリフを言ったのはリイヅじゃなくてソユキ。元々囲まれていたのだって2人でなの」
「へ?」
「ソユキ、故郷に大切な幼馴染がいるそうよ。リイヅと同じようにそれはそれは大切な」
待って、お願い待って。何が起こっているのか全くわからない。
だってソユキは故郷ではたった1人で孤独な日々を送っていたはずで、幼馴染だなんて存在していなかったはずだ。今度は存在しないはずの人間が存在しているって事!?それが彼のルートでは大事なポイントじゃないの!?というか、それじゃあソユキルートも成立しないって事になってこない…?
「あとね、もっとおかしなことにソユキがその幼馴染と出会ったのは生まれてすぐだそうだし、リイヅとソユキが出会ったのもまだ4歳の頃だそうよ」
「それって…」
「つまり、貴女達が前世の記憶を取り戻す前から既に、貴女達の知っいる【青ぐ】とは違う運命が始まっていたって事になるわ」
あ。だめだ。もう思考が追い付かない。
自分の中でガラガラと何かが崩れて言うような音がする。
なんで、どうして?同じ事ばかり頭の中で繰り返すしかできない。
ルクスも同じようにただ固まってしまっていた。
「だから私は1つの賭けに出たの…自分から彼らに接触するという、ね。入学前から狙いをつけてリイヅやソユキをこちら側に引き込めないかと考えていたのよ。彼等なら私達に賛同してくれるんじゃないかと思ってね。特にシヤコの事があるリイヅはね。…で、結果賭けは勝ち。今に至るというわけ。ね、リイヅ?」
話を振られたリイヅは小さく微笑むとそのまま私達へ1つの質問を投げかけた。
「御二方は、アキノ=フォノンという人物をご存知ですか?」
リイヅからの突然の問いに私達は驚いたが、その名の人物については残念ながら心当たりがない。
「ごめんなさい・・・ちょっとわからないです…」
「私も…でもその方が何か?」
リイヅは一瞬シヤコちゃんに目配せしたが彼女は切なそうに下を向いて目を会わせようとしない。
「アキノ=フォノンはシヤコのルームメイトです。シヤコの仲の良い友人でもあります」
「…ん!?まってシヤコちゃんのルームメイトはナハナちゃんでしょ!?彼女はどこいったの!?」
「安心してください。ナハナさんもいらっしゃいますよ。シヤコとも仲良くしてくださっています。ですが、ルームメイトではありません」
「そんな…!?」
何かと残酷で辛い目に合うシヤコちゃんをずっと支えてくれたのがルームメイトのナハナちゃん。[ナハ×シヤ]という百合カプは一部から絶大な人気を誇っているほどだ。
なのに、ルームメイトじゃないなんて…それに…アキノという名前の人物がシヤコちゃんの周りにいた記憶はない。この私が言うんだから間違いない。…でもじゃあなんで…?
「あっ~!!!!!!!!!」
私がまた再び思考の迷宮の中に落ちてしまいそうになっていると突然ルクスが叫んだ。
「ル…ルクス?急にどうしたの!?」
「ルトス!アキノだよ!アキノ=フォノン!」
「え、…うん?だからそんなキャラいなかったよね…?」
目をギラギラと輝かせながら私の肩を思いっきり揺らすルクスのテンションが分からず私は困惑した。
「違うよ!知ってる!絶対知ってるはずだよ!だってルトスも見たって言ってたもん!アレ!もはや都市伝説のアレ!」
「…都市伝説の、アレ?」
「そう!たった1日だけ一部公開されたあの、ほら!シュジとクハクが主役の!」
「…あ」
思い出した。そうだ。本当だ知ってる。アキノ=フォノンという人物をそして…。
「ということは…ソユキの幼馴染も、確か…いたよね?」
「うん!いた!ほんの一部ずつしか公開されていなかったから他はわかんないけど、ソユキについては、はっきりと書かれていたと思う!」
どうして今まで[アレ]の存在を忘れていたのだろう。確かに正式には発表されているものではないし、[アレ]の計画は頓挫されてもう無くなったモノだと決めつけていたという事もあるけれど…じゃあここは…まさか…。
「ルトス?ルクス?一体どういうことなの?」
いつのまにか説明する側だったフウリが今度は質問する側に回っている。
私とルクスはお互い見つめ合う。そして深く頷きあった。
「まだ、確かじゃないんだけど…もしかしかたら私達はずっと勘違いしていたのかもしれない」
「勘違いって…」
「私達が転生したのは【青ぐ】…【青いバラを君に捧ぐ】の世界だと思っていたけど、そうだけど、そうじゃなかったの」
「え?」
そう。そうなのだ。だったら今起こっている出来事にも合点がいく。
「私達が転生したのは【青いバラを君に捧ぐ】ゲーム本編ではなくて、【青いバラを君に捧ぐ】のオリジナル映画の世界だったって事!」
「しかも…なが~い間、鋭利制作中の未発表映画のね」
【青ぐ】が発売1周年を迎えた頃、突然公式からオリジナルシナリオ映画プロジェクトが告知された。しかも同時に攻略キャラ総選挙を行い、その選挙で1位と2位をとったキャラ2人が主役となるというもの。これだけでも十分な燃料だというのに、ゲーム本編で既にメインといっても過言ではないタソガレとアカツキ、他のランキングでは常に上位で彼が主役となるアニメの放送が決まっていることからリイヅ、といったように他媒体で既に優遇されている人気上位キャラ達は選挙対象外という事。
さらに恐ろしい事に対象のグッズやCDを買えば買うだけ投票権が与えられ、言ってしまえば自分の限界のまで投票が出来たのだ。
結果、この総選挙は荒れに荒れ、投票期間が終わるころには無数のプレイヤーが廃人と化していたという。
そして、その波乱の選挙で1位と2位をとったのはシュジ=フデトとクハク=カヅという今までも十分人気はあったけれどどうしても他のキャラに隠れがちだった2キャラ。
しかし、本当の地獄はここからである。予定されていた公開日から諸般の理由で延期されてからというもの、その映画について運営が触れる事は無く無情にも時だけが過ぎていき、ブチ切れたプレイヤーが抗議署名活動を起こすにいたった。さすがの運営もそれには謝罪文を出し、お詫びとしてたった1日ではあるけれど公開予定映画の台本の一部を公開したのである。
同じシーンの抜粋ではなく色んなシーンを飛び飛びで公開したものであったため詳しい事は依然としてわからないままだったが、そこで判明したこともいくつかあった。
それは本当にオリジナルシナリオ映画という事であって、どうやら我々プレイヤーのこんな展開もあったらよかったのに、こういう事ならよかったのにといった要望も反映してくれているらしく、それにより大胆な改変が行われている事。
そして映画のヒロインはルトスとルクスではなくアキノ=フォノンという人物であるという事。
この1日公開はとにかくいい方向に反響が物凄く、高まりまくっていた運営への不満感は一度下げられた。
だがしかし、その公開後は悲しいかな映画の情報は一切無くなってしまい、それどころかそのままゲーム運営そのものが何も発信しなくなってしまった。
結果、この映画は都市伝説と呼ばれるようになり、プレイヤー達は話のネタに昇華することでなんとか自分達のなかで折り合いをつけた。
ところが都市伝説と呼ばれ久しくなった頃、事件が起こった。
そう。公式設定資料集の発売である。なんとそこには映画新情報が載っているというのだ。ただでさえ長い沈黙を破っての発売だというのに全ての謎が明かされるだの、映画情報だの詰め込んだこの設定資料集は本当に悪魔のような一冊だと思う。
私だってシュジ=フデトとクハク=カヅは好きなキャラだったし、ただ【青ぐ】の映画というだけでもめちゃちゃ楽しみにしていたので設定資料集で新たな情報が得られることを本当に嬉しく思っていたのだ。だけど、何度も何度も言うけれどその設定資料集をよく事が私は、いや、私達は出来なかった。クソ野郎の事は住む世界が違ったとしても恨み続けてやる。
「つまり、その[えいが]という世界が今私達が生きている世界かもしれないって事ね」
私達は自分達がたどり着いた推測を皆に説明した。
聞いたことのない単語が沢山出てきたことで少し理解しづらそうにはしていたけれど、なんとか伝わったようだ。
「うん、じゃなきゃ今の状況の説明がつかないし、何よりアキノ=フォノンという存在が大きいと思う…でも…」
「でも?」
「…私達がその映画について知っているのは本当に本当にわずかな事だけ。詳しい事は何も知らないの。だから…今までみたいに先手を打って行動するって言う事が難しくなると思う…その攻略本だって改変されているのならもうどこまで役に立つか分からない…」
一気に戦況は不利にな1つったように感じた。いくら改変があったからといってルトスとルクスの残酷な運命は変わらないとプロデューサーがはっきり明言していたから、私達を待ち受ける未来はとてつもない事は間違いない。なのに、その運命に抗う大きな武器が壊されてしまったのだ。
「あの、1つお聞きしたいんですが」
どんよりと沈む私達とは対照的にカラッとした声でリイヅが発言をする。
「その改変された[えいが]というものにおいて、シヤコはどうなりますか?」
「え?」
「元の運命通り命を落としますか?…それとも、その呪縛から逃げられますか?」
いかにもリイヅらしい質問だと思う。だけど、答えは残念ながら…。
私は口にするのが嫌でその場で首を振った。シヤコちゃんもどんな形になるかは明かせないが死ぬ運命は変わらないと明言されていたのだ。
そんな私をリイヅは今日一番の鋭い目をして、何か私の中から探るように見つめていた。
「…それが聞けて良かったです。俺の中でやるべきことが決まりましたから」
「やるべき、事?」
「改めて、俺からも言わせてください。貴女方のその計画、俺も協力させていただきたい。俺の事はただの駒として見ていただいても構いません」
彼はその場に深々と傅いた。
「駒って…そんな…」
「…でも、リイヅが協力してくれるならかなり有利にならない?」
確かに、あの一番厄介だと思っていたリイヅが味方になるというのなら鬼に金棒だ。するとフウリが彼に続く。
「今までは、貴女達の前世の知識によって助けられて守られてきたわ。でもこれからは、私達全員で貴女達を守る番よ。それにいくら改変されたとはいえあの攻略本もそうだけど、今でも、そしてこれからもきっと貴女達のその知識が必要になるわ。その知識と、私達がいればきっと大丈夫。前を向きましょう?」
「フウリ…」
「そうですよ、御二人とも。どんな事になっても俺が、俺達が必ず道を切り開きますから」
「アカツキ…」
アカツキはそのままルクスを抱きしめた。アカツキはもう私達の前であろうとなんであろうと堂々とルクスに対しての重すぎる愛を隠さないようなった。
そんな2人の世界に突入したルクス達に動揺しつつシヤコちゃんもその場に傅く。その肩は小さく震えていた。
「私も、出来る事ならなんでもします。足手まといにはならないように頑張ります。よろしくお願いします」
するとフウリはそんなシヤコちゃんの肩をそっと支える。
「ルトスとルクスだけじゃないわ。必ず貴女も守ってみせるわ」
「フウリ様…」
そうだ。ここでしょげてる場合じゃない。シヤコちゃんの事は絶対守るって決めたじゃないか。こんなにもたくましい仲間達がいるんだきっと、乗り越えられる。
と、決意を新たにした私の反対側からは異様な殺気を感じる。
「…何か少しでも不審な動きをしたら、殺す」
「それは、お互いさまに」
あれ…本当に、大丈夫かな。
私は決意をしたすぐ横で行われているタソガレとリイヅのけん制に一抹の不安を感じた。
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