第7話 ネタバレされているってかなり辛いと知る
定期的に爆弾級の情報を投下しては、燃やし萌やされネタにされ。
乙ゲー業界やヲタ界隈だけではなく、世間をも巻き込んで話題を提供してきたこの【青ぐ】。
結果、様々なメディアに取り上げられる事になり供給過多で、我々ファン一同喉が枯れるほど嬉しい悲鳴をあげ続ける事となる。
その中でも私がこれは面白いと毎週楽しみにしていたものがある。
それは、人気急上昇中のゲーム雑誌【月刊ミートアップ】で連載されていた【青ぐ】ランキング。
その名の通り【青ぐ】のあらゆる事をテーマにして投票を募り発表していくというもの。その内容は王道の好きなキャラランキングからかなりコアなところまで扱い、それがまた面白いのだ。
そして私が最も「そこをピックアップするのか!さすが【月刊ミートアップ】さん!」と唸ったランキング、それは[プレイ中に思わず口から出た言葉]ランキング。
このランキングの反響はかなり大きく、SNSを中心にあちこちで結果予想激論が繰り広げられるなどの盛り上がりを見せた。しかも、その結果発表号である【月刊ミートアップ】は発売と同時に書店から消え異例の再販となるほどだった。
そんな多くの人々が見守った大注目のランキング。
もちろん、惜しくも圏外となってしまった言葉も含め2位まで全てが、あぁわかる!と完全同意するものばかりだったのだが、1位に君臨したその言葉はまさに圧倒的。私も何度その言葉をプレイ中言ったか分からないしその言葉を票として入れた。
そしてその言葉とは…。
「いや、さすがに分かるだろ~っ!!!!」
すると、小さくだが私の叫び声がエコーみたいに遅れて聞こえてくる。
あぁ、山じゃなくてもそこまで高くない丘の上から山びこって起こるんだな。と丘から見える私達の街を見下ろしながらしみじみ感じた。
そして、いきなり隣で座っていた私が立ち上がるやいなや叫び出したというのに何の反応もなく座ったまま仏頂面で同じように街を見下ろすタソガレ。
普通なら、急にどうした!?とか何かしらアクションするところなんだけどな。さすがタソガレ、安定の無反応。
なんだかそんなタソガレがおかしくなって少し笑ってしまう。
私に笑われても彼は無言のまま街から視線を逸らすことはない。
隣にいる相手に何をしても反応がないという事は辛い事のはずだが、今の私にはその方がありがたかった。」
むしろ、タソガレはそれをわかって、そうしてくれている。
私もあと数ヶ月で12歳、前世の記憶が戻ってから約6年。タソガレは私を一番近くで守ってくれていた。だからわかる、これは私に関心がない訳でもなくて、意地悪がしたい訳でもない。彼の優しさなのだと。
そしてタソガレは待ってくれているのだ、私の言葉を。私の本心を。
思いっきり上へ手をあげ伸びをする。そのまま少し黙って街を見つめながら静かだけど心地の良い時間を過ごす。風に揺れる草原の音、遠くから聞こえる鳥のさえずり、今ではすっかりタソガレ大好きっ子になった彼の膝の上で気持ちよさそうに眠るカイの寝息。
うん、なんか少しだけ気持ちが晴れたかも 。
私はそっとタソガレの隣へ腰を下ろした。2人の距離も昔では信じられないほど近くなっている。
「初めはさ、赤ちゃんだからよく寝てるのかなぁって思ってたけど…カイの場合は違ったね。ただ寝る事が好きなだけ。あんなにマオは一日中元気に飛び回っているのにね」
カイは私につんつんと指でつつかれても気持ちよさそうに眠っている。
すると、ずっと黙っていたタソガレが口を開く。
「食べるか、貴女やルクス様やフウリ様に甘えるか、こうして眠るか…。全く羨ましいものです」
「確かに」
一見すると仏頂面のままに見えるけれどカイを見つめるその表情はとても優しかった。
「…ねぇタソガレ?」
「なんでしょう」
「さっき私が叫んだ言葉覚えてる?」
「[いや、さすがに分かるだろ]…でした、か」
「そう。それ。…その言葉ね、私が前世で【青ぐ】をプレイしていた時に一番言った言葉なんだ」
タソガレが黙って相槌だけうってくれる。
いつも私が話し出すとタソガレは邪魔をしないようにこうして聞き役に徹してくれるのだ。
ヒロインであるルトスとルクスの身には信じられないほど辛い出来事が次々と起こる。例えどんなをハッピーエンドを迎えようが耐えがたいような運命を辿る事には変わらないし、他人行儀な言い方にはなるがプレイヤーの我々は彼女達が可哀想で同情してしまう。
だからこそ、嫌われることも少なくない乙ゲーのヒロインの中では人気も高く、彼女達が好きだからどんな事があっても【青ぐ】を辞めないというプレイヤーも少なくなかった。
でも、人気があるからこそアンチもいる訳で。
そんなヒロインアンチ派から彼女達へ送られたとあだ名。
[クソ鈍感天然詐称事件飛び込み選手権代表双子姉妹]
そして後々、その無駄に長いあだ名の方が有名になっていくほどに事になのだ。
何故なら、そのあだ名がかなり的を射ていたから。
何度も言うが、ルトスとルクスは悲運な道を辿っていく事になる。
だが実際にプレイしていくと、
あれ?これは自分で回避できたよね?
いや、それ起こる前に気が付けたよね?っていうか絶対気づくよね!?
うん?なんであえてその場所に行こうとしているの?危ないって分かるよね?
というような彼女達の行動へのツッコミの多さたるや。
だからこそランキングで[いや、さすがに分かるだろっ!!!]という言葉が2位とかなりの得票差をつけて1位に輝くわけだし、言わずもがな私だって、何度その言葉を彼女達に対してぶつけたかわからない。
もちろん全てが全てそうではないし、ただでさえ謎や伏線が大量にちりばめられた作品でヒロイン自身が動いていかないと永遠に終わらないという事も分かる。
でも、誰がどう見ても分かるよね?という事が多すぎるのだ。
まぁ結局、ツッコんでこそ【青ぐ】という事で、そんなヒロインも含めてこの【青ぐ】は完成していくわけなのだが。
「私もさ、面白半分でルトスとルクスの事をいじりまくってた。…でもね、実際、自分自身が本人として生きるとさ…全く違うって事に気が付いたんだよね」
そう。
[クソ鈍感天然詐称事件飛び込み選手権代表双子姉妹]と言われ、最終的にはこの事を公式にまでネタにされたこのヒロインに、私は転生した。
「私はさ、前世で【青ぐ】をプレイしたからこそ、色んな事を既に知っているから…[分かって]いるから…こう…これから起こるであろう事も、運命にも抗っているわけで…。でも、もし、記憶がなくて[分かって]いなかったら…どうなっていたか…」
「ルトス様…」
「…だって!今こんなに幸せなのに!平和で仲良く暮らしているこの街で、強くて優しい御父様と卸母様に愛されて育って、ウィネやお屋敷の皆がいつだって見守ってくれて…大切でかけがえのないフウリやアカツキと…唯一無二で、もう1人の自分である愛すべき妹ルクスと生きているのに…。貴方が…タソガレが傍にこうしていてくれているのに…。それが…その愛すべき日々が、偽りだなんて、どうしたら[分かる]っていうのよ…」
カタクリ家の長でもあり、私達の父でもあるエカン=カタクリはここアガサの街を中心とした王都からかなり離れた小さな領地を治めている。
領地も狭く、王族から与えられた位もギリギリ貴族というレベル。
でも、カタクリ家にとってそんなものはどうでもいい事。
カタクリ家の人間なるもの、領地に住む命あるもの全てが平等に笑って生きていく場所を守るという使命を持ち生きる。その事をなによりも大切にしていた。
御父様、それから私達の卸母様、シック=カタクリはまさにそのカタクリ家そのもののような人物だった。愛と優しさに満ちた私達自慢の両親で、このカタクリ領に住む全ての者から慕われていた。
しかし、本当は[分かって]いる。
エカン=カタクリとシック=カタクリいう人物、いやカタクリ家そのものが偽りだという事を、私はもう、[分かって]いるのだ。
このカタクリ家は、私とルクスを、つまり光と闇の力を管理、研究するために創られた研究施設に過ぎないという事を。
「正直、前から不思議に思っていたんです。こんな小さな街で護衛騎士団が必要とされる理由。それは近くに重要な魔力泉があるから。でも、実際は近辺の警護に当たるのみで団長であるリワ様でさえもその魔力泉を見た事がない。その泉に近づく事が出来るのは王都から派遣された人間とエカン様のみ。しかもいくら重要な魔力泉だといえ、近辺の警護だけだというのに王都の騎士団に引けを取らない…いやそれ以上の強さが求められている。…話をお聞きし、やっとその理由がわかりました…でもまさかその魔力泉は存在していないとは…」
約6年前、初めて真実をタソガレ達に話した際、アカツキはやっと合点が言ったという表情でそう話していた。
「そうね…。それから、街の人間が近寄ることさえ許されない…選ばれた人間しか中に入る事ができない門外不出の謎の王都直属魔力研究所…しかもかなり最先端の研究所。その魔力泉の研究のためだと思っていたけれど…そういう事だったのね…」
アカツキに苦々しい顔をしたフウリも続く。
魔力泉。
それはこの世界において魔法術そのものの源とされる泉の事。
世界中あちこちに魔力泉が点在しているが、その魔力泉はまだ謎が多く泉から発せられる力が大きければ大きいほど保護され研究されていた。
しかし、このアガサの街に存在する研究所も護衛騎士団も魔力泉のために創られたものではない。
全て私達のために創られたものだったのだ。そしてそれは護衛騎士団長であるリワさんでさえその真実を知らされていないのだ。
そう、これこそまさに[いや、さすがにわかるだろっ!!!]ポイントその①。
不必要な強さを求められるくせに護衛すべき魔力泉さえも見た事がない立派な騎士団に、この街の人間誰もがよくわかっていない怪しい研究所。明らかに、おかしいのだ。なのに、誰もツッコんで来なかったのだ。
でも、もし疑問に思ったとしても、生まれた時からそれが当たり前にそこにあったとしたら?それが当たり前なんだと教えられて育ったら?
ゲームをプレイするという事は外の世界から見ているという事。いやいや、おかしいって事がさすがに分かるだろ、と言えるのだと改めて私は痛感した。
そして、このカタクリ領でその真実を知るのは、カタクリ家や研究所などの王都から息がかかった人間一握、それから御父様と御母様…いやエカン=カタクリとシック=カタクリという、もうこの世にはいないはずの人間を演じてる人間のみだ。
「何よりも、カタクリ家そのものが王都に完全に乗っ取られている。そんな事誰も想像できないよね…」
とルクスが寂し気につぶやいた。
ルクスの言う通りでカタクリ家はとっくに途絶えている。だって本物のエカン=カタクリは殺されたのだから、生まれてすぐに。
エカン=カタクリとシック=カタクリは私達の本当の御父様と御母様ではない。
私達を管理している、血のつながっていない赤の他人なのだ。
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