第14話 推し襲来
フウリを送り出してから早1年と半年。
彼女は私達と約束した通り1人で無茶をしない範囲で色々な事を調べてくれていた。
1年に2度ある長期休暇に合わせて帰ってきた彼女からは様々な有益な事を知る事が出来た。
このまま無理をしない範囲で情報を集めて貰えれば大きな動きはないものの、私達が入学してからこちら側も有利に動始める事が出来るだろう。
というかもう十分すぎるくらいだった。だからお願いこのままフウリ無茶はしないで。
しかし、そんな私の願いは空しく私達の今後を大きく左右する大事がひっそりと動き出しており、その大事はすぐ目の前にやって来ていたのだった。
心から懺悔します。
あの時、ルクスが最推しであるフウリと初めて会い鼻血を出すほど喜んでいた時。
もし私が最推しにこの先出会う事になったとしても、きっとここまでじゃないだろうだなんて余裕ぶっこいていた事をここにお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした。
ルクス初め、各関係者の皆様にも重ね重ね謹んでお詫び申し上げます。
「あのぉ…もしも~し、ルトス~?生きてる~?お~い。戻ってきて~」
「あらら。ルトスったらかちんこちんね。こんな動揺したルトス初めてみたわ、ねタソガレ?」
「…そうですね」
「ん?その反応は…。あ、そうね。タソガレならこんな姿もよく見てるかしらね?貴方だけが知る色んな…そう、それはもう色んなルトスを見ている貴方なら」
「なんだかフウリ様、年々パワーアップしてませんか?」
「あら?そうかしら?」
「そりゃそうだよ、アカツキ!だってフウリはたった1人であの学園を生き抜いてるんだよ!強くもなるって!それに、ちょっとドS感が増したフウリもなんかいい!うん!」
「どえす…あぁ!タソガレやアカツキのような人をそう呼ぶって言ってたわね。でも…私は2人みたいに怖くないわよ?」
「いや、俺達以上だと思いますけどね」
待って、待って待って待って。何楽しそうに談笑してるの!?違うでしょ、確かに久しぶりに帰省したフウリと積もる話もあるでしょうけど、今はもっともっと大事な事が目の前にあるでしょうが!
「何能天気に話してるの…シヤコちゃんが困ってるでしょうが!!!!」
「あ。帰ってきた」
「シヤコちゃんはね、優しくて空気も読めて大人だから久しぶりの幼馴染達の会話を邪魔しないように黙ってくれてるけどね…本当はツッコみたくてツッコみたくて仕方がないに決まってるでしょう!そう、これはどういう事だって!!」
「わぁ凄い圧」
「私は説明したわよ。ここは私の故郷で今から噂の幼馴染に会ってもらうわって」
「いや、そう言う事じゃないのよ!それは説明したっていわないのだよ、フウリ殿!」
「お。ルトス、キャラ変わってる」
「大体、お世話になっている先輩のお誘いだから断ることも出来ずに急な避暑地へ出かけたと思ったら、その道中でいきなり避暑地ではなく今から私の故郷へ向かいますって宣告されて、そのまま前世の記憶を取り戻したおかしな幼馴染の話をぶちかまして、さらにそのヤバそうな幼馴染に会わせてるだんて!そんな急に色々受け入れられるわけないでしょ!!!?」
「うわぁ~すっごい早口。スイッチ入ったルクス様みたいだね、やっぱり双子なんだね、ね?タソガレ?」
「…俺に振るな」
「ちょっとルトス~そんなまくしたてたら余計シヤコちゃんひいちゃうよ~落ち着いて~」
ルクスに指摘されハッとする。確かに、私のせいで余計シヤコちゃんが困っているように見える。これはいけない!
「す、すみません、あ、あの…わわわわっ私はそのえっとあの…!」
あ。まずい、シヤコちゃんがこちらをしっかりと見つめている。あ。無理。かわいい。
もう何も考えられない。
「落ち着きなさいなルトス?」
「私は、その、えと、フウリの…おさ…おさなっな…幼馴染で、だから、あの」
無理だよ、もう名前すら名乗れない、どうしよう、どうしたら…!
するとその時、混乱してその場で動き回っている私の手に何か温かいものが触れる。
「あの…ありがとうございます。私の事気にかけてくれて。でも、大丈夫ですから…その…落ち着いてください、ルトス様」
「ぴ」
イマ、ワタシノナマエヲオヨビニナラレマシタカ?
「あ。完全にシャットダウンしちゃった…ま。しょうがないよ。あれはクリティカルヒットだわ。シヤコちゃん、恐ろしい人…!」
「え?え?あの…私」
「気にしなくていいのよ、シヤコ。よかったわね~ルトス、大好きな人に名前を呼んでもらって」
「えっと、でもルトス様がお帰りになるまでどうしましょうか。このままでは話が進められませんし」
「いいえ、大丈夫よアカツキ。今回の目的はもう果たせたわ。だから後はのんびりいきましょう」
「え?フウリ、それってどういう事?」
「ふふ。さぁどういう事かしら、ね?…リイヅ?」
意識がまだ朧気の中、私の視界に映ったその人物は優しく微笑んでいたが、その笑みはとても冷たく感じた。
「改めて、きちんとご挨拶させて下さい。先ほどはほんと~に、本当に失礼いたしました…。私はルトス=カタクリと申します」
「ルクス=カタクリです。ルトスの双子の妹です」
私はもう手遅れだとは思うが全力で恭しくシヤコちゃん達に挨拶をした。
「そしてこちらが私の専属護衛騎士タソガレ=キオス。その隣がルクスの専属護衛騎士のアカツキ=キオスです」
私の紹介に合わせて2人はシヤコちゃんの前に傅いた。
「私達と同じく双子なんです。お兄ちゃんがタソガレ、弟がアカツキ」
「そして、もうフウリが全てをお話したという事なのでもうご存知かと思いますが…」
私が部屋に置いていた籠に手をかけると2匹の黒い影が勢いよく飛び出してきた。
「きゅう~!!!」
「きぃっ!!!」
2匹はそのままフウリの勢いよく胸に飛び込む。
「カイ、マオ、ただいま、シヤコこの子達が2人の使い魔よ?可愛いでしょう?」
「こらぁ~…ここまでなんとか真面目にやってたのに~!!」
「2匹とも嬉しそう~フウリに会いたかったのは私達だけじゃないもんね」
くそう、可愛い顔してフウリに甘えて…叱りたいけどそんな顔されたら許しちゃうじゃない。
「と、とにかく!ご挨拶が遅れましたが以上が私達の前世について知る者たちです。よろしくお願いします!」
私はそのまま地面に頭がつくんじゃないかとばかりに頭を下げた
「頭をあげてください…私なんかに、ご丁寧にありがとうございます。…改めて私もご挨拶させてください。私はシヤコ=ラムと申します。フウリ様には何かと学園で助けていただいていて…そしてこちらが…」
「初めまして。リイヅ=キミキです」
出た。リイヅ=キミキ。シヤコちゃんに気をとられていたけれど、落ち着いて改めて彼を見るとなんというか底知れぬオーラに圧倒される。
私がこの人について詳しく知ってしまっているという事ももちろんあると思うけれどそれだけじゃない。今だってこんなにも誰が見ても人がよさそうな笑みで物腰柔らかく私達に挨拶してくれているのに、どこからか不穏な冷たい何かを感じる。でもその何かが分からない。タソガレとアカツキだって何食わぬ顔をしているように見えるけれどずっと警戒をとかず彼を監視し続けている。
「私とリイヅは同郷の出なんです。皆様のように本当に幼少期からという訳ではありませんので、その幼馴染というものとは少し違うかもしれませんが…」
知ってる。知ってるんだよ。シヤコちゃん。貴女が生まれてすぐに両親に売られて目をつぶりたくような酷い目に合ってきた事も、そしてその地獄からその横にいるリイヅと養父であるハツルパパが救いだしてくれた事も全部全部。もう知ってるの!
「シヤコ、フウリ様がおっしゃったのが本当なら、少なくてもルトス様とルクス様にはもう俺達の事全て知っていただいてるんじゃないかな?」
「あ、そっか…すみません」
「いいんです!!!そんな、私達前世でこの世界が舞台のゲームをしてました~だから皆の事知ってま~す!って言う方がおかしいんですから!!しかもそんな素っ頓狂な話を信じて欲しいだなんていわれても普通は気を疑うでしょうし!」
「そうだね、普通はそんなおとぎ話誰が信じるんだろう…っていうか私達、むしろ気持ち悪いですよね…本当にすみません…」
「あ、そんな…!確かにとにかく急すぎてちょっと混乱していますが…でも貴女方が謝る事では決してありません。フウリ様はこちらに向かう道中丁寧に一から全てをお話してくださいました。そしてそれが何故だか嘘だとは思えなかった…。だってフウリ様はそんな嘘をつくような方ではありませんから。…そして皆様に会って改めて思ったんです。このような方々が私を騙そうとするわけないと」
「え?」
「あら~ルトスの愛が伝わったのね。私、ルトスがいかにシヤコを愛しているかをたっぷりお話したから」
「マジか。恥ずかしすぎて泣けるんだけど」
「ドンマイ、お姉ちゃん」
「…先程もお伝えした通り、このお話が本当だとしてもまだ困惑していて上手く受け止められていません。だから、もっと詳しくお話を聞きたいです。私の未来の為にもこの計画に協力して欲しいとフウリ様はおっしゃいましたが…その…やはり…私の死が確実に待っているというのも…」
「…そうですよね、そんな不吉な話…嫌ですよね…本当ごめんなさい」
「いえ、それはルトス様達のせいではありませんから。とにかく、改めてお聞かせ願いたいんです。今何が起こっているのかを…それと…」
シヤコちゃんはそこまで言うとリイヅを睨んだ。
「…そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?フウリ様とリイヅの契約」
「え?契約?」
まさかの言葉に私はフウリを見やる。どういう事?契約って?
「もうご存知だとは思いますが…その、なんというか…リイヅは疑り深い性格というか、簡単には人を信じないといいますか、かなり厄介な性格でして…。特に身内が関わる事にはよりその厄介さが増すといいいますか…」
「おぉ。俺凄い言われようだね」
「私も一応彼から同郷のよしみで身内だと認識してくれているようで、何かと私に関係する事には厳しくて」
うん。それ同郷のよしみだとか身内だとかじゃなくてシヤコちゃんにぞっこんLOVEだからなんだけど。
「そして、リイヅは知っていたんだそうです。私よりも前に貴女方のお話をフウリ様から聞いて、既に協力関係にあった。だから今回の事だってリイヅは全て分かっていたんです」
「え?そうなの!?フウリ?そんな事、一言も…」
「だって検問されているかもしれないから手紙ではそんな事書けないじゃない?」
マジか。確かに、直接でしか情報のやり取りはしないと決めたけれど。…本当にしれっとかますよね…。
「でも、いくらフウリ様だとは言え、身内以外信じないリイヅが全てを受け入れて協力しているだなんて信じられなくて…。だから、私、聞いたんです。どうしてって…そしたら…」
「はい。ここからは私がお話するわね。結論から言うわね。…これを見て」
「ちょ!ちょっと待って!!!フウリ!?
話の主導をさらっと奪ったかと思えばおもむろに自分のブラスのボタンに手をかけて始めたんですけど!?
「フウリ?何を!?」
「大丈夫よ、胸の少し上までだから」
「いや、そういう事じゃなくて…え…?」
私は言葉を失った。露わになったフウリの身体に禍々しい紋章が刻まれていた。
「それ、まさか…」
「ここで問題です。【青ぐ】攻略キャラで呪術使いといえば誰でしょうか?」
「は…?」
「まさか…」
「はい、そのまさかです。ソユキ=ツユマ。実は彼もまた私達の協力者なの」
「…えぇ?」
目の前の出来事と、まさかの人物の名に私は再びパニックに陥っていた。
ソユキ=ツユマ。忌み嫌われている呪術一家の次男であり、普段は適当でちゃらんぽらんな性格だが、実際は周りをよく観察しており主人公を陰から支えてくれる兄貴タイプの実は男性ファンが多い攻略キャラだ。
「その話をするとまた話が長くなるんだけど…。リイヅに近づけたのも彼のおかげなの」
「どういう…?」
するとそこまで黙っていた渦中の人物がやっと口を開いた。
「俺、ソユキ君とは古くからの友人で何です。そしてずっと彼から呪術を教わってるんです。まぁ彼みたいに呪術の才能があるわけではありませんから、本当に簡単なものしかできませんが」
「嘘…?」
私とルクスは動揺のあまりお互い思わず見つめ合った。確かにリイヅとソユキは仲が良い設定だったけれど、リイヅとソユキは学園に入ってから初めて出会うはずだ。昔から知り合いでさらに呪術を習っていただなんてそんな設定はなかったはずだ。これはもしかして設定資料集で明かされるはずだった新事実なのだろうか?でも、それでもそんな事、今までなかったのに。
「で、この私の胸にある紋章はリイヅの呪術。もし私が彼を裏切ったらこの術が発動させて私に死の呪いをかける。つまり今の私はリイヅの掌の上。私の命を懸けて契約したようなのよ」
フウリはいつの間にかボタンを締め紋章を再び服の中に隠していた。
連続して起こる事実頭がついていかない。
「あぁ、そんな怖い顔を皆するのは止めて。安心して、今日皆に会って本当に心の底から得私の事を信じてくれたならこの呪術は解いてくれるって約束だし、私が彼を裏切る事はないから死ぬ事もないわ。それに実際ここに来てとりあえずは信じてくれたみたいだしね」
「…そうなの?って違うよ!何やってんのフウリ!?あんなに…あんなに無茶しないでって言ったじゃない!!」
「そうだよ、なんで、そんな恐ろしい事を勝手に…もしフウリの身に何かあったら私…私は…」
「心配かけてごめんなさい。でも、これが最善だと思ったから」
「フウリぃ…」
今にも泣き出しそうな私達を抱きしめ彼女は視線を本人に向けないまま話しかける。
「でもね、リイヅ、私の呪術まだ解かなくていいわよ。その方が貴方も安心でしょう?色々と」
フウリの言葉にリイヅは少し驚いたようだがすぐにそのままにっこりと微笑み返した。
え、何この2人怖いんだけど!?
「どうしよう、ルトス…私の推し、自分の死を回避したら強キャラになっちゃったんだけど…?」
「ははは…もう、どうしようね、これ…」
私達はいつの間にか強くなり過ぎた幼馴染の腕の中で苦笑いするしか出来なかった。
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