第4話 少し大きくなりました

前世では歳を重ねるごとに時が早く感じる、なんてよく話していたけれど訂正。

歳なんて関係なく時間というものは早く感じるものである。

気が付けば私達が転生してから4年という月日が経っていた。

前世での記憶が戻りたての頃は前世での自分に近い感覚を持ち、この【青ぐ】の世界で生きていることが夢ではないかと思っていた。

でも人は慣れる生き物で、前世の私と今の私、つまりルトスとしての私が上手く馴染んでいき、この世界で生きていることも真実なんだと受け入れられるようになっていた。

そして今日もまた幼馴染3人に真実を打ち明けた時のようにフウリの部屋に5人で集まっていた。

「では、今日の会議を始めましょう。まずはフウリ様前回お願いしていた件について…」

アカツキも、もう立派な司会者だなぁ。どこかのエリート会社の会議とか進めてそう…9歳だけど。まぁ、あれからこんな話し合いを約4年も続けているんだもんな、そりゃ上手くもなるか。彼のスムーズな進行を眺めつつこの【青ぐ】に転生してから今までの日々に想いを馳せる。





「ちょっと待って!?それじゃあ4年も何もしないって事!?そんな悠長な事言ってる場合じゃないってば!」

「ルトス様落ち着いてください。タソガレは考えも無しにそういう事を言っているわけではないんです。ね、タソガレ?」

「でも…!」

全てを打ち明けたあの日。早速今後について話し合いが行われた。

そしてその話し合いの中でタソガレが提案したのは私達が10歳になるまでこちらから動かない、というものだった。10歳まで動かない。それは事件まであと2年しか残らないという事。

ルトスが反発するものわかる。私だってその案には疑問しかない。

しかし頭キレッキレの策士キャラのタソガレ。

アカツキの言う通り何か考えがあってこんな事を言っているに違いない。

「…タソガレ、どういう事かちゃんと説明してくれる?」

「ルトス!」

「何も賛成してるわけじゃないよ、でもまずは話を聞かないと、ね?」

「…まぁそれもそうだけど…」

「ルクス、話を聞いてみましょう?ね?」

「…わかった」

私とフウリに諭され渋々納得したルクスに軽く頭を下げてからタソガレが話を始る。

「ルトス様、ルクス様、もう一度お伺いします。

 今お2人含め俺とタソガレは6歳。フウリ様は8歳。

 いわゆるその【青ぐ】というげーむではその頃のお話についてあまり語られていないという事で間違いないですね?」

「えっと…うん、さっきも話したけど、ヒロインの過去の回想シーンはよくあったけれど6歳の頃ってなかったんじゃないかな?テキストベースでポロっと話したことはあったような気がするけど」

「あと…大した内容じゃなかったと思う」

「ありがとうございます。

 先ほど御二方が教えてくださった、読むことが出来なかったという設定資料集なるもの…もしかしたら何かの情報がそこに書かれているかもしれないという可能性も大いにありますが、そこを考え出すとキリがありません。ですのでその点は一度置いておくとして、ここは空白の時代だと考える事ができます。ここまではよろしいでしょうか?」

「うん。なんとなく」

ルクスも頷く。

「空白の時代。つまり何も情報がない時代。ここでやみくもに動くのは得策ではありません。

 まずは状況確認、情報収集が重要かと」

「いや、それはわかるんだけど、けど4年も…!」

ルクスが反論しようとしたがタソガレはまっすぐ私を見つめ発言を続ける。

「先ほど、ルトス様もおっしゃいましたよね?6歳、8歳なんて小さい頃から、難しい事言われてもよくわかないだろうと」

「え?」

「そう、我々はまだ小さい。なんの力も持っていないひ弱な子供なのです。今我々が出来る事はかなり限られている」

あれ、ちょっと睨まれてる?もしかしてタソガレ君、さっき私が言ってしまった事根にもってます?

「タソガレの言うとおりだね。俺達にはまだ大きく動けるだけのすべを何も持っていない。

 下手に動いて事態が悪い方向へ転んでしまう可能性の方が大きい。それにどこにトラップがしこまれているかわかっていない状況なんだ、勝負はなるべく短く。時期を見極めなければいけないね」

「なるほど…そういう訳ですのね…」

あ、また3人だけで分かり合ってる。ルクスの頭の上にも大きな?が浮かんでいる。

理解が追い付いていない私達を察してアカツキがフォローを出してくれる。

「タソガレが言いたい事は、言い方を変えると4年の間に必要な情報全て集めて、その間に力を出来る限り力をつけ、そして4年後短期決戦と行きましょうという事です」

「…でも何で10歳?」

「我々、護衛騎士見習いが正式な騎士として認められるにはどんなに実力があったとしても最低でも10歳の誕生日を迎えなければならないんです。もちろん誰でも10歳になれば正式な騎士になれるわけではなくて、実力があるものだけですけどね」

「それも、相当な実力がな」

「…でも2人が護衛騎士見習いではなくて正式になったのは…」

「12歳…」

「運命を変えるために、貴女方を守るためにもっともっと強くなければいけないという事…。まずは12歳ではなく、10歳で貴女の騎士となってみせましょう」

タソガレが再度私に熱い視線を送る。顔に自然と熱が集まっていく。

「4年…つまり私達が運命に逆らうためにはたった4年、タソガレとアカツキの誕生日までしかないという事ね。

 なるほど、燃えて来たわね…私もあと4年で大きく成長して見せるわ」

「フウリ…」

「ルクス様。いかがでしょうか?これでもまだ俺の案は乗っていただけないでしょうか…?」

ルクスにみんなからの視線が集まる。

彼女はしばらく思案した後、小さく「わかった」と呟いた。

私だって悔しいけど今はそれしかないようだった。

「そうと決まればまず1カ月に1度こうして集まって状況報告と情報共有を行いましょう。

場所は色んな事を考慮して私の部屋がいいでしょうね。皆さんどうかしら?」

「フウリ様のおっしゃる通りでしょう。

では次回までに本日ルトス様とルクス様がお話になった【青ぐ】についてそれぞれが整理し、それに付随して現在の状況を報告する。というは?」

フウリとアカツキの提案に異論はなかった。

こうして、なんとか話がまとまり今後の指針が大きく決まる。上手くいくか分からなった真実を話すという判断も間違いではなかった。心強い味方を得て一旦胸をなでおろし、その後少し話し合った後に今日はひとまず解散という流れになったの時、私とルクスの前にタソガレとアカツキがひさまづく。

「え!?」

「急にどうしたの?」

突然の事に慌てる私達の手を取り、タソガレは私に、アカツキはルクスにそっとキスを落とす。

「俺は、必ず貴女が望む未来を手にいれてみせます」

「貴女の事は俺が守ります」

やばい。本物って破壊力が半端ない、ときめきもとまらない…!

思いがけず起こった乙ゲーあるあるシーンに私は固まるしかできなかった。

「せ、せめて鼻にちり紙突っ込んだ可愛くないときじゃないときにして欲しかった…」

ルクスがぽつりとつぶやくが

「何をおっしゃっているんですか?どんなルクス様も俺にとっては可愛い俺だけのお姫様ですよ?」

と殺人級の王子様スマイルで返すもんだから、こちらはもうお手上げだ。

そしてそんな完全にやられた私達の姿をみてフウリは

「あらあらリンゴみたいに真っ赤ね、可愛い」とほほ笑んでいた。





あれからもう4年も経ったんだなぁ…。

昨日のように思い出せるのに。

そうか…という事は…もうすぐか…。あの日が、来るんだ…。

「ルトス?大丈夫?先ほどからどこか上の空だけど」

12歳になり可愛い女の子から美しい女性へと成長したフウリに声をかけられ私はハッとする。

「ごめんなさい、ちょっと…考え事をしていて…」

「考え事?」

女の子の4年は大きいというけれどこの4年でルクスもあどけなさが残りつつも9歳には見えないほど美しく成長した。

フウリとルクスに心配そうに見つめられ、私は観念して素直に話す。

「…もう4年経つんだなって…あの日が…護衛騎士試験がもうすぐなんだなって…」

護衛騎士試験。そのワードを聞きルクスと同じく9歳には見えない精悍な顔立ちをしたタソガレとアカツキが反応する。

「…あと1週間ですからね。そこで俺達が過ごしてきた4年間の全てが大きく動き出す。

ルトス様が嫌でも考えてしまうのは無理がありません」

「いや、なんか…ごめんなさい。ちゃんと話し合いに集中しなくちゃいけないのに…」

「お気になさらないでください」

アカツキが優しくフォローをしてくれている傍から鋭い視線を感じる。もうこの視線を向けられるのも慣れたものだ。

「…タソガレもごめんなさい」

今ではこうして視線を送られるとこちらからアクションを行うようになった。

「ルトス様は…俺が、俺とアカツキが試験に合格するかどうか心配ですか?」

4年前にはわからなかった無表情なタソガレの気持ちも読み取れるようにうなった。

今だって傍から見れば不機嫌に見えるけれど、そうじゃない。私を気遣ってくれているだけ。

「…ううん。そうじゃない。それについては何も心配していないの…ただ…」

「ただ…?」

「いよいよだなって」

「いよいよ…」

「そう。私達が運命に立ち向かうために本格的に動き出す日がそこまできているんだって」

「うん。そうだね。私達はこの日のために4年間自分達で出来る事を全力でやってきたもの。

 絶対に無駄にはしない!」

ルクスが鼻息を荒くしてこぶしを高く上げる。

「じゃあそのためにも今日の会議を続けましょうか。

護衛騎士試験前最後の会議。今までで一番重要な会議と言っても過言ではないわ」

そうだ。今は過去を振り返っている場合ではない。フウリの言葉を聞いて気を引き締める。

今大事なのは過去ではなく未来なのだから。

「では話の途中になっていたゴワ殿の最近の様子ですが、やはりここ数カ月で急速にカタクリ家内での発言力が高まっています。不自然なほどに。正確な時期はわからなくても恐らくこのあたりではないかというルクス様ルトス様の推測が正しかったという事ですね」

「よかった。見張っていたかいがあったという事ね。という事はここ数カ月でゴワと接触していた人物をピックアップして…」

そこでルクスが話の途中で気まずそうに黙ってしまう。

「ありがとう」

そっとルクスの手を握るとフウリは決意を語る。

「大丈夫よ。本当は信じたくない気持ちもあったし間違いであって欲しいと思う事あった…誰かのためだとか、操られているだとかいろんな可能性も探った。

だけどこの4年間で得た情報。そしてここ最近の動きを見ても叔父様…いやゴワ=ウインドが自分の私利私欲のために貴女達を襲いその結果、私を殺す犯人で間違いないでしょう。…もう、自分の中で整理はついたの。だからルクス、続けましょう。私の事はもう気にしなくていいのよ」

全てを話したあの日、実は1つだけ話していないことがあった。

それは物語の重要なキーとなる、ゲームの始まり。ヒロイン2人の大切な幼馴染である少女が謎の人物から二人を守って命を落とすという出来事。

その謎の人物の正体が護衛騎士副団長でフウリ自慢の優しくて強い叔父さん、ゴワ=ウインドであるという事だ。

まだ8歳のフウリにその残酷な事実を伝える事が辛くどうしても話せなかったのだ。

しかし、フウリの強い希望もあってゴワの事を伝えたのはその2か月後。

フウリが泣くのを必死で我慢して聞き入れていた事を今でも忘れない。

「ゴワ殿は元々ウインド家の次男坊でカタクリ家でも位が高い方。そして指折りの剣士ですしその柔らかな人柄から相手の懐に入るのも上手い。誰かの力を借りなくても上の立場が約束されているような有能な人物です」

「しかし、ゴワ殿は次男。カタクリ家にいてはどうしても長男であるフウリ殿の御父上であり護衛騎士団長のリワ様がいらっしゃる。そしてリワ様には剣の腕も人望も到底及ばない。リワ様がいる限り、ウインド家の家督も騎士団長の座も手に入らない。だったらカタクリ家に留まることなく他の侯爵家、いや彼なら王都にでも出てしまった方が大成出来るでしょうに」

「事実、ゴワには王都からの引き抜きも多くあった訳だし、御父様もそれを勧めた。

でもゴワは決してカタクリ家から離れる事はなかった。カタクリ家への忠義と命を救ってくれた御父様への恩義といって」

「子供の頃に勝手に街の外へ出て魔物に襲われたところをギリギリのところでリワさんに助けてもらったって奴ね」

「ゲームでも一番最後のDLCで謎の男正体が明らかになるまでほとんどのプレイヤーがゴワだと分からなかったほど[めちゃくちゃいい人]として描かれているくらいだし」

「疑った一部のプレイヤーがゴワ謎の男説で考察しても全く信じてもらえなかったみたい」

「まぁ仕方がありません。ゴワ殿が望んだのは富でも名声でもないのですから。

彼が望んだのはフウリ様、貴女の御母様ユウリ様と2人だけの世界」

「そしてそのために、ゴワ殿はルトス様、ルクス様の覚醒という世界を混沌へと導く事になる計画に執着するのです。貴女を殺してでも」

「…叔父様が私に対して見せる優しさも愛情も全て嘘だという事は嫌なほどわかっているわ。私が死ぬなんてどうでもいい事なのでしょうね」

フウリは自嘲気味に笑う。

こんな顔フウリにさせてしまっているのは紛れもない私達だ。

何も知らなければフウリはゴアの真実を知らずにいれたというのに。

だけど、それだとフウリは死んでしまうかも知れなくて…。

あぁなんだか空気が重い、しょうがない。しょうがないけど…!中々上手い言葉が見つからずにいると

「ルトス!あの子…!もうあの子達しかいない!今、昨日のせいでまだ眠ってるから可哀想だけどしょうだない!」

同じくどうにかしようとしていたであろうルクスがものすごい勢いで私の肩を掴む。

[あの子]という言葉を聞き私もそれはいいアイデアだとものすごい勢いで頷く。

「ルクス!それナイスすぎる!いこう!それしかない!」

そして2人で勢いよくその場に立ち上がり3人を見据える。

「あの、2人とも?一体どうしたの?」

「ルクス様…?」

「…ルトス様まで…」

3人は呆気にとられているがそんなのは気にしない。

ルクスはわざとらしく咳払いとすると堂々と宣言する。

「私達、光と闇の力、覚醒しちゃいました」

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