第17話 続々登場

何だと…この私が、いや【青ぐ】廃人である私達が知らない建物が建てられている…だと!?

角度を変えてみても、少し離れて見ても、何度目をこすってもやっぱりこんな建物見た事ない。

そんな事ありえない。

だって【青ぐ】では探索モードなるものがあり、自分で自ら学園をあちこち動き回り色んなキャラと会話をしたり、謎を追いかけたりと様々な事が出来るのだがとこれが攻略の上でとても重要なポイントとなっている。

とにかく伏線が無数にちりばめられたこのゲームにおいて全てを回収するにはとことん学園の隅々まで探索しなければならない。

私達廃人は各出版者から発売された攻略本や有志による攻略サイトはもちろん、同志で知恵を持ち寄りひたすら無心でこの学園を探索し尽くしてきたのだ。

だからこそ全く見本を見なくても学園マップを作製できるプレイヤーは珍しくなかったし、私とルクスだってそっち側の人間だ。

なのに、そこまで学園全てを把握していた私達が全く分からない建物が今目の前に存在しているのだ。

もちろん本当に小さな建物だったらそういう事もあるかもしれない。

でもこんなご立派な、本来私達が入寮するはずだった女子寮よりも豪華な建物なんて見落とすわけないのだ。

これも、映画版だけのオリジナル設定なるものなの?

もうそうなってくると本当にこの先不安しかないんだけど…。

見知らぬ建物を前に青ざめている私達を見てフウリは満足げに微笑みかける。

「ねぇ、凄いでしょ?貴方達が入学するまでに間に合うか心配だったけど、なんとか間に合わせさせたの」

「ん?間に合わせ[させた]っていった?」

「えぇ。そうよ。だってこの建物を建てさせたのは私だもの」

「は?」

「言ったでしょ?私はこの学園の生徒会長であり模範最優秀特別生徒のフウリ=ウインドだって。今私はこの学園では特別な力を持ってるの。それも、この学園長に匹敵する、ね」

「…どうしよう。ルトス。我が推しフウリたんがなんかもう想像をはるかに超えて凄い存在になってるんだけど」

「ルクス、もうここは映画の【青ぐ】の世界でもなくなってしまってるか知れない…」

もしかしたら私達はとんでもない人物を黄泉から救ってしまったのかもしれない。

ただ空笑いするしかない私達はそのままフウリに強引に寮の中へ誘われるしかなかった。




これ以上驚く事ないかと思っていたのに中に入ると更なる驚きが待っていた。

「何、ここ…もう寮っていうか、1つのお屋敷じゃない…」

「しかもなんかここ…昔のカタクリ家に似てる…」

「あら、気が付いた?私自ら記憶を辿ってカタクリ家のお屋敷を真似てデザインしてみたの」

「…フウリの能力が凄すぎる事は一旦置いておくとして…なんでカタクリ家を?」

「だって二人とも、光と闇の力のせいでアガサの街やカタクリ家がどんどん強制的に変えられてしまった事に心を痛めてたでしょ?だからせめてここでは昔のように愛していた場所と同じように生活を送って貰いたかったの」

「フウリ…」

確かにここにいると無機質な軍事施設になる前の偽りだったとしても皆が笑って暮らしていた頃が蘇り、なんだか胸にこみ上げるものがある。

「それにここは貴女達と私達専用の寮だもの。愛し癒しの場所じゃなきゃね」

ん。待って。胸にこみ上げてきたものが一気に下がる。今なんて言いました?

「私達専用…って?こんな大きな寮…?というかお屋敷を?」

「えぇそうよ。ここに入寮出来るのは私と学園長が認めた者だけ。ルトスとルクス。それからタソガレとアカツキ。私とシヤコにリイヅ…っと。あと5名いるんだけど…それはお楽しみにしてもらった方がいいわね。安心して?全て事情を分かっている人間しかいないから」

「は…はぁ…」12

「待って待って、じゃあえっと…数えて…ええと…12人だけでこのただっ広いお屋敷を使うの?」

「えぇ、そうよもちろん皆個室。配慮として女性と男性は階を変えているからそこは安心して」

「いや、そこを案じているわけではなくてね!?」

「っていうかやっぱりここで男女一緒に生活するんだ。学園自体のルールさえも変えちゃってるじゃん…」

もうどこからどうツッコめばいいのやら。私達とフウリがまるで漫才をしているように質問と応対を繰り返しているとシヤコちゃんから助け船が入る。

「あの、フウリ様。積もる話は一度そのくらいにして、まずはお部屋にご案内してはいかがでしょうか?お荷物などお持ちになったままですし、長旅のお疲れや…その…突然の出来事等もあってお気持ちの整理も必要でしょう。準備を整えていただき、腰を据えてじっくりとお話した方が良いかと…」

さすが気遣いカンストのシヤコちゃん。ありがとう、それとても助かる。

「それもそうね!シヤコの言う通りだわ。じゃあ私は他の寮生達と貴方達の歓迎会の準備をしてくるわ!シヤコはルトスとルクスを。リイヅはタソガレとアカツキをそれぞれ案内してあげて?ルトス、ルクス、騎士の御二人、また後でね」

そう言うとフウリは足取り軽く屋敷の奥へ姿を颯爽と消していく。

いや、もう台風みたいな存在になったな。本当。

「では、いきましょうか?ルトス様、ルクス様?」

「あ、はい」

「お願いします」

とにかく今はまだ混乱しているがとにかく一息つかせて欲しい。だからここは素直にシヤコちゃんについていく事にしよう。

ちなみに、視界の端でタソガレとアカツキがリイヅと無言の冷戦を繰り広げていたがもう今は見ない事にした。





「俺はソユキ=ツユマ。俺の事は色々聞いてるらしいのでもうここでは割愛させてもらいますね」

「フウリ様と同じく生徒会に所属しております。アキノ=フォノンです。…私が御二人にとってイレギュラーであるという事はもうフウリ様から伺っています」

「グット=ヒィコです。アキノと同じく生徒会メンバーです」

「あ、そうそう、アキノとグットは恋人なのよ」

「ちょっちょっと!フウリ様!?」

「いいじゃな~いグット、本当の事なんだから」

「あの~すみません、この流れで非常に自己紹介しづらいんですけど…俺はスズネ=ヤキドです。俺も生徒会にメンバーです」

「タシム=オノダ。学年はフウリと同じで一応寮長という事にもなっている」

「あらタシム、大事な事が抜けているわよ。私の婚約者って事を言っていないわ」

「…いきなりその話はどうかと思うんだけど」

「何を言ってるのよ?とても大事な事なのよ?」

「あの!お待ちください!フウリ様、タシム様!その、あの、ルクス様とルトス様が…特にルクス様がその…突然不思議な声を上げられたと思ったらそのまま様子がおかしくなってしまって…!」

あぁ…シヤコちゃんの必死の訴えが近くにいるはずなのに遠くに聞こえる。

恐らくルクスはしばらくこちらへ帰ってこれないだろう…。だってまさかの最推しの婚約者発言を聞いたんだから…。

っていうか濃い…濃いのよ…濃すぎる!

たった5人から自己紹介してもらっただけなのにこんなに情報量が濃い事ある?

まず事前に聞かせれていたソユキ=ツユマ。

なんか話を聞く限りかなり重要人物っぽいから会うの緊張してたのに。しれっといるし…。

まさか、あの映画の主人公のアキノ=フォノンと早速ご対面…っていうかあのリイヅと同じように超人気キャラのグット=ヒィコとお付き合いしてるってどういう事!?シュジ=フデトとクハク=カヅはどこ行った!?

さらに【青ぐ】腐界隈で人気を誇るスズネ×グットはここでも健在なんですね…お相手いてもそこはセットなんですね…!?

そして何よりもタシム=オノダよ!攻略キャラじゃないけれどヒロインのお兄さんポジションとして不動の位置を確立していた貴方が、まさかのフウリとそういう関係になられるなんて!?ってかフウリいつの間にそんな良い人が出来たのよ!?もっと早く言ってよ!!!

「あらあら、久しぶりにこんな状態の2人を見たわ~懐かしい」

「…さすがに今回は御二人の気持ちが良くわかります」

「本当に…。ルクス様が完全にショートしてるのはほとんどフウリ様のせいですよ」

「あら、タソガレとアカツキにまでそんな事言われるなんて…珍しいものが見れたわ。

私、頑張って良かった」

いや、そこ可愛く、うふ。じゃないのよ、フウリ。

あぁやっぱりたった1人でこんな戦地に送るべきじゃなかったのかもしれない。

フウリがもう止まらないよ…。

「ルトス様、ルクス様」

それまでニコニコと場の行く末を見守っていたリイヅから私達に声がかかり思わず構える。

ルクスもリイヅにはやはり散々ゲーム内でのトラウマがあるからなのか少しだけこちらへ帰って来れたようだ。

「色んな事があり、少々混乱されてしまうとは思いますが…まずは俺からこれだけ共有させてください」

少々、ではないけどな、と心でツッコミをいれつつ静かに頷く。

「まず大前提として、貴女方の前世の事、アガサの街で行われてきた事、これから起こる事、貴女方が目指す事…ここにいる寮生は全ての事を把握しています。

それから貴女方が作られた攻略本と呼ばれる書物の方もしっかりと熟読済みです。その上で、貴女方が目指す未来の力になりたいと集った者たちです。その事は信じていただきたい」

「…なるほど…それはすごくありがたい事ですけど…」

「そして恐らく今は聞きたい事ばかりでしょうから、まずは我々が一方的に話すよりも貴女方からなんでもに聞いてください。嘘偽りなく全てお答えします。…それに全て解決しないといつまでもそちらの御二人から俺は命を狙われてしまうので」

「…別に狙ってなどいない」

「そうだよ、人聞きの悪い。ちょっとダメかなって思ったら動こうとしてるだけだし」

うん。物騒。

っていやそうじゃなくて…そうだよね、一方的に情報で殴られてもまた頭がパンクして終わってしまうだけだし、こっちで整理しながら聞きたいことを一つ一つまとめていった方が良いかもしれない。うん。そうとなったら。

「ねぇ、ルクス、こっち帰って来てる?意識ある?私もリイヅの言う通りその方が良いと思うんだけど、まずは何か聞きたい事ある…?」

話しかけてよく見てみるとルクスは小さく口をパクパクさせて何か言いたげである。

「ルクス…?大丈夫?何か言いたいことがあるの?」

「…ら」

「ら?」

「どっちから…」

「ん?」

「どっちから告ったんですかぁぁぁぁぁぁぁっ~~~~~~~~~~!?」

「あ。やっぱりまだダメだった」

「しばらくはルクス様のターンですね」

「この感じも懐かしいわね」

「いや、何悠長にされてるんですか…貴女自身の事ですよ?」

「こらそこ!!幼馴染ズ!何こそこそ楽しそうに会話してるの!?今先生大事な話をしてるとこなんだからちゃんと聞きなさい!」

「幼馴染ズって何。いつからそう呼んでるのよ…それに先生って…」

「はい!静かに!で、どうなの!どうなの!どうなんだい!!!」

「ふふっ…ちゃあんとタシムから想いを告げてもらったわよ」

「いやぁ…本当にフウリが言った通りの展開だな…」

「だから何度も言ったじゃない。ルクスは私の事が大好きで[さいおし]なんだからって。

 きっとこういう事になるわよって~貴方だって覚悟しておくって言ってたじゃない?」

「それはそうだけど…」

「はい!そこ!先生の前で勝手にいちゃいちゃ始めない!なんかタシムの前では普段見れないフウリたんの乙女顔が見れてもう可愛すぎてどうしようってなっちゃうし、そもそもフウリがタシムを選ぶところなんてもう解釈一致すぎて私的最特なんだけど、まだ早いの!まだ何だか早いんだよ!わかる!?わかる!?」

これは時間かかるな。ま。気持ちは痛いくらいにわかるから好きなだけやって貰うとして。

「あの、リイヅ…こんな感じ、恐らく暫くは続きますけど…大丈夫かな…」

私はリイヅが気になってこっそり彼に耳打ちする。

するとリイヅは【青ぐ】プレイヤーの多くを沼に落とした爽やかな笑顔とどこかにエロスを感じる囁き声で応えてくれる。

「それが、貴女方が望む事なら」

あぁ。ヤバイ。こりゃ人気ナンバーワンにもなるわ。

「それから、ルトス様、俺から少し離れた方がよろしいかと」

間近でリイヅの笑顔の眩しさとイケボを食らってしまいくらくらしていると、私にリイヅが忠告してくれる。彼が指さした方向を見てみると殺気に満ちたタソガレがこちらを凄い形相で睨んでいる。

ア。ヤッテシマッタカモ、コレ。

私がタソガレから受けるであろう恐ろしく甘いお仕置きに少し体が震えている後ろではルクスのフウリ達への追及は続いていた。

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