第7話天河弁財天
天河弁財天
それからしばらくして、ようやく身動きが取れるようになったちあきさんが、
「天河弁財天社に行こう」
と言いました。
荷物やバイクはそのままです。
まだぐったりしているあゆむをだき抱えて車に乗せ、他のメンバーも何台かの車に分乗して、天河弁財天社へと向かいます。
あゆむは車に乗せられる時、
「さっきのヤツが、こっちをにらんでる」
と言っていました。
少し離れた所から、にらみつけていたそうです。
私は、自分の車には大阪人の守り神、住吉大社のお守りを乗せています。
あえて自分の車はその場に残し、帰りにバイクが事故を起こさないようにと、
お守りを通して、バイクを守ってもらえるようにお願い申し上げてあります。
今度は、これから向かう天河弁財天社に向かって、二礼二拍手一礼と、これから神社に向かうことを申し上げました。
実は、私のお守りを残していったのには訳があって、バンガローの中で聞いた”ドン”という大きな音は、メンバーの乗ってきたバイクが無人で走り出し、ドアにぶつかった音だったのです。
確かにほんの少しバンガロウに向かって下りにはなっていますが、気をつけなければ解らない程度の傾斜です。
そして倒れたバイクは、無残にタンクが凹んでいました。
そして、来た時よりも少ない台数の車で、私達は天河弁財天社へと、逃げたのです。
夜中の、真っ暗な、細い山道を走る車列。
その、最後尾の車に乗っていたあゆむは、
「あいつが、追いかけてくる」
と、言っていたそうです。
私は、弁財天社へと向かう車の車窓から、土手に白い花の群生を見ました。
その白く輝く白い花は、びっしりと群生していて、その形、陰影は、二メートルはある巨大な般若の面に見えました。
そこに、真っ白な、巨大な般若の能面が、置いてあるように見えたのです。
根拠はありませんが、そこからが弁財天社の領域で、それは狛犬のようなものなのか、弁財天からの魔を断つお迎えなのだと勝手に理解しました。
だからもう大丈夫なのだと。
芸能の神様としても有名な天河弁財天社は、天河伝説殺人事件でも知られているとおり、弁財天社にはお能が奉納されます。
能で般若と言えば、恐ろしい形相の女の鬼ですが、
般若心経があるように、梵語では知恵や清浄の意味があります。それは安心感へとつながりました。
また不思議なことに、荷物を取りにその道を戻ったときには、その花は、もう無かったのです。
弁財天社に着いた私たちは、まず、
「大きな木のそばに連れて行ってほしい」
と言うあゆむの頼みで木のそばに行きました。
しばらく時間をすごした後、自分で歩けるようになったあゆむやメンバー全員で、神殿におまいりしました。
その頃には、もう夜は白々と明け、天河弁財天社は明るくなっていました。
夜が明けた事で、全員がこれで終わったのだと思いました…。
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