第10話地獄送り

地獄送り



 HondaVF750Fでプチツーリングを楽しみながら、ご機嫌で一番乗りした私は、当然外へと移動しました。

もう、蚊帳の外です。


 小さくなった車座の中央にはあゆむが座り、何かを念じています…。

「えぇい、うっとおしい、逃げ回るな!」

 どうやら霊は逃げ回っている様です。

 あっ、捕まえた。と思った瞬間あゆむが、ぐっと力を入れたようなデスチャーをしました。

「はぁーっ。そっかぁ。こーゆう事かぁー」

 あゆむが、何か一人で納得しています。

 そして、一息置いて、

「終わったよー」

と、あっさり終了を宣言したのです。


 えっ、もう。霊ってすごい数じゃなかったの?

という感じで全員がきょとんとしていると、

「例の焼けた中年男な、あいつ捕まえて、無理やり送り込んだら、他のやつら自分から付いて行きよった。

待ってくれぇ~って感じやったで」

 そう言うと、その絵ずらがおもしろかったのか、一人でケラケラ笑っています。


「送り込むって何」という質問に、

ニッっと笑いながら、


「地獄送り」


とだけ答えました。


 この手の人たちは、大抵、秘密としか言わないので、絵が浮かびそうな一言だけでも大収穫です。そして、地獄送りにされたあの霊達は、もう二度と戻って来れないと言うのです。


 でも、

「こんな事が出来るんやったら、あの時してくれたら良かったのに」

誰もが思うクレームが入ります。

「ちゃうねん、あの時は出来へんかってんてっ。

天河から帰ってすぐ、『ちょっとおいで』って師匠に呼ばれたんよ。

まだ何も言うてへんし、分からんと行って見たらな、

石段の上で、腕組んで仁王立ちしててさ、

『…なんで、あのままにしてきたぁー!!』って、

めっちゃ怒られて、

あたし、昨日まで修行させられててんから…」

 とほほな顔であゆむは事情を説明します。


 師匠。

「ほんとにあった怖い話」の退魔師あゆむシリーズでは、あゆむは高野山に預けられていた時期が有ると書いてあります。

 でもそれだけです。

 仁王立ちが似合う僧兵みたいなごつい僧侶。

 仙人みたいな老師。

 八百比丘尼みたいな尼さん。

 尼僧でそれは無いやろうって言うほどのセクシー美人、でも眼光の鋭さにはゾッとさせられる霊能者。

 私達は、好き勝手な想像を、する事しか出来ません。


 あゆむの、数日間の過酷な修行の上に、私達はちょこんと乗っかって、天河怪談の後始末を、あっけなく終えたのでした。


天河怪談に限っては。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る